河北春秋
東日本大震災では何が起き、あるいは起きなかったのか。発生した事実は写真や動画、体験談などで記録されつつある。一方で、起こらなかったことに目を凝らすのは難しい▼福島県立博物館長で学習院大教授の赤坂憲雄さんは「震災と在日韓国人」というテーマに関心を寄せる。1923年の関東大震災では、多くの朝鮮人が暴行・虐殺されたとされる。「朝鮮人が放火している」などの流言飛語が不幸な歴史を生んだ
▼悲劇を繰り返さないでほしい。赤坂さんは震災直後から、祈るような気持ちだったという。「東北では今回、在日の人たちへの差別はなかったと思う。それは、なぜか」と問う▼まず本人たちから話を聞こう。被災地で、在日韓国人から聞き書きするプロジェクトを始めた。目標は100人。大学の研究者やライター、作家らが協力する
▼大震災では混乱時にも争わず、店の前に整然と並ぶ人々の姿が称賛された。だが、表面からは見えにくい場で、何が起きていたのか。在日韓国人の視点から見直すことで、新たな問題が浮上するかもしれない▼「起きなかったこと」を透視する作業は、想像力と根気が要る。だが、気付かなかった震災の姿を探ることにもつながるはず。成果は来年3月にも出版される。
2012年05月30日水曜日
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