兵庫県内に住む山田さん(仮名)。
去年12月、県内で1人暮らしをしている81歳の母親が、ある投資トラブルに巻き込まれていることを知りました。
<山田さん(仮名)>
「『これだけお金を預けたら、月々4万から5万払われますよ』という話なんです。聞いたとたんにおかしいと思いました」
母親の説明では去年10月、金融サービス業を名乗る男性2人が自宅に訪問。
「銀行より金利がたくさん付く商品がある」などと勧誘を受け、およそ3か月間で総額1,900万円を投資したというのです。
自宅には、「CO2排出権取引」と書かれたパンフレットが・・・
<山田さん>
「CO2の取引のこととか、月々何パーセントとか書いてあるんですが、本人(母親)は全くそういうことは理解していないんです」
そもそも「CO2排出権」は個人が取引きするような金融商品ではありません。
しかし、これを言葉巧みに利用する悪徳業者が後を絶たないことから、国民生活センターが契約を結ばないよう注意を呼びかけています。
しかも、投資経験のなかった母親は詳しい内容について、業者側から説明を受けていなかったというのです。
(Q.CO2排出権ってわかります?)
<山田さんの母親(81)>
「そんな事は教えてもうてません、これ書いてあるようなことは。そんなことやなしに、ましなように言わはったから…」
山田さんは、「必ず儲かると誤信させた上、取引の実態があるかも疑わしい」として業者に返金を求めましたが納得できる回答を得られず、現在、警察と相談しながら詐欺罪で告訴する準備を進めています。
業者の販売方法に問題はなかったのか?
取材班は東京にある業者の本社を訪れました。
ところが、その住所には無関係の会社が・・・。
パンフレットに記載された連絡先に電話を掛けましたが、業者は取材には応じず、弁護士を通して次のようなコメントを寄せました。
「取引も実際に行っていて、契約内容やリスクについても理解していただいた」(業者のコメント)
国民生活センターによりますと、高齢者が投資トラブルに巻き込まれるケースは年々、増加していて、9年前に比べておよそ20倍になっています。
中には、判断力が低下した認知症の人が、高額な投資をしていたケースもありました。
判断力の低下した高齢者が巻き込まれる投資トラブル。
その件数は年々増えています。
東京都に住む豊田さん(仮名)。
4年前、義理の父親の義男さん(仮名・89歳)が、数十万円から数千万円単位で投資信託を購入していることを知りました。
<豊田さん・仮名>
「ひとつの投資信託が確か2,400万。それがリーマン(ショック)で当時800万円になってて。1本で、こんな大きな投資信託を勧めること自体が、それが800万円になってしまうものは決して安全なものではなかったですし。それは、ちょっとびっくりしました」
当時、義男さんは資産のほとんどを定期預金で保有していましたが、8年前から突然、銀行や証券会社との間でリスクの高い投資信託を短期間で売買し始め、一時、数千万円の損害が出ていたことが分かったのです。
義男さんはちょうどその頃、物忘れなどがひどくなっていて病院に行ったところ、認知症と診断されたということです。
義男さんは現在、当時の売買についてほとんど覚えていません。
<豊田さん>
「投資信託、最初した頃、覚えていますか?」
<義男さん・仮名>
「覚えてないな〜」
<豊田さん>
「覚えてない?投資信託してたこと」
<義男さん>
「投資信託してたのは覚えてるよ。でもほとんどしてなかったと思うな」
<豊田さん>
「そんなしてなかった?」
<義男さん>
「うん」
<豊田さん>
「じゃあお父さん、どうやってお金、管理してたの?」
<義男さん>
「そりゃ家内がやってたし」
<豊田さん>
「お母さんが亡くなってから?」
<義男さん>
「えっ?家内亡くなってから?」
<豊田さん>
「お父さん、やってたの」
<義男さん>
「私がやってたの?ふーん」
当時、豊田さんは銀行や証券会社に対して、判断力の低下した義男さんと直接交渉しないよう申し入れました。
しかし、ある証券会社は再び営業にきたといいます。
豊田さんは、その時の交渉を録音していました。
<営業マン・録音>
「一通りの説明やってますんで、すぐに注文を出すような形でいきますんで」
<義男さん・録音>
「はい」
<営業マン・録音>
「とりあえず800ですね」
<義男さん・録音>
「うん」
<営業マン・録音>
「890」
<義男さん・録音>
「うん」
<営業マン・録音>
「語呂のいいところで880」
<義男さん・録音>
「うん」
<営業マン・録音>
「末広がりなんで」
<義男さん・録音>
「うん」
<証券マン・録音>
「それで買い付けの方したいと思うんですが」
<義男さん・録音>
「うん」
投資信託の購入を勧める営業マン。
義男さんは、ただ相づちをうつだけで買い付けは進んでいきます。
<営業マン・録音>
「では一応、手続き終わりました」
<義男さん・録音>
「あ、そうですか」
<営業マン・録音>
「それで、あと細かい金額につきましては来週しか分からないので、また来週連絡します」
<義男さん・録音>
「あ〜、そうですか」
買い付けが終わってから、わずか5分。
営業マンが帰ろうとしますが、義男さんは買付けしたこと自体を忘れてしまっているようです。
<義男さん・録音>
「そうすると今日は?」
<営業マン・録音>
「買付けをしました」
<義男さん・録音>
「へエッ?」
<営業マン・録音>
「えっと、今」
<義男さん・録音>
「これから、買付するということ?」
<営業マン・録音>
「いや、今しました、電話で…」
<義男さん・録音>
「あー、そうですか…」
<営業マン・録音>
「今、上司が電話しました時に。それでもう、全部売りと買いができましたんで」
しかし、この営業マンは、そのまま自宅を後にしました。
<豊田さん>
「大手であるがゆえに、父はずっと信用してましたし、80過ぎてその内容を理解できるかどうか、もうちょっと突っ込んだ質問してくだされば、間違いなく(理解していないと)わかったと思う」
豊田さんは、おととし6月、この証券会社を含む金融会社2社に対して「原告の無理解に乗じた売買で説明義務を果たしていない」などとして、損害賠償を求めて提訴。
今年3月、この証券会社が600万円を支払うことで和解が成立しました。
証券会社に取材を申し込むと、次のような回答を寄せました。
「当社として、事実の内容を十分精査した上で、適切に対応させていただきました」(証券会社のコメント)
投資トラブルに詳しい弁護士は、こうした被害を防ぐには家族の協力が欠かせないと指摘します。
<太田賢志弁護士>
「完全に防ぐのは難しいかもしれないですが、周りの家族が見てあげるのと法的には『成年後見人制度』を利用していただいて。財産管理、身上監護等を後見人が責任もってやっていただくのが、1つの予防策になる」
「成年後見人制度」とは、認知症などで判断力が低下した高齢者のために、親族らが、家庭裁判所に財産や契約の管理を行う人を決めてもらう制度で、後見人に選ばれた人は貯金や不動産の管理はもちろん、福祉サービスの契約を結んだり本人が無断で結んだ契約を、取り消すこともできます。
このほか、自分が元気なうちに前もって自分の財産を管理してくれる人を決めておく「任意後見人」という制度もあります。
豊田さんは、今回の被害に気づいた直後に家庭裁判所に「成年後見人制度」を申し立て、自らが後見人となる決定を受けました。
<豊田さん>
「それ以降の被害はありません。家族が異変に気付いた時は、かなり重大な決意はいるんですが、後悔しない手立てだと思います」
認知症など判断力の低下した高齢者が増加する中、本人だけでなく家族も含めて財産管理の対策を事前に考えておくことが不可欠です。
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