東京電力株式会社の電気料金値上げに対する埼玉県の主張
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昨日、去る2月15日に関東地方知事会から東京電力株式会社(以下「東京電力」と省略)に求めた「電気料金値上げ等に関する要請書」に対する回答を、会長である横内山梨県知事に代わり受け取った。
この要請書は、東京電力の突発的、一方的な電気料金値上げに対して、具体的な根拠や経営合理化策の開示を求めたものである。
しかしながら、その回答には、電気料金値上げについての具体的な根拠は示されておらず、また、経営合理化策も総枠のみで詳細な内容は不明確であるなど、不誠実な回答に終始している。とても国民、企業が納得できるものではない。
東京電力が通告してきた自由化部門の電気料金値上げは4月1日と間近に迫ってきている。
電気料金の値上げは、企業、特に厳しい経営環境にある中小企業にとっては、死活問題であり、早急な対応が必要である。
埼玉県は、東京電力に対し、あらためて電気料金値上げについての再考と配慮を求め、今
後も粘り強く要請を行っていくものである。
また、国に対しても東京電力に対し断固とした指導を行うよう求めていくものである。
東京電力の電気料金値上げに対する本県の主張は次のとおりである。
1 現行料金の見直し
現行電気料金は、実質的な地域独占状態のもとに温存された電力会社の高コスト構造に
より高くなっている。東京電力では、寄付金や職員の福利厚生費、オール電化広告費など、
本来電気事業に直接必要でないと思われる経費まで算入してきた。
また、県有施設の例で見ると、特定規模電気事業者(PPS)の電気料金は、東京電力
のそれに比べると安くなっている。PPSは、高いと言われる託送料金やインバランス料
金を負担しているが、それでもPPSの方が東京電力より安い電気料金を実現している。
電気料金値上げのベースとなる現行電気料金の妥当性に疑問がある。また、コスト削減
の取組も不十分である。
現行電気料金についての検証を行うとともに、PPS並みの電気料金水準を目標にさら
に徹底したコスト削減を行うべきである。
【参考】
1 PPSの事業者数 52社(平成24年2月27日現在)
2 販売電力量全体に占めるPPSのシェア 全国3.5% 東京電力管内6.3%
3 県施設におけるとPPSとの契約による電気料金の縮減率(東京電力との比較)
平成17~22年度(20年度を除く)の平均 4.7%
もっとも大きい縮減率 8.1%(平成22年度、地域機関14施設)
4 託送料金とは; 東京電力の送配電網の利用料
5 インバランス料金とは; 需要に対しPPSの供給が不足した場合、東京電力から
不足分の供給を受ける対価として支払う料金
2 料金値上げ額の妥当性と情報開示
東京電力は、電気料金の値上げ分に当たる加算額は、平成20年度と比較して、24年度
に見込まれる燃料費等の増加分から算定するとしている。
しかしながら、その積算の根拠となる具体的なデータが示されていないため、検証は困
難である。
また、積算の前提となる原油CIF価格や為替レートは、平成20年度の水準を使用して
いるが、直近の23年度の水準とは大幅に異なっており、現状の市場動向とも大きく乖離し
ている。仮に、平成24年度の原油価格や為替レートを23年度実績見込みと同等に見込ん
だ場合は、石油系燃料費だけで914億円コストを圧縮できる計算となる。(下記参照)
燃料費等の算定は電気料金の値上げに直接影響するものであり、合理的かつ最適な前提
により、算定すべきである。また、その根拠を具体的なデータとともに需要家に開示すべ
きである。
【燃料費試算例】
東京電力では平成24年度の為替レートを1ドル107円とし、石油系燃料費のコスト総額
を9,170億円と見込んでいる。しかし、仮に24年度の調達条件を23年度と同条件に設定
(下表参照)すると、8,256億円となり、914億円のコスト差が生じる。
9,170億円÷(93ドル/b×107円/ドル)×(112ドル/b×80円/ドル)=8,256億円
【参考】
東京電力が前提としている原油価格と為替レート
| 20年度 | 22年度 | 23年度 | 24年度 |
原油CIF価格 (ドル/b) | 93 | 84 | 112 | 93 |
為替レート(円/$) | 107 | 86 | 80 | 107 |
※原油CIF価格とは;保険料と運送費を含んだ価格
3 値上げの時期
上記1、2は、電気料金値上げに当たって、まず、検証、検討すべきもっとも基本的な
ポイントである。
電気料金の値上げの可否及び値上げ幅の決定は、この検証、検討の後とすべきである。
4 値上げ抑制のための国の支援
今後、東京電力には、福島第一原子力発電所事故の賠償処理と電力の安定供給を両立さ
せていく責務がある。そのため、現在、「総合特別事業計画」を策定し、コスト削減を進
めていくとしているが、同時に、料金値上げ抑制のためのコスト削減計画も策定すべきで
ある。また、両計画は整合性を持った一体の計画として策定される必要がある。
需要家への影響を少しでも抑えるためには、コスト削減をできる限り前倒しで行い、値
上げを抑制すべきである。しかしながら、すべてのコスト削減を一気に行うことは難しい。
そこで国がその分を一時的に建て替えるなどの支援を行うことにより、平成24年度から
の料金値上げを抑制すべきである。
5 今後の改善に向けた取組
東京電力の電気料金値上げ案には、上記の問題点に加え、次のような課題がある。
(1)電気の効率的利用を後押しする料金メニューの設定
一律定額の電気料金上乗せのため、夜間料金については大幅アップにつながるなど、
各需要家が創意工夫してきた電気の効率利用を阻害する恐れがある。
電気の効率的な使用のインセンティブとなる多様かつ柔軟な料金メニューを設定する
必要がある。
(2)中小・零細企業に対する配慮
デフレ経済状況下にあっては、企業は電気料金値上げ分をコストとして販売価格に転
嫁できず、また、自助努力で吸収するのは困難である。
東京電力では、中小企業向けに新たなメニューを設定するとしているが、勤務体制を
休日や夜間にシフトさせる必要があるなど、導入には需要家の負担を伴う。
経営基盤の脆弱な中小・零細企業においては死活問題であり、料金設定に当たっては
更なる配慮策を実施する必要がある。
(3)託送料金、インバランス料金の見直し
電力需給が逼迫している状況において、電気事業への特定規模電気事業者(PPS)
の参入は東京電力にとっても自社の負担軽減につながり、メリットのあるものである。
また、需要家にとっても、複数社の電気料金を比較検討でき、電気料金の低減が期待
できる。
公正な競争原理の下で、PPSの電気事業への参入が促進されるよう、託送料金やイ
ンバランス料金などの見直しを早期に行うべきである。
(4)電気料金値上げに対する国の関与
電気供給事業は自由化が進んでいると言われるが、現状では、電力会社による実質的
な地域独占という構造は変わっていない。
今回の東京電力の一方的な値上げ宣言は、こうした独占状態が生んだ不当なものであ
る。
経済に大きな影響を与えかねない電気料金の値上げは、電力会社の経営と国の経済政
策の両面から決定されるべきであり、国が責任を持って関与する仕組みを構築すべきで
ある。