東南アジアやオーストラリアから日本への輸送は一週間程度であるのに対し、米国東海岸からは30日近くかかる。工事の遅延や航行規制でパナマ運河を通れなければ、地中海からスエズ運河を経由することになる。さらに日数がかかり、調達コストの上昇要因となる。
拡張後の運河の航行基準は、パナマ運河当局が今後公表する見通し。拡張しても容量20万立方メートル超級の大型輸送船は通れない。海運関係者によると、球形のタンクを載せたモス型と呼ばれる輸送船は、先方の視界が悪く、運河通過で規制を受ける可能性があるという。立方形タンクを載せたメンブレン方式の輸送船は欧州や韓国で使われるのに対し、モス型は日本の造船会社が得意とし、日本の電力・ガス会社が多く利用している。
さらに見通せないのが、米エネルギー政策の行方だ。
「政策決定プロセスの途中にあるが日本のエネルギー安全保障は米国にとっても重要。引き続き協議していきたい」。4月末の日米首脳会談で、米国産LNGの供給を求めた野田佳彦首相に、オバマ米大統領はこう応えた。
米国からの天然ガス輸出には米政府の許可が必要だ。自由貿易協定(FTA)締結国には自動的に認められるが、非締結国は個別の許可が必要となる。オバマ大統領が急ぐ日本に明確な言質を与えなかった背景には今秋の米大統領選挙がある。
オバマ政権としては、国内エネルギー価格の上昇につながりかねないガス輸出に今は触れたくないのが本音。安い天然ガスを石油化学産業の原料として利用する動きが広がり、国内産業優先を理由にLNG輸出に否定的な声もある。少なくとも大統領選挙が決着する今秋まで、「対日輸出許可は出ない」(日本政府関係者)とみられている。
米国では10プロジェクト以上、合計1億トンを超えるLNG輸出計画が進行中だが、「すべての事業に輸出許可が出るとは考えにくい」(同)。エネルギー関係者は対日輸出が始まっても「エネルギー資源は戦略物資。米政府も自国利益を最優先し、都合の良い時だけ輸出すると考えるべき」と過度の期待を戒める。
シェールガスの台頭は、東日本大震災後の日本のエネルギー政策見直しとちょうど重なった。原子力発電の将来は不透明。再生可能エネルギーの実力にも不安が残る。間を埋めるのは化石燃料しかない。その中でも二酸化炭素(CO2)排出などの負荷が低い天然ガスの役割は急速に高まっている。
シェールガスという「黒船」が、LNGビジネスに与える衝撃は大きい。全面的に期待をかけるのではなく、その弱点も折り込みながらLNG調達のポートフォリオを広げ、既存輸入先との契約を有利に変える“てこ”としていく発想が必要だ。
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三菱商事、住友商事、三井物産、LNG、シェールガス、東京ガス、オバマ、野田佳彦、FTA
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