今年も定期便だったタケノコが送られてこない。親類の住む千葉県木更津市内のタケノコから、新基準の一キログラム当たり一〇〇ベクレルを超える放射性セシウムが検出されたためだ。福島第一原発から、ゆうに百キロメートル以上離れているというのに…。
福島県富岡町に住んでいた知人のSさんは、いわき市で避難生活が続く。自宅は立ち入り禁止区域なので近づけない。どれほどの人たちが日々の生活を狂わされていることか。これが原発「安全神話」の現実だ。
それでも産業界からは電力不足が続けば生産拠点を海外へ移さざるを得なくなると、原発再稼働を迫る声がやまない。野田佳彦首相は、こんな声に押され、まずは福井県の関西電力大飯原発3、4号機の再稼働を最終判断するという。
福島を教訓にドイツが脱原発を決断したのに、当の日本は惨状を横目に原発依存に舞い戻る。ドイツでは原発に代わる太陽光発電の設備が日本の五倍、二千五百万キロワットに達した。いかに安定電源に育てるかの難題を抱えるが、将来のエネルギーに果敢に挑んでいる。
彼我の差は何が理由か。造船会社首脳が「産業人は福島を分かろうとしない」「除染ボランティアを引き受け放射能の恐怖を知るべきだ」と解説してくれた。
隣人らとちりぢりになり、最低の衣食住しかない環境に置かれた人たちから目をそらしては、首相のいう脱原発依存は掛け声だけに終わる。 (羽石 保)
この記事を印刷する