原発防災計画に難題続々 舞鶴市暫定案
東日本大震災と福島原発事故を受け、舞鶴市が新たにまとめた市地域防災計画(原子力防災編)の暫定案に対し、市議会や住民から厳しい声が相次いでいる。最悪の場合「全市避難」を想定するが、町内会単位で集まりバスで移動する方法しか示さず、要配慮者への対応なども不十分な内容に、再考を求める意見も目立つ。防災に取り組む市民らの指摘や議会のやりとりから主な問題点を考えた。
■集結場所
市の案では、小中学校など23カ所の集結場所を定め、全市避難の際もまず町内会単位で集結した後、大型バスで避難するという。
この結果、多くの集結場所で対象人数は4千人を超え、志楽小では5741人、白糸中は6331人。先月の市議会原子力防災・安全等調査特別委員会では「1カ所でそんな大人数を収容できるか」との指摘が相次いだ。市危機管理・防災課は「長くいるわけではない。なるべく入ってほしい」と答弁。「高校や高専、その他の国や府の施設は緊急時にも利用できないのか」と疑問の声が出た。
■避難方法
バス活用計画について同課は「車で逃げたいという気持ちは分かるが、交通渋滞や事故の危険が高まる。交通規制をしてでもバスを基本とする考え」と強調した。
しかし最大で延べ2千台が必要になるバスの手配は「未定」、避難先も「亀岡以南で府などと調整中」。同委員会では「現実的に不可能では」「マイカーや船の活用の検討を」と全員が見直しを求める意見で一致した。
「京都の原発防災を考える会」代表の舞田宗孝さん(68)=同市観音寺=も「『マイカー規制』で思考停止していることが問題。舞鶴は地理的に避難が難しい点を踏まえ、一部の道路が使えない事態も想定し、多様な方法を探るべき」という。
■要配慮者
入院患者や障害者、乳幼児、高齢者など災害時要配慮者についても「府と市、施設が連携して調整する」との記述にとどまる。
舞鶴市は府北部で唯一「福祉避難所」の取り決めがなく、市内の障害児者の家族でつくる「つなサポ運営委員会」事務局長の橋本伸子さん(45)=同市行永=は「移動時の支援や薬の確保などの具体策もなく、どう動けばいいか分からない」と困惑する。「福島でも移送ミスで患者が亡くなった。もっと明確な記述を」と同委員会でも注文が出された。
■即避難区域
国の新方針では、原発5キロ圏内を「重大事故後直ちに避難する」と決定。市案は松尾、杉山地区を対象に挙げるが具体策は触れていない。「これでは30キロ圏内と避難の手順がどう違うのか」と同委員会でも指摘が出た。
対象を単純に距離で区切った点にも異論が強い。舞田さんは「田井や成生、野原地区は10キロ圏だが、避難には原発に近づくルートしかない。府が発表した放射能拡散予測でも高濃度汚染の範囲で、早期退避が欠かせない。冬は、積雪が多い地区も対象に含めるべき」と提言する。
■住民の意見吸い上げて
このほか情報伝達や被ばく医療体制の整備などにも指摘は多い。市は「状況に応じて柔軟に対応したい」というが、府危機管理アドバイザーで舞鶴災害ボランティア支援センターを立ち上げた石橋裕志さん(43)=同市吉野=は「市の案では、計画が成り立たない場合の備えが見えない。行政だけで抱え込まず、対話型の説明会を開くなど住民の意見を吸い上げる努力をしてほしい」としている。
【原子力防災計画】 福島原発事故を受け、政府は防災対策の重点区域を半径30キロ圏に拡大した。舞鶴市は、高浜原発では市全域の約8万8千人、大飯原発では伊佐津川以東と白杉地区の約6万3千人が対象。今回暫定案は市ホームページに掲載され、5日まで意見を募集中。月内に開く市防災会議で決定する。本編策定は当初10月の予定だったが、国の計画策定の遅れを受け、大幅にずれ込む見通し。
【 2012年06月03日 11時19分 】