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書籍化に伴い、対応部分であるプロローグ、一章、二章をダイジェスト版に差し替え致しました。
なお、書籍版には変更点、含まれる内容の範囲の違いが御座いますので、こちらのダイジェスト版では、引き続き掲載される三章以降に続く様、Web版を元に作成されております。
その為、書籍版と一致しない点が御座いますがご了承下さい。

ダイジェスト部分にてご意見、要望、不明な点が有りましたら、感想、メッセージ機能などにてお問い合わせ下さい。内容によって、随時対応させていただいます。
1章-アナトリ編- ~ 2章-ズィスィ編- (書籍版一巻対応部分)
Web版ダイジェスト(プロローグ~一章~二章)【前書き・後書きアリ】

 杏樹薄葉アンジュウスハは身長、体重、その他諸々全てが平均の普通すぎる高校生。

 その妹、杏樹明華アンジュアキカは容姿、才能、その他あらゆるものに恵まれた絵に書いた様な天才少女。

 事ある度に妹と比較され続けてきた薄葉は妹を嫌っていた。
 それは才能に対する嫉妬でもあり、否応なしに思い知らされる劣等感のせいでもあり、そして何より彼は彼女の理解しがたい主張に嫌気が差していた。

「兄様は私よりずっと凄い方です」

 明華はいつでも薄葉を異常に持ち上げる。
 まるで普通な彼を誰よりも優れた存在であるかのように。
 薄葉に敬語を使い、過剰評価とも言える期待を寄せる彼女の言葉は、薄葉にとっては皮肉以外の何物にも聞こえなかった。

 過度のブラザーコンプレックス持ちの優秀な妹と過度の評価にうんざりしている普通すぎる兄。
 似ても似つかぬ兄妹は、それでも普通の日常を過ごし、いつも通りの朝を迎える筈だった。

 しかし、その日彼らは思わぬ出来事に巻き込まれることとなる。

 いつもの様に、明華に付き纏われながら通学路を行く薄葉。
 いつもの過度の評価に苛立ち声を荒らげる。
 目を潤ませる明華を前に、結局言い過ぎたと自分の態度を改める。
 妙なところで強情な明華に、誠意として手を繋ぐ事を要求され、彼は中途半端な自分に憤りを感じながらも彼女と再び通学路を歩き出す。

 手を繋ぎ歩く二人を異変が包み込んだのはすぐの事。

 踏み出した一歩には明らかな違和感があった。
 手を繋ぐ二人を囲うのは地面に走る不思議な紋様。
 周囲の誰もが気付かぬ紋様は、兄妹を包み込み……



 ――――天恵ノ契約ニヨリ、汝ヲ天ノ遣イに任命セン

 ――――歪ナル者ヲ、其ノ力ニテ討テ

 ――――サスレバ、汝ニ望ムモノヲ与エン……!



 響くのは不思議な声。
 眩い光に目を閉じた二人は揺れる世界に飲み込まれていく。



   ----



 目を開いた二人の前に広がっていた光景は、見たこともない景色だった。

「天使様!天使様が我らの呼びかけに応えてくださった!しかも、お二人も!」

 足下には、薄葉達を包み込んだ不可思議な紋様。
 見慣れぬ空間では、取り囲む様に奇妙な格好をした人間達が騒いでいる。
 突然の事に戸惑う二人は、彼らを『天使』と呼ぶ人々から信じ難い事実を知らされる。
 
 其処は過去、魔導士マゴスによって「丸い」と証明された大地。『球界テッラ』と呼ばれる世界。

 薄葉と明華が喚び出されたのは、自分達が暮らしていた世界とは全く違う世界だったのだ。
 彼らはテッラにある国の一つ、アナトリのマギア村。
 なんと薄葉達はマギア村にて行われた、かつての世界を救った勇者伝説から語られる『天使の伝承』、それに基づく天使召喚の儀式により喚び出されたというのだ。
 天使に縋る彼らは、ある危機に苦しめられていた。

 アナトリを蹂躙する異形の怪物、異なる球界『プルトナス』からの侵略者『テラス』に。

 彼らが天使に捧げる願いは「アナトリに巣食うテラスを打ち倒して欲しい」というもの。

 見ず知らずの世界に天使として喚び出された兄妹は、まるで御伽噺のような化け物退治を頼まれてしまったのである。



『天使は学び、強くなる』

 かつての勇者伝説に従い、マギアで初めて魔法に触れる明華。夢の様な世界に興味を抱き、何故か読める魔導書を読みながら、彼女はどんどんこの世界の根幹を成す『魔導』を学んでいく。
 二人を召喚した村一番の魔導士、マゴに導かれた書庫にて次々と魔法を覚えていく明華に対して、魔導にさっぱり興味を持てず理解もできない薄葉。
 世界に馴染めず苛立ちを募らせる薄葉は、不満を爆発させる。

「喚び出された天使はやっぱりお前なんだ! はあの時手を繋いでたから巻き込まれて……」

 そんな言葉を明華は否定する。

「いえ! 違います! きっと天使として喚び出されたのは兄様です!」

 食い違う二人の言葉に、二人を召喚してしまった責任を感じるマゴは戸惑う。

 そんな中、敵は突然訪れた。

 空を覆う巨大な龍の様なテラス、トルメンタが、村を覆う防御結界を破り襲来したのだ。
 その突然の襲撃に戸惑いつつも、希望である天使を守ろうとするマゴだったが、それは意味の無い事だった。

 長い呪文を唱え、明華が魔法を発動させる。

 とても少し前に魔法を学んだばかりの人間が呼び出したとは思えない規模の強力な雷。それは一瞬で巨大なテラス、トルメンタを撃破した。

 やはり天使の伝承は真実だった。

 アナトリの人々の束の間の喜び、しかしそれはすぐにかき消される事になる。
 結界を破ったテラスはトルメンタではなかった。彼の背中からマギアの地に降り立ったのは『四将』を名乗る人型のテラス、フロガ。
 初めての魔法で全力を出し尽くした明華。そんな彼女の危険性を察知し、その命を狙うフロガ。
 明華を守ろうと必死に格上の敵に立ち向かうアナトリの騎士オルコスと魔導士マゴだったが、歯が立たず、最大の危機を迎える。

 しかし、明華は余裕を保っていた。

 もう駄目だと誰もが思う中、それは突然起こった。
 ぼとりと落ちるフロガの首。
 絶対優勢にいた筈のテラス、フロガが一瞬で、魔法の気配もなく打ち倒されてしまったのだ。

 かつてない力を持ったテラスの討伐。それに喜び、天使明華を讃える人々。

 なんの役にも立っていない薄葉を軽んじる彼らの前で明華は言う。

「私達を守ってくださったのは……あのフロガというテラスを倒したのは兄様でしょう!? 最もあの襲撃においての功績を残したのは兄様です!」

 誰もが信じられない主張。
 あのテラスを倒したのは、誰の目から見ても凡人でしかない薄葉だと、明華は言うのだ。



 当然、誰もがそれを受け入れられない。話にあがる当人である薄葉でさえも。
 しかし、明華は頑なに主張する。
 どうしようもない口論の末、明華は誰も信じない主張を認めさせる為に、突拍子もない提案を持ちかけた。

 それはアナトリの首都、アギオを占拠するテラスの討伐。つまりアナトリ国の奪還である。

 薄葉の力を示す為、そのとんでもない作戦を提案した明華に当然反対の声があげられる。しかし、それを強引に言いくるめる明華。
 希望的観測を並べ、なおもその作戦を推す明華に、意外な賛同者が現れる。
 プライド高き騎士、ディオミス。薄葉の本当の力を否定しつつも、彼は明華の作戦に同意し、敵の本拠地に至るまでの護衛を申し出たのだ。

 そして、無謀とも言える『アナトリ奪還作戦』は動き出す。



 アナトリ奪還作戦は、順調にすすめられた。

 首都アギオに至る道のりを難なく乗り越え、首都に潜入した少数戦力、明華、薄葉、ディオミス。
 首都に潜むテラス達を、ディオミスは難なく仕留め、遂に敵の本拠地である城へと突入する。
 そこで待ち受けていたのは、トルメンタやフロガとは比べようもない程の異形を持った強大なテラス。
 球体の体に、顔らしい顔も持たない、非生物型テラスのエストレリャ。

 規模が違う圧倒的なテラスを前に、余裕をなおも崩さない明華。
 その余裕は、エストレリャを「丁度いい」呼ばわりするほど。
 そして、その余裕の意味を知らしめる様に、証人ディオミスに見せつける様に、思いも寄らぬ人影はエストレリャの前に現れた。

 杏樹薄葉。
 極めて平凡な普通の天使は、エストレリャの攻撃を楽々と受け止める。
 しかし、彼に意識はなく、白目を向きながら、不気味な動きでテラスを襲う。
 その異様な光景に怯えるディオミスに、明華は薄葉の普通ではない秘密を明かす。

「あれは『暗中無心拳』。兄様含めて、この世でたった二人しか使えない、最強にして最凶で最狂の……『暗殺拳』です♪」

 暗殺拳、暗中無心拳。
 それは薄葉が普通のおじさん、山田さんから習ったという暗殺拳。
 殺意に反応し、無意識で振るわれる拳は迷いがなく、その地味さで周囲に紛れる普通さは暗中に隠れ、そして何よりデタラメに強い。
 人間とは思えない動きを披露し、薄葉は一瞬でエストレリャを撃破してしまったのだ。

 証人ディオミスによりテッラに証明される薄葉の力。

 まるでついでであるかのように、アナトリは簡単に救われてしまったのである。



 アナトリを救い、帰還した薄葉達をアナトリの人々は迎え入れる。
 しかし、そこで彼らにとある事実が知らされる。

『伝承の天使が元の世界に帰る方法は分からない』

 しかし、明華は絶望しない。
 むしろ、兄の薄葉がその力を活かせるこの世界に期待すら抱く。

 世界に巣食うテラスはまだまだ多く居る。
 素より人助けが嫌いではない明華は、そのテラス達を退治するため、この世界を救うため、元の世界に帰る方法を探すため、そして何より兄の力をこの世界に示す為、世界を旅する事を決める。

 マゴから聞いた、隣国『ノトス』の『黒髪の剣士』の噂。
 この世界では珍しい黒髪という特徴から、天使の伝承との関わりを感じ取った明華は、薄葉を引き連れ旅に出る。

 こうして、薄葉と明華、杏樹兄妹の、元の世界に帰る方法を探しながらの、テラス退治の旅は始まった。




 一章-アナトリ編-



   ----



 ノトスに入り、ひとつの村を訪ねた薄葉と明華は白い長髪の美しい女性に出会う。
 枯れた村に豊かな恵みをもたらしたという、魔導の一種『治癒術』を扱うその女性はグゼと名乗った。
 女性らしい落ち着いた雰囲気を漂わせる彼女は、ノトス中を巡り、その治癒術で人々を助けまわっているという。

 そんな可憐で誰よりも女性らしい彼女に、薄葉は一目惚れをしてしまう。

 愛する兄の思わぬ一目惚れに、気が気ではない明華。
 勝手にライバル心を抱きながらも、人の良いグゼと話し、すぐに打ち解ける。

 そんな最中、突然現れた傷だらけの男、アルムがグゼに告げる。

「早くここから逃げてください、グゼ様」

 突然の事態に戸惑う中、現れたのはノトス王に仕える騎士達。
 彼らの目的はグゼ。
 なんと彼女は、国家転覆を目論む反逆組織『エクスィレオスィ』のリーダーだというのだ。
 彼女がここにいるという情報を掴んだ騎士達は、同じく彼女の所在を突き止めたエクスィレオスィのメンバーと遭遇し、彼らを襲った上でここまで辿りついたのだという。

 アルムの命だけは見逃して欲しいと懇願するグゼに対して、騎士アニードはそれを拒否し、グゼに刃を向ける。

 その時、グゼの前に立ったのは、明華に突き飛ばされて飛び出た薄葉だった。
 怯えながらも惚れた相手を守らんと虚勢をはる薄葉は、騎士達が襲い来る瞬間に暗中無心拳無意識の反撃により騎士達を一瞬で撃破する。

 自分に刃を向けた騎士達、しかしグゼは彼らを治癒術で治療する。

 反逆者には屈しない、そう言いつつも、何かを感じ取ったアニードは、グゼ達を見逃し去っていく。
 それでも逃げないと言うグゼは、薄葉達の力を見込んで、「この国の病を治す為」と首都までの護衛を頼み込む。
 更に天使の伝承を僅かに知っていることを告げ、その伝承について記された書物が王の下にある事を話す。

 その目的までは見抜けずとも、明華と薄葉は、友達として、見返りを求めずに協力する事を約束し、彼らは一路首都パラディソスを目指す事になる。

 途中、危険地域コカロ渓谷に踏み込み、強大な鳥型テラス、アエトスと遭遇した一行であったが、その危機は意外な形で回避される。
 アエトスはかつてグゼが治療し助けたテラスだったのだ。
 アエトスの助力も受け、テラスにさえ親しまれるグゼの優しさを知りながら、一行はコカロ渓谷を難なく突破する。

 その後彼らは首都へ入る為の証明書を得る為に途中にランフォスの街を訪れる。
 アルムの提案で一行が立ち寄ったのは『セルセラコミュニティ』なる団体の支部だった。

 世界中に広まる便利屋組織『セルセラコミュニティ』は、誰でも入れる特殊な組織。人助けをする事と引き換えに、様々な報酬や情報、各国各都市へ入る為の身分証明を保証するという。
 罪人の更生施設としても利用され、来るものの素性を問わないその組織は、まさに身分を隠したいグゼとアルムにとっては好都合だった。
 今後の旅の事もあり、コミュニティにメンバー登録しても損はないと考えた薄葉と明華もランフォスにてメンバー登録に向かう。

 その受付に居たのは、何故か無地の白い仮面で顔を隠す飄々とした女、ジアミエン。
 登録条件の最初の依頼を受け、何とかメンバー登録を終えた四人に、ジアミエンは思わぬ情報を寄越す。

 ノトス砦にて、黒髪の天使、イツキが待ち構えている。

 危険なルートやおすすめのルート、様々な情報を寄越し、まるで事情を知っているかのような奇妙な態度を見せるジアミエンに対し、明華は僅かな違和感を覚えながらも、情報をもとに避けられぬ関門ノトス砦を目指す事になる。



 ノトス砦にてイツキと衝突する明華達。
 同じ伝承の天使として交渉を持ちかけるも、聞く耳を持たないイツキは、身体能力を向上させる魔導『付術』にて明華と交戦する。
 圧倒的な速さの前に、瞬く間に倒される明華。その意外な決着に驚きを隠せない一同。
 そのままグゼに手をかけようとするイツキだったが、アニードに止められる。

 グゼを異様に憎むイツキ。
 知り合いであるかのような会話を交わす二人の真実は、アニードの口から発せられた。

 イツキとグゼ、二人は兄妹だったのだ。

 薄葉、明華と同じく、兄妹でこの世界に喚び出された伝承の天使。イツキだけでなく、グゼもまた、伝承の天使だった。
 意外な事実に驚く暇もなく、グゼにイツキの刀が振り抜かれようとしたその時、それを遮らんと攻撃が飛ぶ。それを難なく払うイツキ。
 その攻撃の主は明華。彼女はやられたふりをしていただけだという。
 薄葉の力を見せつけるため敢えて引いた彼女だったが、グゼに固執するイツキを前に、薄葉が出る幕がないと判断し、自らが前に出る。

 イツキを小物と吐き捨てる明華に、イツキは激怒し再びその矛先を明華へと向ける。

 しかし、前の一瞬の交戦は茶番に過ぎなかった。

 一度見た付術を明華は一瞬でものにする。イツキの速さに難なく付いていく明華は、更に強力な魔法でイツキを圧倒していく。
 そして最後には、イツキの動きを完全に見切り、全てを捩じ伏せ、その自信を完膚なきまでに叩きのめす。

 圧倒され、封じ込まれ、しかし尚もグゼに怨嗟の言葉を吐き続けるイツキ。

 そんなイツキを後目に、首都方面からテラスに跨り、グゼを迎えにやってくるエクスィレオスィのメンバー、ヴロミコ。未だ、敵意を失わぬイツキを明華に任せ、グゼとアルムは一足先に首都へと向かう。

 あいつから王を守らねば、と抵抗を続けるイツキに、グゼが王を狙う理由を尋ねる明華。

 その理由を語るイツキの口から真っ先に飛び出した事実は、色々な意味で明華と薄葉に衝撃を与える。

 今まで女性と思い込んでいたグゼは、イツキの妹ではなく、兄。
 彼女、ではなく彼は、男だったのだ。



 イツキから、この世界に召喚された経緯と、王に見捨てられたグゼの過去を聞かされた薄葉と明華。
 王とグゼ、どちらか悪いか。その判断こそしないものの、グゼの真意を確かめる為、王を想うイツキの意思を尊重する為、明華と薄葉は首都へと向かう。
 その時、首都には多くのテラスが集まりつつあった。



 その髪を元の黒へと戻し、天使としての姿を晒したグゼは、一足早く王城へと辿り着き、ヴォラス王レークスとの再会を果たす。
 性格を大きく豹変させたグゼは、王を巨大な樹、世界樹へと閉じ込め、本当の目的を果たす為に動き出す。
 その目的とは全てのものに平等に痛みと恵みを与えるという最大級の治癒術『エクスィレオスィ』の発動。

 ノトスという国全てを巻き込んだ野望を前に、真実を確かめにきた明華達は立ち塞がる。

 不思議な花を背中に咲かせ、圧倒的な力を見せつけるエクスィレオスィのメンバー達。彼らの不自然なまでの力を前に、思わぬ苦戦を強いられる。
 彼らは自らの力をグゼの力と称し、大治癒術エクスィレオスィの力を明かす。
 それはノトス中に無数に存在するグゼの治癒術を受けた人間の魔法の源アルマを共有するというもの。彼らは国一つの力を抱えたというのだ。
 
 戦いの最中、突然発せられるヴロミコ、アルム、そして薄葉のグゼに対する熱い(?)想い。それに揺さぶられながらも、明華とイツキは桁違いの力を見せるヴロミコ、アルムを撃破する。

 最後に残るは伝承の天使、治癒術使いの才羽救世サイバグゼ。アルマコントロールに長けた治癒術を操る彼の力は、エクスィレオスィにより段違いなものとなっていた。

 ……と、そんな危機的状況の中、明華はヴロミコ達の情熱に感化され、思わぬ行動に移る。
 失恋(?)に固まる薄葉を慰め、まさかの兄への愛(?)の告白を実行する明華。
 しかし、答えは当然の如くノー。
 混沌とした状況の中、気付けば明華の蹴りは、薄葉の頭をぶち抜いていた。

 思わぬ理不尽な暴力に戸惑う救世と済。しかし明華はケロッとした様子で余裕を見せる。
 
 その滅茶苦茶になってしまった空気を打ち破る様に、残る救世と済は激突する。
 反応すら許さぬ付術の移動で、瞬く間に妹、才羽済サイバイツキを封じ込める救世。付け入る隙のない救世の前に、残る力も少ない明華にも勝ち目がないかと思われた。
 しかし、そんな中で思わぬ人物が立ち上がる。

 明華の理不尽な報復を受けた筈の、気を失った筈の薄葉はいつの間にか立ち上がっていたのだ。

 明華が宣言するそれは、暗中無心拳『第二段階』。

 余裕を見せていた救世が、一瞬で表情を凍りつかせる程の圧倒的な速さ、強さを見せつける薄葉。気付けば救世はエクスィレオスィを行使する為の魔具ヴィヴロスをも薄葉に破壊され、完全に抑え込まれてしまう。

 完封された救世に明華はその本心を問う。

 あくまでも悪役を演じる救世に、明華が示すのは『第二段階』の特性。
 それは敵の殺気や敵意により鋭く反応するという、意識がない状況でしか使えないという、寝ながら戦う暗中無心拳の『スリープモード』。
 それが何を示すのか。
 
 やられる分だけやり返す。殺す気でくれば殺す気で返す薄葉のスリープモードを前に、救世は抑え込まれるだけだった。
 救世は、その不気味で圧倒的な存在を前にしながらも、一切薄葉を傷付けるつもりはなかったのだ。

 こんな状況でも他人を傷付けられない。救世は誰かを害すつもりはなかったのだ。

 そして救世は、自分と似たものを感じ取った、外見だけで他人に判断され苦しんでいたヴォラス王レークスを救いたかったという本心を打ち明ける。
 治癒術エクスィレオスィ、その本当の目的は、『人間を超越したアルマを有する神を作り上げる事』。救世はレークスに他人に侮られない力を与え、道を誤らないようその命をもって枷になるつもりだったのだ。

 エクスィレオスィも破られ、計画を断念する救世は、レークスを解放する。そして自らの罪を償うことを約束した。
 怒り狂うレークスは当然救世に罰を与えんとする。
 しかし済はそれを止める。
 彼女は救世と正面から向き合い、かつての彼の事を思い出していた。
 そして今までの恨み事が、全て的外れで自分勝手なものだった事に気付き、救世に悪意はなかったことをレークスに伝える。
 しかしレークスの怒りは収まらず、遂には役に立たない道具である済も不要と冷酷に切り捨てる。

 妹、済が恋い慕うレークスの非情な言葉。それに対して初めて怒りを示す救世。その言葉の撤回を要求するも、レークスは引かない。初めて怒りに任せて、他人に手を下そうとする救世。
 しかしそれよりも先にレークスは蹴り飛ばされることになる。恐ろしい笑顔を浮かべる明華によって。

 非情な言葉を発したレークスは、明華によって教育(?)されることになり、ノトスで起こった大事件はひとまずの収束を見せることになる。




   ----



 王城に爪痕こそ残したものの、当初からの救世の方針によりエクスィレオスィによる事件は大きな被害を残さなかった。
 その事もあってか、それとも明華の教育のおかげもあってか、救世に対する大きな罰はなく、彼はセルセラコミュニティにて引き取られ、贖罪のための慈善事業を命ぜられる事になる。

 事件も落ち着き、王城にて天使の伝承の一片、「天使は黒い髪を持つ」という情報を手に入れたものの、明華は元の世界に帰る方法を見つけられずにいた。まだまだ旅は終われないようだった。

 そんな中、エクスィレオスィのメンバー、ヴロミコとリエンが天使の伝承を調べる彼女達に情報を持ってくる。
 なにやら隣国のズィスィにも、黒髪の天使が居るというのだ。

 その情報をもとに、セルセラコミュニティにてズィスィの情報を調べる明華。そんな彼女に、何故か首都パラディソスにも居るジアミエンはとある噂を吹き込む。

「……デア・ピルゴスは今、『堕天使』を名乗る黒髪の化け物に支配されているんだよ」

 神が降り立つという伝説の塔デア・ピルゴス。そこに住まう黒髪の堕天使の噂。

「堕天使は、腕が十本あって、頭からは二本の角が生えている。そして、目は一つしかなくて、恐ろしい力を自らの右腕に封印しているらしいですよ。怖いよね~?そいつがいるせいで、塔には今、誰も入れないんだってさ~。しかも、立ち入り禁止の立て札を無視して入った者は……生きては帰れないんだとさ」

 信じ難い化け物の情報。『黒髪』という情報に天使の可能性をほんのわずか抱く。
 しかし何より、「デア・ピルゴスのてっぺんで行う、恋の願いが叶うおまじない」に釣られた明華。

 僅かに見せるジアミエンの怪しげな雰囲気。そしてまるでどこかに明華達を導いているような言動に対し、引っかかりを覚えながらも、明華は次の目的地をズィスィのデア・ピルゴスに定めた。




 そしてしばらくの休養ののち、薄葉と明華は改めて旅を再開する。

 そんな彼らを待ち受けていたのは、思わぬ二人。
 旅立つ彼らの前に、旅支度をしてテラスに乗った救世と済、才羽兄妹が現れたのだ。

 救世はセルセラコミュニティの仕事として他国へと治癒術による奉仕に出向き、レークスに切り捨てられた済は失恋の憂さ晴らしにと、救世の付き人がてらに旅に出るという。

 何やら明華に救われて、彼女に奇妙な感情を抱き初めている様子の救世は、どうせ行き先は同じだからと旅の同行と元の世界に帰る方法を探す手伝いを申し出る。

 薄葉と明華はそれを快く受け入れ、天使の伝承を追う旅に、新たな仲間が加わった。

 テラス、ベゲモートの足を借り、少し楽になった旅。
 ズィスィを目指して四人の天使の旅が始まる。




   ----



【本編中に登場する一部の用語解説】

 今回、ダイジェスト化に伴い、文章が大幅に削減されてしまいました。その為、今後作中に登場する用語の解説が上のダイジェスト版ではカットされてしまっています。
 書籍版ではその解説なども記述されておりますが、web版を、通して読める様に、ここに簡単な用語解説を加えさせていただきます。


 【アルマ】
・異世界テッラに置ける全ての生命の源となるエネルギーのようなもの。
 すべての動植物はアルマを身に宿し、常にその体はアルマを生み出し続けている。
 呼吸するようにそれは大気中から吸収され、体から吐き出されるという空気と限りなく近いもの。テッラに置けるほぼすべての事象には、これが関わるといっても過言ではない。
 生きていく上で不可欠なエネルギーであるのと同時に、魔導の行使においては必要不可欠なエネルギーとなる。これをコントロールし、形を成すことで魔導は成り立つ。
 食事や睡眠など、生命の営みに応じて生成されるので、魔法や運動などで消費したアルマをすぐに回復させたい場合は休養が最も重要。
 基本的には、このアルマの保持量が、その個体の能力の高さを表すとされ、小さな体でもアルマを多く持っていればそれは強力な個体であるケースが多い。(例外的に、何故か薄葉の内包するアルマは希薄)

 【魔導】
・異世界テッラに伝わる特殊な技術。
 アルマと呼ばれる特殊なエネルギーを用いて、様々な方法(例:呪文の詠唱)により特別な事象を引き起こすもの。魔導は様々なジャンルに分類される。
 代表格と言えるものは『魔法』。魔法は主に呪文などにより、『アルマで事象を引き起こすもの』とされている。(例:炎を生み出す、など)
 作中、二章にて登場する『付術』は、魔法とは違い事象を生み出すことはできず、アルマにより『ものに性質を付加するもの』とされている。(例:身体能力強化、武器強化など)
 同じく二章に登場する『治癒術』は、『アルマを与え、癒すもの』とされているが、その本質は『アルマの移動を操るもの』とされ、魔法の祖とする説もあるという。(例:アルマを与えての回復、アルマの強奪)
 魔導はこれ以外にも多数あり、三章登場のズィスィでは器術という魔導が盛んであるとされている。

 【魔具ヴィヴロス
・魔導を行使する際に扱う道具のようなもの。
 武器やアクセサリなど様々な形を取る、魔導士には必須のアイテム。
 特別な魔法サポート機構が搭載されており、ものによって、消費アルマを軽減するサポートや魔法の威力を高める機能、呪文詠唱を短縮する機能などがある。
 好みによって機能は変えられるが、魔導士は自分に適したものを利用する。
 その為、機能外の魔導は発動が難しく、多くの魔導士は多数の魔法は使えず、少ない種類の魔法を操るに留まる。
 ちなみに作中の『付術』や『治癒術』にはサポート機構が現時点で存在していないとされ、それがより特別な技術として強く認識される要因となっている。


 上の三つは今後も多く登場する用語です。
 基本的には細かい用語を覚えなくとも、読み進められるようには努力しておりますので、何が起こったかを曖昧にでも覚えていただけると、この先の物語を読み進める事はできるかと思います。
参考までに、書籍版との主な変更点について下に記載致します(詳しい内容についての問い合わせはご遠慮下さい。申し訳御座いません)。

・セルセラコミュニティの登場部分
・コカロ渓谷部分
・物語の流れ、情報把握の一部分
・救世、済加入部分
・薄葉の回想部分

他にも変更点はありますが、目に見えて分かる変更点のみを抜粋してあげました。
なお、書籍版にて未登場な部分につきましては、削除という訳ではなく、終了部分が違うだけ、もしくは流れの変更という事になっておりますのでご了承下さい(収録仕切らなかった部分につきましては、以降、検討状況により収録予定? 現在は未定となっております)。

前書きにて述べました通り、ダイジェスト版は細かい描写を除き、Web版に完全対応させておりますので、Web掲載分の続きに繋がる形になっておりますので、以上の変更点などとは関係なく、継続して読む事ができますのでご了承下さい。

以上、注意点や補足などを読んだ上で、ご意見、ご要望、問い合わせなどがありましたら、感想、メッセージなどで私にお知らせ頂けると幸いです。

この度、大きな変更を行い、ご迷惑をお掛けし大変申し訳御座いませんでした。
今までお付き合いしてきてくださった方は、今後も引き続きお付き合い頂けると嬉しいです。
この機会に関わりを持ってくださった方も、今後長いお付き合いをしていただけると嬉しいです。
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