■これは同感できるG情報■


朝日新聞(2011年4月21日)


[耕論 3.11想定外 オピニオン]


   市民が自ら科学武装を


             東京大教授・藤垣 裕子(ふじがき ゆうこ)さん


(その1)G研のコメント


 東京大学の藤垣教授のご専門は科学技術社会論。こういう専門分野があるとは 知らなかったが、原子力のように社会になかなか受け入れられない科学技術があ ることは確かだから、先生のご活躍もこれからますます多忙になるだろう。

 さてそういった先生の分析は我々原子力屋も大いに参考にさせて頂かなければ なるまいが、とくに「市民が自ら科学武装を」というタイトルに惹かれて拝読し だしたのは確かである。

 「今回の震災や原発事故は『想定外』だったといわれます。しかし、地震で 原発の電源喪失が起きることを想定した研究はあったんですね。昨年10月、 経済産業省所管の原子力安全基盤機構が、電源喪失の何時間後に圧力容器が 破損するといったシミュレーション結果を公表しています。でも、現実に起 こるとは、原子力安全・保安院も東京電力も想定しなかった。想定が二重構 造になっていたんです」

 電源喪失の原因が認識できなければ、電源喪失そのものを想定することはなか なか難しいと思われる。つまり、想定される地震による最大震度と最高津波を基 準にして、そこから余裕を持たせて安全設計が確立されるのだが、襲ってきた地 震そのものが「想定外」とされるなら、安全設計そのものも崩れてしまうことに なる。

 原子力安全基盤機構が行った電源喪失のシミュレーション結果が妥当なもので あったとしても、その電源喪失に至った原因が、例えば今回のように「想定外の 高い津波」と指摘していないなら、その対応は難しいだろう。

 電源喪失の原因が津波によるものと絞れるなら、そのシミュレーションの結果 を地震予知の専門機関に示して、想定される津波の高さを確認する必要があった のではないだろうか。

 ただ電力会社が発電所の「電源喪失」を当然として想定できたかといえば、難 しかったかも知れない。何故なら如何なることが起ころうとも重要施設には停電 させないという自負があったのではないだろうか。したがってバックアップの発 電装置であるディーゼル発電機の設置にどれほど真剣に検討されたか、疑わしい 点もなきにしもあらずである。

 「岩手県釜石市では津波のシナリオを作成し、避難訓練をしていました。で も、想定をはるかに超える津波だったために、避難訓練通りに避難していた 人が多く亡くなりました」

 我々原子力屋も釜石市の方々同様、津波の高さを想定して安全設計に臨むのだ が、その津波の想定は大規模地震対策特別措置法によってオーソライズされた地 震予知連絡会などの勧告に全幅の信頼をおいていたことも確かである。

 信頼しきって避難訓練をしてきた釜石市の方々は多くの命を落とされ、同様に 地震予知連や地震学会を信頼して安全性に取り組んできた原発は大事故を引き起 こしてしまったということである。

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