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安全対策は現場主導でこそ 遠藤教授に聞く

2012年05月27日

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■早大ビジネススクール 遠藤教授に聞く
■本社は権限移譲を
■「下意上達」力培う

 「最強の現場力」(青春出版社)の著書がある早稲田大ビジネススクールの遠藤功教授は、「本社主導の改善では『やらされ感』が蔓延(まんえん)する。現場主導でないと安全への創造的な対策は生まれず、事故はなくならない」と語った。

 「万一の際の現場での判断には、組織(企業)の体質が表れる」と言い切る。

 石勝線事故がそうだった。車掌は異常な揺れを感じたが非常ブレーキをかけなかった。国の事業改善命令もこれを問題視した。鉄道事業本部長の一條昌幸専務は朝日新聞の取材に「非常ブレーキをかけ、点検の結果、異常がなければ運転士や輸送指令から『なぜかけたのか』と叱責(しっせき)されることがある」と明かした。

 遠藤氏は「非常時に上司の顔が思い浮かぶようでは、現場が安全の番人とはなり得ない」と指摘した。

 現場力のある企業の代表例としてトヨタ自動車を挙げる。工場では、組み立てラインに「ひもスイッチ」がぶら下がり、作業者は問題が起きると、すぐにひもを引く。どこで問題が起きたかが工場内に表示され、現場責任者が駆けつけて、作業者と一緒に問題解決に取り組む。

 遠藤氏は「トヨタには現場が問題と感じたら、工場の生産ラインを止める企業風土がある。ラインを動かし続けて不良品を作ってはいけない、と考える」。

 一方、石勝線事故では、「現場からの情報が(本社に)的確に伝わらなかった。輸送指令は危機意識を持った情報収集ができず、避難の判断が遅れた」と、JRがまとめた「事業改善命令に対する報告」は振り返る。乗客が脱出できたのは「このままでは危険」と自ら判断したためだ。

 遠藤氏はJR東日本の取り組みにも詳しい。同社は、JR西日本福知山線で起きた脱線事故で「事故につながる芽を摘めるのは現場だけ」と気づいたという。「本社で考えても机上の空論。現場は色々なことに気づいている。現場では予想外の事象が起き、その対応は現場にしかできない。その気づきを生かす経営でなければ事故は防げない。現場が『何を言っても無駄』と思うと、本社の指示にしか対応しなくなる」

 JR東日本は05年度から「現場長鍛錬塾」という取り組みを始めた。約130人にいる輸送部門の現場長と鉄道事業本部長が合宿し、安全について夜を徹して本音で議論を尽くす。

 遠藤氏は「当初は『思いつきの取り組み』と思われていたが、すでに8年目。現場は経営陣の安全運行への信念を感じ取るようになった」と評価する。

 JR北海道も経営陣が現場との「ひざ詰め対話」を始めた。それでも現場からは「経営陣の安全運行への熱意が感じられない」と冷めた声が聞かれる。遠藤氏は「経営陣が『安全を担保できるのは現場の皆さんだ』と、自らの言葉で語っているのか」と疑問を呈する。

 どうすれば「強い現場力」を培えるのか。

 「本社が現場を信頼し、必要な責任と権限を現場に委譲してこそ生まれる。上からの指示がなくても自ら考え、問題を解決しようとする強い責任感と行動力が備わる。現場には自主性とやる気があふれるはずだ」

 現場の気づきやアイデアを吸い上げる「下意上達」の仕組みとして「逆ピラミッドの三角形」を提唱する。「実現するには10年はかかる。JRの経営陣は時間がかかっても現場力を育てるのだ、と腹をくくることだ。安全対策の実現に特効薬はない」と力を込めた。

(綱島洋一)

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