在日中国大使館の一等書記官(45)が日本でスパイ活動をしていたのではないか、とマスコミを賑わせている。読売新聞が2012年5月29日の朝刊で大々的に報じた。この書記官に筒井信隆農水副大臣が深く関わり、農林水産省の国家機密を漏洩した可能性が出てきた、などとも報じられている。
大スキャンダルだけに各紙が大慌てで追いかけたが、朝日新聞、日本経済新聞などの扱いは急速にしぼみ、5月31日になって、そもそも、書記官のスパイ活動はなかったのではないか、といった報道も出始めた。
読売新聞によると、この書記官は、外国人登録証明書を不正に使い銀行口座を開設し、ウィーン条約で禁じられた商業活動をしていた疑いが持たれ、警視庁公安部が出頭を要請した。公安は07年に書記官が着任した当初からスパイとみて動向を警戒していた。
開設した口座には日本企業からの顧問料と思われるものが振り込まれていて、「工作資金」に使っていたのではないかという。この書記官は人民解放軍総参謀部の出身で、93年5月に来日して以降、福島大学大学院や松下政経塾に通うなど日本文化に精通し、会話も日本人のように流暢だったとも説明している。
読売新聞はさらに5月30日付で、この書記官が農水機密に接触し日本から中国への農産物輸出に関与していたと大特集を組み「筒井副大臣と親交」「副大臣深入り、なぜ」という見出しを掲げた。
筒井副大臣との関係は、農産物の対中輸出促進事業にからんでいて、3000品目以上の日本産農産物やサプリメントを北京の施設で常時展示することにより対中輸出の推進を図ろうとしており、16年には年間5000億円の輸出額達成を目標にするプロジェクトだと書いている。
11年7月に事業主体となる一般社団法人ができたが、書記官はこの事業に深く関わっており、農産物の対中輸出促進事業に関する農林水産省の機密文書が外部に漏れた疑いがある、というのだ。このプロジェクトを推進していたのが筒井副大臣で、書記官が機密文書の内容を把握していた可能性がある、などと書いている。
筒井副大臣はこうしたことに関し、書記官に機密文書を見せたり伝えたりしたことは「全くない」し、その他外部にも機密文書を渡したことも「一切ない」と否定している。ただし、騒ぎが大きくなったことで、鹿野道彦農林水産相は5月30日、省内に調査チームを設けると発表している。
こうした一連の事件が事実ならば農水省の大スキャンダルとなるが、読売新聞の一連の報道を継続して大きく後追いする新聞は、産経新聞を除くとあまり見受けられない。そればかりか、実は、書記官のスパイ容疑ですら間違っているのではないか、と匂わせる報道も出始めた。
朝日新聞の5月31日付によれば、最初に問題となった書記官の銀行口座は十数口あるが、外交官身分を隠して開設したものは1つだけで、その口座には妻が勤務していた健康食品会社から給与が振り込まれていた。また、書記官が政治家や官僚に接する機会は度々あったが、
「違法な情報収集を行った形跡は確認されていない」
という捜査関係者のコメントを掲載している。当初、日本企業からの「顧問料」と思われていたお金が妻の「給与」であった可能性がでてきたわけだ。警察幹部の間ではスパイというより、個人的な蓄財で、単なる不祥事なのではないかといった声も出ていると書いている。
中国外務省は5月30日に、書記官に外国人登録法違反の疑いが出ていることに対し、定例記者会見で、外国人登録証を不正に更新した疑いについては調査するが、スパイ容疑については、書記官を日本を研究している学者とは言えるが、「全くもってくだらない」と完全否定した。
果たして「スパイ」なのか、それとも本来の任務とは別の個人的な不祥事なのか、まだ進行中の疑惑だけに、当面は捜査等の推移を慎重に見守るしかなさそうだ。
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