麻薬に似た症状があって危険な「脱法ドラッグ」の販売が広がっている。乱用や事故は後を絶たず、死者まで出た。国は新たな規制強化に乗り出すが、命を守るあらゆる取り組みを急いでほしい。
健康被害は出ても、法で麻薬として取り締まれないのが「脱法ドラッグ」である。その薬物が、若い命を奪った。
ことし二月、名古屋市内のマンションで脱法ハーブを吸ったとみられる二十代の男性が突然死した。四月は横浜市で、これも二十代男性が死亡。ハーブらしい植物片を吸った後だった。
五月に東京都渋谷区の路上で倒れ、死亡した三十代の男性にもハーブ使用の疑いがある。大阪市内で短時間に立て続けに六件の事故を起こし、二人が重軽傷を負ったひき逃げ事件は記憶に新しい。
ハーブなど聞き心地のいい名で売られる脱法ドラッグは麻薬のような幻覚、興奮作用がある。急性症状では呼吸停止や心筋梗塞を起こす。命にかかわる危険薬物だと訴えてきた(昨年十二月五日付社説)だけに、残念でならない。
厚生労働省は薬事法の指定薬物(六十八種)で規制している。東京都など条例で独自の取り締まりをする自治体もある。たまに逮捕者も出るが、対応が後手に回ってきたのは明らかだ。販売業者は薬物の成分をたくみに変えては法の網をかいくぐってきた。
脱法ドラッグを店頭やインターネットで扱っている業者は、二十九都道府県で三百八十九に上る。三月末時点の同省のまとめだ。東京、大阪、愛知など大都市圏に多いが、全国に分散し、自動販売機まであるのには驚かされる。
同省は五月、指定薬物のうち幻覚や依存性が明らかな四種を麻薬に格上げ指定する方針を決めた。
輸入前に前倒しで違法指定することや、成分構造が似ていれば、ひとまとめに網をかぶせて規制する「包括指定」導入の検討にも入った。先んじている英国など諸外国の事例検討や薬物の成分分析などで取り入れるには、まだしばらくかかりそうだが。遅きの感はあるが、これらはスピード化や水際阻止など脱法ドラッグの取り締まり強化につながるはずだ。
人間は弱い存在だ。誘惑にもかられやすい。現に治療にあたる依存症専門医によると、脱法ドラッグは中学生にも及んでいる。
大麻や覚せい剤などへの「入門薬物」とされる脱法ドラッグ。くどいほどの啓発、健康被害の回復への態勢づくりも欠かせない。
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