武雄市の新・図書館構想

 武雄市の新・図書館構想について日本図書館協会が見解を発表。出された論点はいずれも大事なものだと思う。公立である限り、今の法制度を前提にする限り正しい論点だとおもう。 しかし、図書館の機能、住民目線に徹するならば、武雄市の構想にはあまり問題はないのではないか。例えば我々は本屋で本を買い、クレジットカードを使う。どこで何を買って何を食べたか、個人情報を垂れ流して生きている。本人同意があれば問題ないのではないか。また、そもそも民間に委託したら民間人が誰が何を借りたか、知ることになるという考えたかも民間をバカにした発想だ。守秘義務があるだろう。守秘義務違反を恐れていたら業務委託できない。そもそも公務員が個人情報を漏えいさせることだってあるだろう。
 だがこの問題、本質的にはそもそも地方自治法の「公の施設」という規定そのものを廃止すすれば消える。「指定管理者制度による自由化」という発想自体が狭い。そんなのは各自治体が自由に決めればいいのだ。完全自由化したらいい、そうしたら住民判断、議会の判断という形で真剣な議論が起きる。市役所VS図書館協会の論争になるとしたら不毛だ。住民そのっちのけでつまらない制度論が巻き起こるのは本末転倒。

 以下はIT MEDIAより引用。
5月上旬、佐賀県武雄(たけお)市が公立図書館の運営をTSUTAYAなどを手掛けるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に委託、来年4月にオープンさせると発表したことは記憶に新しい。

 雑誌や文具の販売コーナーを設け、従来の図書利用カードの代わりにTカードで貸し出しを受けられ、さらにTポイントも貯まるなど、「重要な手段として展開する付属事業」によって市民価値の高い施設を作っていこうとする志の高い取り組みといえるこの動き。しかしその一方で、貸し出し履歴など図書館利用の情報が本来の目的以外に利用されることにつながらないかといった個人情報保護の観点からの懸念など、公共サービスである公立図書館のあり方として問題はないのかといった指摘も少なくない。

 現在武雄市では協議が進められており、6月中にCCCとの協定を締結・公表する予定だが、5月30日、日本図書館協会(JLA)がこの動きに対する見解を発表した。

 日本図書館協会は今回の動きを「図書館の運営上重要な課題」としているが、その中で大きく6点「解明されるべき」項目を挙げている。この中では、CCCを指定管理者とする根拠、そしてその選定プロセスに十分な説明責任が果たされていないと指摘。さらに、指定管理者の自主事業と委託事業(ここでは図書館事業)を混同しないよう求める総務省の指摘を支持しており、雑誌販売や文具販売、あるいはTカード、Tポイントの導入といった付属事業とされているものが本当に図書館サービスの改善に役立つのか、そしてそれはCCCの自主事業と混同されてはいないかを問うものとなっている。

 また、争点の1つとなっている図書館利用の情報については5番目に言及がある。利用者の個人情報(貸出履歴)は指定管理者であるCCCに提供される可能性があると指摘。図書館の管理・運営上の集積される個人情報は、本来の目的以外に利用されること自体を想定しておらず、「利用者の秘密を守る」ことを公に市民に対して約束している公共図書館の立場からは肯定しがたいとした。図書館運営と無関係に、指定管理者の企業の自主事業に活用するために提供できることか、慎重な検討が必要だと促している。

 厳しい見解が並んでいるが、協会ではこれらの解明を通じてよりよい図書館づくりとなることを期待し、そのための支援、協力を行う表明であると結んでいる。[西尾泰三,ITmedia]

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登録日:2012年 05月 31日 08:19:03

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プロフィール
上山信一
(男)
慶應大学総合政策学部教授。大阪市生まれ54歳。専門は企業・行政機関の経営戦略と組織改革。都市・地域再生も手がける。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。国交省政策評価会(座長)、大阪府と大阪市の特別顧問、新潟市都市政策研究所長、日本公共政策学会理事、各種企業・行政機関の顧問や委員等を兼務。府立豊中高、京大法、米プリンストン大学修士。著作等 ツイッター@ShinichiUeyama
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