チャイナ・ウォッチャーの視点

ラビア・カーディル総裁に聞くウイグルの「いま」(前篇)

有本 香 (ありもと・かおり)  ジャーナリスト

企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。執筆者は、富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)、城山英巳氏(時事通信社中国総局特派員)、平野聡氏(東京大学准教授)、森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)、三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)。

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 その答えの一端ともいうべき別のエピソードが、総裁以外の人から聞こえてきた。先月の本コラムでも紹介した、世界ウイグル会議の執行委員長ドルクン・エイサ氏の弁である。ドルクン氏は、実の弟が投獄された経験をもつ。それはまったくの冤罪であり、明らかにドルクン氏への報復、見せしめであったと氏は語り、当時トルコにいた氏は、弟の逮捕後に母親と電話で話した際のことを明かした。

 「弟の逮捕は、トルコにいた私を訪ね北京へ戻った直後のことでした。弟を帰すべきではなかった、との後悔もあり、私は母との電話口で泣いてしまった。そんな私に母は、『母親の私が泣いてないのに、なぜお前が泣くの?』といいました」

 無実の罪で逮捕され、あるいは殺された幾多のウイグル人にはそれぞれ母がいる。「ウイグルの母」と呼ばれるラビア総裁は、そうした強き母たちの代表でもある。

靖国を表敬訪問したカーディル総裁に対し……

 余談だが、日本国内では、大会開会の日にラビア総裁が靖国神社を訪問したことなどが伝わると、ウイグル支援者の間でもその「賛否」で意見が分かれた。ネット上の一部では、不毛とも思える応酬が見られたりもした。そこでは、「靖国」と聞けば反射的に挙がる、「右」「左」の論争が形を変え展開されていた。「右」からは「ウイグル人の靖国参拝は天晴れ」との声が挙がり、「左」からはこれに対する批判の声が挙がり、「日本の右翼が世界ウイグル会議を政治利用し、ウイグル側は日本の右翼に媚びている」との声もあった。

 むろん良識的な声も多くあり、後者からは、靖国へ行ったことへの報復の矛先が無辜のウイグル人に向き、激しい弾圧に及ぶのではないか、との懸念があった。私自身は、靖国を否定する、いわゆる「左」向きの者ではないが、この懸念は同じくしていた。また、本コラムの執筆者の一人である石平氏は、「『世界ウイグル会議は日本の右翼と結託し、中国人民の感情を傷つけた』という共産党のプロパガンダに利用されかねない」という懸念を示した。世界ウイグル会議に参加したウイグル人の一部からも同じ懸念の声は聞かれた。

 インタビューの日、靖国の件はまったく話題にしなかった。が、冒頭ラビア総裁から出た、2009年以降の厳しい状況から今大会開催への決意に至る話を聞くうち、靖国に関し日本人から挙がった声のすべて(筆者自身の懸念も含めた)が、どこか的外れなもののように思えてきた。目の前の「ウイグルの母」は、すべてを引き受ける覚悟でここにいる。それは、すべてを予想し、「想定内」として落ち着き払っているのではなく、たとえ予想し得ない事態が起きても、引き受ける覚悟をしている、と感じられた。

さらなる「ラビア糾弾キャンペーン」が始まった

 総裁はあくまで冷静に、別の件を切り出した。

→次ページ 国内にいるウイグル人との連帯方法

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有本 香(ありもと・かおり)

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企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

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