投機〜金:豊田商事事件

 斬殺される永野会長
 バブル以前、1980年に豊田商事の会長である永野一男が、テレビカメラの前で惨殺される事件が起きます。
金取引を装って全国の年寄りから2000億円といわれる金を毟り取った豊田商事事件こそが、バブル時代の投機の本質にあったように感じます。
永野会長は殺される前に、「世の中は情報化が第4次産業になると騒いでいるが、次は第5次産業である投機の時代が来る」と予言しました。

金の延べ棒

 バブル時代の投機の主人公は、株、不動産、絵画の3点セットと言ってよいでしょうが、いずれも虚構の取引であり、数千億円単位の莫大な金、素人を騙し煽り立てる手口、暴力団の濃い影、新宗教まがいが入り混じった奇妙な、フェティシズム的な行為であったことです。それらを日本のトップ企業群が率先してやってしまった、非常に多くの人間を巻き込んだところに、このバブル時代の投機の特徴があります。

 投機をする人間は、非常に多くの場合、1回のビキナーズラックで止めることはできない。手にした報酬の大きさに幻惑され、リスクを忘れ、熱狂の中に飛び込んでいく。努力よりも、駆け引きと出し抜くことに、全精力を傾ける。そのためには嘘もつくし、騙すことも平気になる。人の金と自分の金の区別がなくなるのも特徴の一つです。騙される方が悪いのだと居直る悪、犯罪の持つ怪しげな魅力に吸い寄せられていくのです。
 そこには金を得た後、何がしたいのかは、何もない。ただ、金持ちの模倣のみがある。女性が好きで女を囲ったわけではなく、ホテルが好きでホテルを建てたのでも、良い家に住みたいがために不動産を購入したわけでもなく、絵が好きだから絵画を購入したわけではない。ただ、成功した金持ちと言うブランド、あるいは次に値上がりする、金の鵞鳥になると思ったものを所有する快感であり、終わってしまえば荒廃した心象風景しか残らない。
 それが次の時代、バブルの前後に起きる新宗教の時代に引き継いでいくことにはなりますが、金儲けをしていない私が言うべき言葉ではありません。