Q2 なぜ,新たに人権救済機関を設ける必要があるのですか。
人権擁護推進審議会の答申では,我が国において,児童や高齢者に対する虐待,女性に対する暴力,障害等を理由とする差別,学校や職場におけるいじめなど,数々の人権問題が起きていることを指摘した上,公権力による人権侵害への対処を含めてより実効的な救済をするためには,政府からの独立性を有する新たな人権救済機関の設置が必要であるとの提言をしています(最近の人権侵犯事件の状況はこちら)。
現在,法務省の人権擁護機関において人権救済に取り組んでいますが,その担当部局である人権擁護局は,法務省の内部部局として法務大臣の指揮監督下にあり,また,その活動は,法務省の内規に基づいて行われています。そこで,政府に対しても独立性を有する立場で活動のできる中立公正な機関を新たに法律で設置し,その機関が国内の人権状況を調査・検討したり,人権救済を行ったりなどすることが必要だと考えられているのです。
国際的に見ても,各国に国内人権機構が置かれるようになり,平成5年には,国連においても,国内人権機構が拠るべき基準(これは,「パリ原則」と呼ばれています。)が総会において採択されました。我が国は,平成10年に,規約人権委員会から,政府からの独立性を有する国内人権機構の整備について勧告を受け,その後も,今日まで,各種人権条約の委員会等から,同様の勧告等をたびたび受け(※),例えば,平成20年の国連人権理事会の普遍的定期的レビューにおいてなされた勧告に対し,パリ原則に沿った国内人権機構の創設に向けた検討を引き続き行っていく旨の回答をするなどしています。
なお,上記審議会の答申は,このような国際的な状況も踏まえたものです。
このような答申やパリ原則の趣旨を踏まえると,現在の人権擁護活動について,(1)明確な根拠法を制定することとともに,(2)行政権力の担い手である所管大臣から指揮監督を受けない機関,すなわち,政府からの独立性を有する機関を新たに設置し,この機関に上記の活動を担わせるものとすることが必要です。
このようなことから,「基本方針」第2項及び「法案の概要」第3項において,政府からの独立性を有する人権救済機関を設置することとしたものです。
(※)各種人権条約の委員会等による言及(最近のもの)
・平成13年(2001年) 3月 人種差別撤廃委員会
・平成13年(2001年) 9月 社会権規約(A規約)委員会
・平成15年(2003年) 7月 女子差別撤廃委員会
・平成16年(2004年) 2月 児童の権利委員会
・平成19年(2007年) 8月 拷問禁止委員会
・平成20年(2008年) 5月 国連人権理事会(普遍的定期的レビュー)
・平成20年(2008年)10月 自由権規約(B規約)委員会
・平成21年(2009年) 8月 女子差別撤廃委員会
・平成22年(2010年) 3月 人種差別撤廃委員会
・平成22年(2010年) 6月 児童の権利委員会