マイナー契約後、硬い表情でのプレーが続いていた松井。豪快弾だけじゃない、この笑顔をファンは待っていた(撮影・リョウ薮下)【拡大】
試合直前とは思えない光景だった。会見を終えた松井がクラブハウスに戻ると、室内は真っ暗。戸惑っていると突然、ミラーボールが回転し、音楽が流れ始めた。選手たちは松井を取り囲み、踊ったり叫んだり。“サプライズ”の歓迎会だった。
「野球場のロッカーとは思えない雰囲気でしたね」。マイナーで約1カ月調整してきたベテランのため、異例のパーティーを開催。それほどまでの期待に、あいさつ代わりの一発で応えた。
四回二死一塁。相手は4月に完全試合を達成したフィリップ・ハンバー投手(29)。初球の90マイル(約144キロ)の直球を右翼席へ運んだ。昨年9月9日のレンジャーズ戦以来の本塁打。総立ちの拍手の中、ダイヤモンドを一周。「いいバッティングだった」という手応えに、マイナー調整中には見られなかった明るい笑顔が、ようやく松井に戻った。
初対戦の投手が多かった3Aでは、13試合で本塁打はゼロ。しかし、ハンバーとは10年に1打席、昨季は6打席対戦している。1安打と犠飛の1打点のみだが、対戦経験をいかし昇格初日の初アーチにつなげた。
28日(日本時間29日)の試合後、3Aの遠征先インディアナポリスでメジャー昇格の一報を受けた。一夜明けこの日の朝、タンパを目指した。民間機を乗り継いでの移動は天候不良もあり、予定より1時間遅れに。午後3時前、ようやく本拠地トロピカーナ・フィールドにたどり着いた。
ジョー・マドン監督(58)に出場できるか確認されるや、「用意はできている」と即答。新背番号「35」のユニホームに袖を通した。巨人時代から背負ってきた「55」は2年目の有望株、マット・ムーア投手がつけている。新たに選んだ背番号は「5番を残したかった」のと、「師匠の番号をいただいた」と、長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督(76)の代名詞の「3」を取り入れた。
さらにヤンキース時代に「35」をつけていた270勝投手、マイク・ムシーナ氏(43)の名をあげ「年齢を重ねてもすばらしい数字を残した選手に、あやかれるようにしたいというのも理由」と40歳で20勝した大投手に、来月12日で38歳となる自分を重ねた。
「しっかり準備して、行けといわれたときにいいプレーをしたい」。ようやく始まった日米通算20年目のシーズン。背番号35の“ニューゴジラ”が新たな伝説を刻む。
(紙面から)