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'12/6/3

飲酒運転の根絶 総合的な取り組み必要

 飲酒運転をゼロにするには、どうすればいいのか。掛け替えのない命を奪う事故が今なお繰り返されている。

 警察に飲酒運転で摘発される人への厳罰化は進めてきた。しかし、その手前で食い止める予防策こそ求められているはずだ。こぞって知恵を絞りたい。

 飲酒運転の車が痛ましい事故を引き起こすたびに罰則は強化されてきた。

 東京の東名高速で女児2人が犠牲となった事故を受け、より罪の重い危険運転致死傷罪を2001年に新設。06年には福岡で追突された車が海に転落し、幼児3人が水死。翌年に懲役や罰金を大幅に厳しくし、同乗者も罪に問えるようにした。

 この10年、中国地方で自動車やバイクが起こす飲酒運転の事故は大きく減ってきた。

 11年は、岡山132件▽広島111件▽山口37件▽鳥取29件▽島根21件。いずれの県も02年に比べ、半数以下になった。厳罰化の効果といえるだろう。

 だが、死亡事故が根絶したわけではない。広島市で昨年5月、16歳の崇徳高2年三浦伊織君が自転車で帰宅中、飲酒運転の車にはねられ亡くなった。運転していた男は危険運転致死罪で懲役10年の判決を受けた。

 三浦君の両親は、福岡県がこの春施行した飲酒運転撲滅条例を、広島でも制定するよう県議会などに要望している。

 悲しみにくれる家族をこれ以上、出してほしくないという思いを重く受け止めねばなるまい。誰もが加害者や被害者になり得るからだ。

 飲酒運転を繰り返す常習者への対策が何より重要だろう。三浦君をはねた男も引き止める周りを無視し、ハンドルを握った揚げ句の事故だった。

 その点、福岡県の条例は参考になる。前文で「飲酒運転による検挙者の半数が再犯者と推定される」と強調している。

 家族や知人が酒を飲んで運転したり、飲食店やタクシー会社が客の飲酒運転を見つけたりした場合、警察に通報するよう努力義務を課している。

 飲酒運転で2回摘発された人には9月から、アルコール依存症かどうかの受診が義務付けられる。守らなければ、5万円以下の過料を負うことになる。

 飲酒運転の常習者にはアルコール依存症患者が多い実態に着目したのだろう。

 厳罰化では飲酒運転をやめられない依存症患者の傾向を裏付けた学会調査もある。治療や教育面での支援策が欠かせまい。

 常習者には受診や自助グループである断酒会への参加について、家族はもとより職場や地域でも勧めてもらいたい。

 摘発を機に、警察が医療機関や断酒会につなぐ仕組みづくりは考えられないだろうか。

 ドライバーの息からアルコールが検知されれば自動車のエンジンがかからなくなる。そんな装置は既に開発されている。国の立法措置を含め、自動車メーカーも標準装備に加えるなどの抜本的な対策も検討すべきだ。

 スウェーデンは車への装着を義務化する取り組みを進めているという。ドライバーの利便性や費用がかさむ問題もあるが、選択肢の一つだろう。

 飲酒運転常習者への治療と教育。ソフトだけでなくハードも。条例制定の検討と併せ、総合的な対策を進めたい。




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