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『消えた男の日記』

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特有の世界観で評価を集めるPeople In The Boxの波多野裕文による随筆作品

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『嘘じゃない、フォントの話』

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これぞ00年代の代表曲 七尾旅人×やけのはら インタビュー

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CINRA MAIL MAGAZINE連載コラム『全裸』

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「フジワラノリ化」論 第8回 堂本剛 彼は“本格派”なのか

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映画『ノーボーイズ、ノークライ』レビュー

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巨匠ism 第5回前田司郎先生(小説家・劇作家・演出家・俳優)

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今年に入り三島由紀夫賞を受賞するなど更なる注目を集める巨匠の本音とは。

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『消えた男の日記』

『消えた男の日記』 第一回

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5/10
 部屋に業者が来て、換気扇を交換していった。今までのものと比べて羽ばたきの音が静かで落ち着かない。とはいえその微細な美に気を惹かれているのも確かで、悪い気はしない。

5/12
 自転車で出かけて、徒歩で帰宅してしまう。自転車を取りに向かう途中で雨が降り出したので、また自宅へと引き返す。踵を返す瞬間に地球の自転への影響を若干憂慮するが、反面どうでもいい。雑誌のカラー写真、おおきな葉を傘に雨を凌ぐゴリラは実のところ何を考えているのかさっぱりわからない。誰かが昔「そんなとき僕はバタフライ・エフェクトを頼りにする」といったような憶えがあるけれど、もしかするとそれを言ったのは僕だったかもしれない。

5/14
  ほとんど一日中YouTubeを観て過ごす。ふと視線を部屋に漂わすと、彩度のない黄土色が平べったく窓枠に切り取られている。ベニヤ板のようだ。空らし い空は、むしろパソコンの画面のなかに広がっている。映し出されるチュニジアの町並み。白壁とラクダ。注射器のように網膜を刺す青空。風が吹いていないせ いで静止画と見間違えてしまいそうになる。男の子が警戒しつつこちらを観ているうしろの、尖塔の上部には「このディスクのメモリーはいっぱいです」という メッセージ。そろそろパソコンを買い替えなければいけない。このパソコンのディスクのメモリーがいっぱいだからではなく、このパソコンのディスクには実の ところまったく何もはいっていないからだ。
 今日も案の定電話がかかってきたけど、とらなかった。あの冷静沈着で礼儀を重んじた声。その声が喋り だすといつでも反応して、僕の胃袋のなかのターンテーブルがレコードを再生する。歌曲『黒い貿易船』の「赤ん坊の舌が暴く蜜よ」の部分で音跳びを起こし、 そこだけが繰り返されている。


5/17
 一切のメールが受けとれなくなってしまった。それによって随分とほっとした。郵 便受けがいっぱいになっていることにそろそろ向き合わなくてはならない。しかしそれは容易いことではない。それを眺めることしかできない。雨が降り出した ので、それをじっと見ていた。ベランダの排水溝に隣人のレゴがひもや汚物と固まりになって絡み付いている。


5/18
  朝、リハビリに行く。雨が降っていて、少し肌寒い。リハビリ室は高齢者の寄り合い所と化している。入室するとざわめきが部屋の天井付近にいったん放り投げ られ、遠慮のない視線がこちらに注がれる。放り投げられたものが床に着地する頃には老人たちは普段どおりの様子に戻っているか、戻ったふりをしている。
 「お久しぶりです」「忙しくて」「まだ痛みますか」「痛みますね」
「そ うですかあああ・・・・・・・・・」ただひとりの担当看護士は不思議そうな顔をしているが、それがもともとの表情であるのか、実際にそう感じているのかは 判別できない。忙しいという嘘が見抜かれているのか。釣り用のベストを着た痩せた老人が器具で首を牽引されながらこちらを見ている。扉を閉め切った雨の日 の蛍光灯が午前中を紙粘土のように固めてしまう。僕に施される処置は、もう会うことがないであろうと憶測される相手だからこそできる手厚い握手のようなも のだ。体の痛みと、この黄ばんだ白い空間とを天秤にかけてしまう。これを意図的に行っているとしたらたいしたものだ。退室し扉が閉まった瞬間に老人たちの ざわめきが膨らんで扉が外側に一瞬盛り上がったように見えた。
 病院を出ると勝手に足が自宅へと向かっていた。なにか用事があったはずだが忘れてしまった。
  映画を観る。タイトルは確か前か後ろに『オデッセイ』がついたような気がする。次期頭取を約束された銀行員がひょんなことから異次元(のようなもの。未 来?)に迷い込み、そこで彼の奥さんと同じ顔をした女性と出会い過ぎ去った時間を追体験しつつも巻き起こる謎や現実世界を思い葛藤するという映画。


5/21
  食用卵ほどのサイズの観葉植物が枯れていることに気付いた。発掘された嬰児のミイラのようになっているから、だいぶ経っているだろう。あって困るわけでも ないのでそのままにしておく。ベランダには相当な数の猫の気配がする。鳴き声や、匂い。しかし一度も姿を観たことはない。


5/23
 合 鍵のできるのをまっているあいだ、作業中の店員がじっとこちらをみている。僕は顔にそれを感じただけで直視し返すことはしなかったが、その一対の瞳孔のか すかな揺らめきまでも血流のように感じることができた。店内ではジャズが流れている。サックスが火を吹いて耳が火傷しそうになる。帰宅後、自分の顔を鏡で 見るが変わったところはない。髪が伸びている。


5/25
 午前3時をまわった頃、葡萄のジュースを買いに外に出ると雨が 上がっていたので、一度部屋に戻り、着替えてから外を走った。街灯の灯りは飴のように軽薄で、路面は蜜のように輝いている。どこか扉をいくつも隔てた奥か ら音楽のような律動が聴こえるが、どこから聴こえるか方向ははっきりしない。知り合いとすれ違うような予感に駆られたが、誰にも会わなかった。水たまりを 避けながら走るので呼吸が安定しない。とくに思考ともいえない思考に「なんだか今日は声が違うような気がするのだけれど、君はほんとうに君なの」という女 の声がまとわりついてくる。非常灯の緑を等間隔で張り付けた営業後のスーパーマーケットに自転車が整然と並んでいる。かつて住んでいたところは自動販売機 の明かりを中継地点に走ったものだが、今走っているこの街は毛布のなかの読書のようにぼんやりとぼんやりと発光している。黒い木々の繁る公園の半ば雑木林 の入り口を無限大のマークを途中まで描きつつゆっくり抜けると、深海のような大きな楕円形が頭上に現れた。グラウンドを小さな黒いピンのような影が遠くと 近くで半時計回りで移動している。体に貼り付く風が生暖かい。走るのをやめ、一周してから帰路につく間、女の声の絶え間ない妨害を受けながらも自由詩を作 ることに成功した。グラウンドを一周するあいだ、二度側をやかましく呼吸をする影が通り過ぎていった。秒針が二本ある時計(しかも逆回転)のようだと思っ たが、それは厳密には時計とはいえないはずであるのだから幾分私は陶酔的になっているのだろう、とそこにはおそらく存在しない女に妙な言い訳をした。

『ペイル ペイル、ペイル ブルー アイズ
アイ ラヴ ユー ペイル ブルー アイズ
ペイル ペイル、ペイル ブルー アイズ
アイ ヘイトゥュー ペイル ブルー アイズ

汚染された僕の母はウルフの魂でチェスを打つ
机の下に隠れなさい、聖人はすぐそこまで来ているのだから

ペイル ペイル、ペイル ブルー アイズ
アイ ラヴ ユー ペイル ブルー アイズ
ペイル ペイル、ペイル ブルー アイズ
アイ ヘイトゥュー ペイル ブルー アイズ』

クラシックギターで簡単なコードをつけた。最初のブロックがAマイナー、Eで四回し、二ブロック目はカデンツァで朗詠、最終ブロックは再びAマイナーとEで回して気の済むまで繰り返し。

波多野裕文(People In The Box)

独特な楽曲や歌詞などから表現される特有の世界観が評価を受けているスリーピースバンド、People In The BoxのVocal&Guitar。2009年10月に3rd mini album『Ghost Apple』をリリースし、全国19ヶ所で「Ghost Apple Release Tour」を敢行予定。
People In The Box オフィシャルサイト

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