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佐賀の「ツタヤ図書館」論争に Tカード履歴転用に懸念

[掲載]2012年06月06日

 レンタル大手「ツタヤ」が来春から、佐賀県武雄市の市立図書館の運営を任される。ポイントカードを図書館カードとして導入、年中無休で夜遅くまで開館といった、時代に即した使いやすさを売りにする。一方、日本図書館協会は先月末、利用者の貸し出し履歴が図書館業務以外に使われる可能性を指摘し、批判の声をあげた。
 設立11年の武雄市図書館が来年4月、大きく変わる。休館日がなくなり、開館時間は現在の夜6時までから夜9時までに延長。館内には休憩ができるカフェがつくられ、雑誌や文具の買い物も楽しめる。
 同図書館の利用者数は年間約25万5千人。近年、微減傾向のため、休館日を減らすなど対策をとったが、仕事帰りの会社員や若者らの利用が少なかった。そこで武雄市は5月、「ツタヤ」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に管理を委託する計画を発表。議会の同意が得られれば、今年秋から改修工事を始める予定だ。
 武雄市の樋渡啓祐市長は「公立図書館が、単なる貸本屋になっている現状こそ問題なのではないか。より多くの人が使いやすい文化施設を目指す」と意気込む。CCCへの委託で、年間1億4500万円の運営費が1割少なくなる「コスト削減」のねらいもある。
 利用者の「お得感」を重視するのも特徴だ。市と同社が5月に公表した合意には「Tカード」の導入を明記した。全国のツタヤ約1400店やコンビニエンスストアなどで使えるポイントカードだ。「1冊かりると1ポイント」(同社広報担当者)得られる仕組みの導入や、貸し出し履歴からわかる読書傾向をもとに、図書館側が「おすすめの本」を利用者に伝える機能の導入も検討している。
 買い物客にとって特典となる一方、小売企業にとってもTカードに蓄積される行動履歴は、消費者の動向を知ることができる有用なデータベースになる。
 ところが、計画が発表されると、Tカードを巡り批判が噴出した。全国2357図書館などが加盟する日本図書館協会「図書館の自由」委員会の西河内靖泰委員長は「利用履歴を漏らさないというのは公共の図書館の原則だ」と批判する。協会が定める「図書館の自由に関する宣言」には、履歴をプライバシーと明記、外部に漏らさないとある。
 西河内氏は「行政が利便性のために、個人情報を企業に売っていることになる。それが公共図書館と言えるのか」と疑問を投げかける。
 同協会は先月30日、正式に懸念を表明。市や同社が打ち出すサービスの多くを「図書館の基本的サービスとは無関係」と指摘した。
 一方のCCC側によると、新しい武雄市図書館では、図書館カードとして、従来のカードかTカードのどちらかを利用者が選べるようにするという。(高久潤)
     ◇
 〈河井孝仁東海大教授(地域メディア論)の話〉 公共図書館の利用者は顧客ではない。Tカードの導入の是非は、結局、利用者が図書館をどう使っていきたいかによる。サービスのリスクと便益を参加者として考え、一緒につくっていく必要がある。

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