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■世界との違和感を抱えて
『オレンジ・アンド・タール』 著・藤沢周(光文社文庫・520円)
「しっかりとドロップアウトしよう」と思った頃に出会ったのがこの小説です。芸人になろう、という僕の出発点と重なります。
大学生の頃、金髪やアフロだった友達が突然リクルートスーツを着て、就職活動を始めました。悪さもしていた彼らが当たり前のように社会人になっていくのが、一貫性がないように見えて、自分には違和感がありました。良い大学に進み、良い会社に入るのが幸せって、本当にそうなのか。ずっと疑問でした。でも、そんな違和感に共感を持ってくれる人もいませんでした。
藤沢周先生の作品は、芥川賞受賞作の『ブエノスアイレス午前零時』から読んでいます。孤独な男の人が多くて、世界と自分の間にある膜への違和感が、どの作品からもにおいます。
この小説に登場するトモロウさんを、高校生のカズキは、江の島の弁天橋下で「ダンボール生活」をする伝説のスケートボーダーと信じています。でも、本当のトモロウさんは、県議会議員の息子で、不始末も父が金で解決してくれる。トモロウさんは家を飛び出し、大学を中退して、橋の下で生活をしています。
最初に読んだときはカズキに共感しました。生きていく上でのロールモデルを求める気持ちとか、大人への嫌悪感とか。2、3年すると、自分と世界との違和感を常に感じているトモロウさんに共感が移っていきました。
右足、左足、全てのタイミングが合うと「オーリー」というジャンプが決まる。世界と自分がぴったりくる瞬間が小説には書かれていて、自分も以前スケボーをやっていたのでよくわかります。この感覚がすごく好き。漫才で受けるのにも近い。けれど、その回数はすごく少ない。世界に承認されたという感覚の少ない人間にとって、世界との違和感が強いからこそ、この小説がぴったりくるのかもしれません。
テレビで紹介したら、高校生や大学生から届くファンレターに「読みました。でもわからない」と書いてありました。就職の厳しい今の世代には、トモロウさんは自分探しをしているイタイ人に見えるみたい。震災が起きて、飯を食える、暖かい場所で寝られる、それが幸せだ、という価値観が、日本全体で強くなっているときに、余裕のある悩みと見えるのかもしれません。
でも、自分の中では世界との違和感はずっと続いているテーマなのです。こんなに共感する本はなかった。人生で1冊といえば、やっぱり、これです。(構成・中村真理子)