Dead Man Walking
低い塀に囲まれた、二階建ての平坦なその施設の門扉には、白く丸い字体で「創才児童園」と刻まれている。
スマートブレインが保有していた児童養護施設だが、同社の解体後も閉鎖せずに運営が続けられていた。
真理の義理の父親であり、スマートブレインの元社長でもあった花形の遺志により、彼が保有していた私有財産は全て、幾つかあるこうした施設の運営に充てる為の基金へと回されたらしい。
ここで働く三原修司と阿部里奈は、流星塾と呼ばれる養護施設で育った真理の仲間だった。真理はよくここを訪れるようだったが、王を倒した後、巧は一度も来たことはない。あれから初めての訪問だった。
三原の姿はすぐに見つかった。彼は生成のエプロンをつけ、前庭で、幾人かの男の子達とキャッチボールをしていた。
「三原さん!」
門扉を潜り、巧の斜め後ろから啓太郎が呼びかけると、三原はすぐに気付いて動きを止め、男の子たちに、ちょっとごめん、と告げると二人の元へと小走りに駆け寄ってきた。
「ごめん、突然電話して、しかも来てもらっちゃって」
「構わないぜ、どうせ暇な店だ。それより、お前の話本当か」
「暇って何だよ! たっくんはうちの店の事ももうちょっとは考えて……」
「おい啓太郎、ちょっと黙ってろ。話が出来ねぇだろ」
割って入った啓太郎と巧のやりとりを眺めてくすりと笑って、三原は、変わらないなぁ、と呟いた。
「外だと寒いし、中入って。お茶くらい出すから」
三原の言葉に巧と啓太郎は頷いた。スリッパを借り、簡素で小さな部屋へと通される。四人用の大きさのテーブルにパイプ椅子が四脚、部屋の隅に段ボールがいくつか積み上げられている他は、何もない白い部屋だった。
大きめの窓からは、冬の温度の低い陽光が斜めに射しこんでいる。子供達はキャッチボールを続けていて、三原の代わりに阿部里奈が加わっていた。
程なくして三原が、トレイに茶碗と茶菓子を載せて入ってきた。お茶が各自に行き渡ると、三原は巧の向かいに腰掛け、一心不乱に熱い茶に息を吹き掛ける巧を見た。
「ねぇ三原さん、俺も今日さっき見たんだ、鳥人間」
啓太郎の言葉に、三原は驚きを見せた。
三原からの電話。電話口で三原は、『オルフェノクとは違う鳥の怪物に会った』と巧に話した。
やや首を傾げて、熱い茶を一口啜ってから、三原も口を開いた。
「俺が、狙われたんだと思う多分。白い鳥みたいな、多分烏天狗みたいな感じで。剣を構えて、いきなり空から降りてきたんだ……でも、びっくりしてる俺を見てそいつ、『お前は違う、エノクの子ではない』って言って、飛んで行った」
「喋ったのか?」
巧の質問に、三原ははっきりと、即座に頷いた。
「エノクの、子……? どういう意味だ」
「分からない。何で俺の前に現われたのかも……」
巧も三原も、目を伏せ、考え込むようにやや俯いた。
はっきりしたのは、白い鳥の怪物は知性を持ち、何らかの目的に沿って行動している、という事。三原は、彼の基準には完全に合致しなかったが、勘違いされる何かしらの要素を持っていた。そして、啓太郎の目の前で、オルフェノクが襲われ灰と化した。
「記号か……?」
「えっ……」
「オルフェノクの記号だ、三原。だから奴は勘違いして、改めて目の前にしてやっと、お前は違うと気付いた。何にしろ、その白い鳥野郎がオルフェノクを狙ってるのは、まず間違いがなさそうだ。啓太郎の前で、そいつはオルフェノクを殺してる」
オルフェノクの記号。その単語を聞いて、三原ははっとして巧を見た。
「……そいつが、オルフェノクの正体を見破る力を持ってて、狙ってるっていうなら、君も狙われるんじゃ……」
三原の言葉には返事を返さず、巧はただ、ふん、とつまらなさそうに鼻を鳴らした。
作品名:Dead Man Walking 作家名:パピコ