正月の深夜にNHKで放送された地味な討論番組に、若い視聴者を中心に異例ともいえる反響があった。続編の放送も決まっている。「成功」の秘密はなんだったのか。
Eテレで元日夜11時から3時間にわたって放送された「新世代が解く! ニッポンのジレンマ」は、哲学者の萱野稔人、評論家の荻上チキ、社会学者の水無田気流ら12人の論客に加え、司会の堀潤アナウンサーまで、全員が1970〜80年代生まれだった。バブル崩壊後に社会人となった当初から、不況のあおりを食ってきた世代だ。
若年層が直面している格差の原因や打開策を6時間に及ぶ収録で語り合った。糸井重里、猪瀬直樹らもツイッターでつぶやくなどしてネット上で大きな話題をさらったほか、NHKには1千件のメールや電話が寄せられた。多くが10〜30代からだった。動画サイトでは「ニッポンのジレンマのジレンマ」といった、番組をネタにして自主的に議論する若者たちも現れた。
番組は書籍にもなり、萱野は「世代間格差の問題を正面からとりあげたことが最大の意義だった」と感想を寄せる。人事コンサルタントの城繁幸は「同じ目線を持つ世代で語り合えたのは新鮮だった」と語る。
記者が収録をみて印象に残ったのは、互いを尊重して建設的に話そうとする雰囲気だ。プライドをかけてけんか腰で他者を論破しようとする人はいなかった。一時怪しい雰囲気になりかけたが、堀アナが「ちょっと雰囲気が田原(総一朗)さんの番組に近づいてきた……」とすかさず口をはさんで場を収めた。
上の世代が同席していないせいか、「非正規雇用の夫婦共働きで子供2人を育てるくらいの基準で社会のOS(基本ソフト)を作り直すべきだ」といった若い世代では常用されているIT用語が普通に使われるなか、「上の世代を説得するしかない。だって数では勝てないもん」と本音も出る。若い世代が結集した解放区がそこにあった。
一方で番組を見た75年生まれのフリーライター赤木智弘さんは「番組に関心を寄せた若者の中には、『既得権益の内側で若者にゆがみを押しつけながら、彼らの味方であるかのように振る舞うオヤジ』と同じ精神性を持った人たちもいたのではないか。上から目線で応援のふりをするのは簡単ですから」と指摘する。
第2弾は「決められないニッポン 民主主義の限界?」と題し、31日夜11時55分から2時間にわたって放送される。(田玉恵美)