28日刊行の米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表された研究結果によると、昨年日本海沿岸海域から南カリフォルニア沖合に回遊してきたクロマグロが、福島第1原子力発電所の事故に伴うセシウムに汚染されていることが分かった。
セシウムの濃度は米国と日本が危険としているレベルの10分の1で、これを食べても健康被害はないとみられる。この調査は、スタンフォード大学の海洋生態学者ダニエル・マディガン氏らのチームが行ったもので、福島原発から遠く隔たったところまで回遊魚が短期間に放射性物質を運んできたことを初めて示した。
マディガン氏は「マグロは放射性物質に汚染され、これを世界最大の海洋を横断して運んできた」とし、「われわれはこのことに驚いたが、もっと驚いたのは調査対象の全てのマグロから放射性物質が検出されたことだ」とした。
この調査結果を受けて、ウミガメやサメ、海鳥など、日本の周辺にいるもっと広範囲な海洋生物が低いレベルのセシウムを運んでいる可能性も指摘されている。同チームは今夏、クロマグロの他、ビンナガマグロ、ウミガメ、数種類のサメを調査することにしている。
日本をはじめ世界中ですしの材料として人気の高い太平洋のクロマグロは、日本海で産卵する。成長すると日本の南海域を回遊し、黒潮に乗って北上して、福島沖を通る。その後、6000カイリ(1万1000キロメートル)以上を泳いで太平洋の東部に至る。最終的にはここから生まれた海域に戻って産卵する。
マディガン氏らは、趣味の釣り人が原発事故約5カ月後の昨年8月にサンディエゴ沖合で釣った15匹の若いクロマグロを調べた。マグロが太平洋を横断する前に通過する東日本沿岸海域の放射能濃度は事故の数週間後に最大で通常の1万倍に達した。
調査では、カリフォルニア沿岸海域に到着したマグロのセシウム137とセシウム134の濃度はわずかに高まっていた。これらはいずれも筋肉組織に集まる傾向がある。セシウム137の量は数十年前の核実験の影響で自然界に残っているセシウムのレベルの5倍だった。半減期約2年のセシウム134は原発事故の前は海洋生物や海水からは検出されていなかった。
科学者らは、全般的なレベルはマグロの自然発生的な放射能を3%ほど押し上げるものだったと述べている。調査に参加したストーニーブルック大学(ニューヨーク州立)の海洋生物学者ニコラス・フィッシャー氏は「全てのマグロから同程度のセシウム134とセシウム137が検出された」とし、「これは非常に明瞭なデータだ」と話した。
同チームは比較のために同時期に捕ったキハダマグロと、08年に捕ったクロマグロの組織も調べた。キハダマグロは通常、一生を通じてカリフォルニア沖合で過ごす。調査の結果、いずれの組織からもセシウム134は検出されず、セシウム137は事故以前のレベルだった。