雑多な賑わいを見せる職業神の神殿に、思わず疑問を零すスレイ。
そんなスレイに、学園に通えないような子供や、外から来て基本的な技能も持たずに探索者になったような人間に色々と教える職業訓練所の役割も果たしている事を説明するリリア。
ふと、酒に酔った赤ら顔の男が寄ってきてリリアに声をかける。
公爵家の息子を名乗ったその男は、リリアに突然婚姻を迫る。
うんざりした様子のリリアに、言葉を挟むスレイ。
そんなスレイに男は酔っ払いの中に紛れていた屈強な男5人を呼び寄せる。
「何を考えているのよダグ!この神殿で騒ぎを起こすつもり?そんなことをしてただで済むとでも」
リリアの言葉に父が公爵だから問題無いと、現実を見据えていない答えを返すダグ。
5人の男達が剣を抜くも、闘気術で手の固さを強化し、魔力操作により剣の原子構造を分解した結果、スレイは手刀で5本の剣を斬り落とす。
そこへ駆け付ける無造作に腰まで伸ばした金髪と碧眼が美しい、白皙の麗人たる神殿騎士。
ダグと五人の男達は陳腐な捨て台詞を残して逃げ出す。
呆れたような雰囲気が満ちる場に入った神殿騎士は戸惑いを隠せない。
神殿騎士としてのジュリアに与えられた宿舎の個室。
先程起こった事を聞き、興味深げにスレイを眺める神殿騎士ジュリア。
ジュリアは探索者カードの見せ合いを提案する。
ジュリアのカードを見ながらこれが一流と呼ばれるS級相当の探索者の能力値だと説明するリリア。
明確に彼女以上の探索者となると世界中に知れ渡るSS級相当の探索者か、レベル99まで到達した『称号:勇者』ぐらいのものだろうと告げる。
「そうなのか?」
「ええ、それに選ばれた一部の人達以外は、レベル80未満で成長限界に到達してしまうから、レベル81でまだ成長の余地のある彼女はかなりのものよ」
納得するスレイに、ジュリアが驚いたような声で問いかけた。
「スレイ君、君は無職なのに闘気術と魔力操作の両方を扱えるのかい?これは驚いたな。それならあの状況も納得できる」
ジュリアの言葉に、リリアが魔力操作とは何かと質問する。
魔力操作についてリリアに説明するジュリア。
スレイは何故公爵家の息子とやらがここに居たのか尋ねる。
リリアは次男だから一旗上げようと取り巻きを連れて迷宮都市にやってきてると答え、ジュリアは笑いながら、リリアに一目惚れしたのも理由のようだねと補足する。
そして先程のダグの様子に不思議そうにするスレイに、実力も性格も目標に見合っていなければああなってしまうという典型だ。大人しく父親から一部の財産を相続して自分に見合った人生を楽しく生きれば良いと思うんだがね。と辛辣な言葉で話をしめくくった。
あれから、スレイに非は無いので好きにしていいと言われたので、スレイは一人クラスアップをする為の受付へとやってきていた。
番号を呼ばれ、剣士へのクラスアップを望む旨を伝えたスレイは赤い札を渡され奥へと進むよう案内される。
奥にはいくつかの扉があり、一人の男がいた。
赤い札を渡すと、剣士へのクラスアップですか、と言われ、右から二番目の扉を案内される。
部屋に入ると巨大な魔法陣と機械装置があり、白銀の髪と蒼い瞳の、儚げな雰囲気なスレイと同じ年頃の少女が立っていて、何故かスレイを見ると驚いたような表情をする。
だがすぐに平静を取り戻しフィーナと名乗ると、クラスアップについての案内をしてくる。
肉体への苦痛を注意され、儀式が始まるが、スレイは苦痛の声一つもらす事なく、立ち位置も動かずに立っていた。 それに驚いたように感心するフィーナはスレイに名を尋ねてきた。
「スレイだ」
フィーナはスレイにカードを見るよう案内する。カードの職業の項目には確かに剣士の表示が追加されていた。
そしてスレイに別れの挨拶をするフィーナ、その瞳には何か希望の色が宿っていた。
スレイが閑散としたクラスアップの待合所に戻るとリリアとジュリアがいた。
そしてリリアはそのままギルドの換金所を案内する旨を告げる。
不思議そうなスレイに不機嫌そうなリリア、含み笑いをするジュリア。
「あんたも一緒に来るのか?」
ぶしつけに問いかけるスレイに苦笑するジュリア。
そしてそのまま三人は探索者ギルドへと向かった。
探索者ギルドに入った三人にいくつもの視線が集まる。
「神狼?」
そんな中ジュリアに向けられた呼び名に疑問の声を上げるスレイ。
その二つ名の由来を語るリリア。
「ところで、未知迷宮とはなんだ?」
ジュリアに感嘆しつつも、出てきた知らない言葉を尋ねるスレイ。
リリアは呆れつつも上級者用の迷宮よりずっと深い、ギルドや超一流の探索者でも何階層まであるか把握していないいくつもの迷宮があり、それを総称して未知迷宮と答える。
その後もリリアの説明は続き。
「なるほどな。感謝する。おかげで良く分かった」
率直に礼を述べるスレイに顔を赤くしてそっぽを向くリリア。
そんなリリアの様子をジュリアは生暖かい視線で見つめていた。
探索者ギルド内換金所で順番待ちをする三人。
三人の番に回って来ると、ふくよかな体格をしたまとめてアップした黒髪に茶色い瞳の三十代くらいのメアリーというらしい夫人がリリアとジュリアにちゃん付けで呼びかける。
恥ずかしそうなリリアとジュリアだが、メアリーは気にしない。
「ふむ、リリアちゃんと一緒に来たって事は、この子がスレイくんかい?」
「ああ、確かに俺がスレイだが」
「あんた3000コメルとミスリル製の装備と、どっちの方がいいかね?」
いきなりの問いにとまどうスレイ。
メアリーはスレイの倒したアンデッド・ナイトの装備がミスリル製だったため、換金するか、ギルド内の鍛冶工房で素材にして武具を作るか選べると説明する。
スレイはミスリル製のサーベル二本を注文し、残りは換金してもらうよう頼む。
メアリーは計算し、ミスリル製のサーベル二本の素材分と手数料を引くと残りは1000コメルと案内する。
それで頼むと告げ、スレイは道具袋の中の換金アイテムを300コメルに換金した。
「ところであんた、魔法の袋はまだ持っていないのかね?」
訝しげなスレイにメアリーは説明する。
空間系魔法で作られた、入れる物の量や大きさを無視でき、重量も感じず、必要な物を念じるだけで取り出す事もできる魔法の袋。
迷宮の到達した階層にマーカーを付けておいて、一瞬で迷宮を脱出したり、次の探索でマーカーした階層にすぐ転移して探索を再開できる、同じく空間系魔法で作られた飛翼の首飾り。
ある程度以上の探索者ならば必須のものだという。
説明を忘れていたリリアを見やるスレイ。うなだれ殊勝な態度のリリア。
流石に言い過ぎたかとスレイはフォローする。明るい顔になるリリア。
スレイはメアリーに値段を尋ねるとどちらも500コメルだという。
そして金貨13枚、換金分の1300コメルを受け取ると、サーベルは鍛造に二日はかかるだろうから、二日後にでもギルド内の鍛冶工房に行ってくれと案内される。
ついでにメアリーはギルド内の銀行についても説明する。
ギルド内の銀行にお金を預けると、探索者カードを使った支払いが、ギルド内の銀行に預けたお金の分だけこの迷宮都市の店ならどこでもできるようになる。
また探索者カードは本人認証の為、他人が持っても何も表示されないようになっている為、安全かつ便利になっている。
だから換金したお金はすぐにギルド内の銀行に預ける事をお薦めするとメアリーは〆た。
都市外でお金を使う時には流石に引き出す必要があると最後に付け加える。
「なるほど、大変為になった。説明感謝する」
頭を下げ礼を言うと、スレイは踵を返し換金所の出口へ向かう。その後を慌ててリリアとジュリアが追った。
メアリーは面白そうに笑うと仕事へと戻っていった。
「次の方どうぞー」
その後、スレイは早速ギルド内の銀行へ全財産を預け、道具屋で魔法の袋と飛翼の首飾りを購入、預金欄が300コメルになったことを確認すると、都市の武器屋で当座の武器として鋼鉄のロングソードを二本用意した。刀が扱われてなかった為仕方が無い。
その日は、そのまますぐリリアとジュリアとは別れた。
宿に戻ると不機嫌なサリアに抱きつかれる。そんな様子を笑いながら見ているフレイヤ。
出会ってからほんの二日だというのに、この母娘は完全にスレイに心を開いていた。
スレイ自身もこの環境を気に入っている事に気がつく。
そして明日一日サリアと遊んでやる約束をし、何とか離れてもらう。
結局次の日はサリアと遊んでやり、フレイヤと際どい会話などして親交を更に深めた。
その日まずは初級者向けと言われる『静炎の迷宮』に潜り、スレイは自らの肉体の変化を確かめていた。
岩盤が掘られてできた迷宮で足場も広さも安定しない。
何体もの魔物を倒し奥まで進み、そして今また二匹のオルトロスと一体のウィル・オー・ウィスプを相手にしていた。
闘気術と魔力操作を併用したスレイは岩盤の足場の悪さを物ともせず、一気に雷速に至り、壁や天井なども足場にしてウィル・オー・ウィスプを容易く切り裂く。
そのまま壁に蹴りを入れ、一瞬で地面に着地し、ドンッと大きな音を響かせ地を蹴る。
そしてオルトロス達に反応する間も与えず、二本目の剣を抜き放ったスレイは、二本の剣でそれぞれ二つずつ、計四つのオルトロスの頭を首を斬り裂き刎ねていた。
無造作にオルトロスの胴体に近づくと、喉の奥から固い感触のものを抜き出す。
それは二つの赤く燃えるような輝きの宝石であった。
火炎石、火を吐くモンスターはたいていこの炎の力を込めた宝石を体内に持っている。
スレイはそれを腰に下げた魔法の袋に無造作に突っ込むと、戦闘の感触を思い出す。
自らの身体の一部のように自在に動いた剣。
剣士職になってからの剣技の補正というものが確かに大きいと認めざるを得ない。
そして新しく取得した思考加速の特性。
雷速すらもスローモーションに感じられる程の思考の加速をもたらし、完全に動きを制御できていた、さらに魔法の構成を編む高速化にも利用できる優れた特性だ。
さらに闘気と魔力の融合という特性も手に入れていたが、これはまだ未使用だ。
スレイは辺りを見渡すと、この迷宮もまた光源が無いのに一定の明るさが保たれてる事に疑問を覚える。
そしてカードを取り出し、現在自分が単純に計算してB級相当の段階にいる事を知る。
そのままスレイは階層にマーカーすると、飛翼の首飾りで迷宮を脱出した。
ギルド内の換金所でスレイはテーブルいっぱいに戦利品を広げる。
呆れたようなメアリーだが、程なく鑑定を終えると1500コメルを渡してきた。
次にギルド内の銀行へ向かう。
「すまない1500コメル預けたいんだが」
カウンターの女性はメアリーと同じく三十代のようだが、まだ若々しく大人の色香を感じさせる、細身の身体に豊かな胸を備えた金髪碧眼の女性であった、アリアというらしい。
そのまま15枚の金貨を預けると、以前の事を覚えていたのか驚いたような顔をする。
そして差し詰めギルド期待の新人ってところかしら、まあケリーに比べればまだまだですけど、などと呟く。
スレイは何気なくケリーとは誰だ?有名人なのか?と尋ねる。
それにアリアは恋人だと答え、まあ彼には他にも恋人がいますがと当然の様に言い、ギルドの子飼いでS級相当探索者だから有名じゃないけど実力は折り紙付きだと答える。
恋人が一人でないという言葉に、上級の探索者は多くの女性を囲う事も珍しくないと思い出す。
そして銀行を出ると、ギルド内の鍛冶工房へと向かう。
そこには様々な武具が整然と並べられ一人のドワーフが中央のテーブルに座っていた。
そしてスレイが用件を告げると、両手を触り探られる。
ドワーフに名を尋ねるとダンカンと名乗り、剣の柄の調整の為奥へと入っていった。。
スレイは両手で二本のサーベルを握り、素振りをして感触を確かめる。
ダンカンはスレイに剣を握った年月を聞き、二年と聞いて驚いていた。
スレイはついでにロングソードの柄の調整も頼むのだった。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
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