3─0。日本がオマーンに楽勝した。実力3番手と目されるイラクが、ヨルダンに引き分けたため、日本が予選を突破する確率は、初戦を終えただけで大きく上昇した。それはそれで、喜ばしいことだが、予選を通過するか否かのスリル、ワクワクドキドキ度は減退した。エンターテインメントとしての価値をむしろ下げる結果となった。

 レベルの低いアジアに4.5枠は不要。フランスW杯当時の3.5枠で十分。FIFAに訴えたくなる。予選は楽勝。親善試合の相手はアゼルバイジャンレベル(しかもホームで)では、日本代表は強くならない。チーム力は、強い相手と対戦し、悔しい敗戦を繰り返さないと向上しない。ウィークポイントは浮き彫りになりにくい。このオマーンなら五輪チームをぶつけた方がよほど強化になる。

 というわけで、オマーン戦の採点です。

GK 川島 採点不能。相手のシュートは記録上1本。ピンチらしいピンチほぼゼロ。

DF 長友 6.5 香川とのコンビネーションをもっと追求するべきだった。

DF 今野 6.5 難しいプレイ、活躍の機会はほとんどなかった。今野は基本的に守備的MFの選手だ。ザッケローニもその多機能性を称賛している。こうした試合では、わずかな時間でも、そのあたりの可能性を追求するのも手だ。ザッケローニは後半41分、遠藤に替えて細貝を投入したが、例えばそこで交替相手をセンターバックのサブ(栗原)にしてみるのだ。栗原を今野のポジションに入れ、今野を遠藤のポジションにあてがう。日本のウィークポイントはセンターバックの層の薄さにある。使える選手を1人でも多く育てる必要がある。少なくとも慣らすには、もってこいの試合だったと思う。

DF 吉田 6.5 少なくとも1年前より、安定して見える選手になった。

DF 内田 5 彼がボールを受けると、プレイの流れは途端に滞った。岡崎との関係も希薄。チームメイトからの信頼も得られていない様子だった。1人蚊帳の外といった感じで、見ていて少しばかり辛かった。

MF 長谷部 6 もっとゲームをコントロールするプレイ、ゲームの仕切るプレイをして欲しい。プレイそのものに余裕がない感じ。自信が漲っていない感じがする。

MF 遠藤 5.5 下がってボールキープをすることが多い本田と、キャラが被っていた。よく取り沙汰されるのは本田と香川の関係だが、この試合に限っては、本田と遠藤の関係の方がしっくりいっていないようだった。遠藤そのものの動きに精彩がなかったことも事実だが。

MF 香川 6.5 変に真ん中に入りたがる従来の癖は見られなかった。そのポジションに適応したプレイが、チームのバランス維持に貢献していたことは確かながら、アタッカーに不可欠な冒険的なプレイは少なかった。悪くいえばミスを恐れた慎重なプレイが目立った。求められているのはノリノリのプレイ。そのノリの善し悪しに日本の浮沈は掛かっている。

MF 本田 7 前半は高い位置でプレイしていたが、後半はポジションを下げキープの主役としてプレイ。良くも悪くも本田ジャパンになっていた。相手が強豪で、苦しい時間帯にそれをしたのなら、頼りがいのある存在に映るが、相手がオマーンのような場合は、必ずしもそうは映らない。球離れのよいプレイをした方が、日本のよさは表現できる。そしてそのあたりをコントロールするのが、長谷部の役割なのではないかと僕は思う。

MF 岡崎 6.5 チームに活気を与えていたことは事実。岡崎の活躍とチーム及びスタンドの盛り上がりは比例の関係にある。そして、彼の実力も、見るたびに上昇している。まさに頼もしい存在だが、この4—2—3—1の3は、優秀な選手がひしめいているポジションでもある。交替で投入された清武に限った話ではない。岡崎がどこまで頑張るか。その他の候補者がどこまで台頭するか。その争いが熾烈になるほど、日本の攻撃力はアップする。

FW 前田 7 楽勝のゲームで、センターフォワードがスタメンフル出場するケースは珍しい。それほど前田はよかった、チームにフィットしていた。後半6分の2点目は、そのトラップ技術の高さを証明した彼らしいゴール。あれを見せられるとハーフナ—に出番はない。

※ 交替選手
DF 酒井 6 内田よりずいぶんよかった。弱者を上から見下ろすプレイができていた。しかし、アーリークロスには疑問を感じた。選択が安全策に見えた。交替で入って、体力的に余力があるのだから、ゴールラインまで行って、鋭角に折り返す勇敢なプレイをして欲しかった。より決定的なシーンを演出することが、レギュラーへの道、ワールドクラスへの道だと思う。単純なアーリークロスは、世界的には凡庸。3—4—1—2時代のウイングバック(ウイングハーフ)的な、一昔前のプレイに他ならない。

MF 清武 6 出場時間は17分+2分。その中で岡崎以上のプレイを見せることができたかといえばノー。可能性は感じるが、それを形にすることはできなかった。

MF 細貝 採点不能 出場時間は4分+2分。これでは採点はできない。ザッケローニは、少なくとももう5分早く彼を投入すべきだった。

※ ザッケローニ監督 6 可もなく不可もなく。問題は1年前とスタメンに変わりがないことだ。日本サッカーはこの間、動いていないことになる。この予選の中で、動かしていかないと、岡田監督時代と同じ運命を辿ることになる。この時期にスタメンを固めると、最後に失速することは見えている。これから現在の11人をどう崩していくか。この予選は「絶対負けられない戦い」ではあるが、4.5枠もある緩い戦いだ。実はテストはしやすい環境にある。いま最も問われているのはザッケローニの代表監督としての器に他ならない。

 最後にお知らせを。来る6月8日、僕の書き下ろしの新刊がPHP研究所から発売されます。

「ドーハ以後」ふたたび 世界から見た日本サッカー20年史

 98年5月、それまでの4年半の出来事をまとめた「ドーハ以後」(文藝春秋刊)を刊行してから14年、いま改めて日本サッカーを振り返ると「当時はよかった」と思わずいいたくなります。当時の日本サッカー界は、いまより断然盛り上がっていました。W杯のアジア枠が拡大し、予選突破が当たり前になった今日の状況が恨めしく感じられます。今予選でオマーンに3—0で順当に勝利を収めると、なおさら「あの興奮をふたたび」の思いは強くなります。

 その思いを込めて448ページに及ぶ長編大作??を書いてみました。ソフトカバーですが、手に取るとずしりと重い一冊です。

「悲劇よ、ふたたび」。正直に言えば、この思いになります。「ドーハの悲劇」に匹敵する劇的かつ鮮やかな敗戦を、来るブラジルW杯本大会で拝みたい。その現場に立ち会いたい。そうした思いのほどを、ぶつけてみたつもりです。
 ご興味のある方は。ぜひ。


それから、もう一つ。
※トークイベント開催のお知らせ
杉山茂樹 シークレットトークライブ! Vol.1
「ザックJAPANに言いたい放題!」
・主催 FM西東京
・開催日  6月10日(日)
・開催場所 世田谷ものづくり学校 2-A教室(301)
(154—0001東京都世田谷区池尻2—4—5 TEL03—5481—9011)

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・開演時間 14:00(16:00終了予定)開場13時30分
・参加費 2000円

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