生活保護支援法律家ネットワークについて

創立の趣旨

 2006年10月6日、第49回日弁連人権擁護大会におけるシンポジウムにおいて、「当連合会は、生活保護の申請、ホームレス問題等の生活困窮者支援の分野における従前の取り組みが不十分であったとの反省に立ち、今後、研究・提言・相談支援活動を行い、より多くの弁護士がこの問題に携わることになるよう実践を積み重ね、生活困窮者支援に向けて全力を尽くす決意である」との決議がなされました。そして、2006年6、7月にかけて行われた全国一斉生活保護110番において、634件の相談が寄せられ、過去に福祉事務所に行ったことのある180件のうち、少なくとも118件(約65.6%)のケースにおいて、違法性の高い対応が認められました。

 また、全国青年司法書士協議会では、2004年から生活保護110番を実施し、3年目の2006年7月29日の全国一斉生活保護110番においては、680件の相談が寄せられました。その中でも、122件が生活保護申請をさせてもらえないという内容でした。

 そして、日弁連において、2007年4月から法律援助事業として高齢者・障害者・ホームレスの方々に対する生活保護申請等の弁護士費用の援助制度が始まりました。

 ただ、現実にこのように多くの相談が寄せられても、そして、弁護士費用等の援助の制度ができても、実際に生活保護申請代理・申請同行を行う法律家がいなくては、どうにもなりません。

 これまで個別に申請や審査請求などの救済活動を行ってきた法律家はいますが、それではようやくたどり着いた相談への対応に終始するのが限界です。多くの相談を吸収し、生存権を違法に侵害されている生活困窮者を支援するためには、広く法律家を集めて、広報をして、多くの相談を寄せられるようにしていく仕組みが必要です。

 私たちは、そのような仕組みを作るために、本ネットワークを創立しました。

 全ての福祉事務所において、生活保護の利用の要件を満たしている人に対して福祉事務所が生活保護の申請を助言する義務があることが当たり前のことと認識されるまで、私たちは本ネットワークとしての活動を続けていきます。

近畿生活保護支援法律家ネットワーク設立趣意

1 いま、生活保護は、最後のセーフティーネットとしての機能を果たしていません。憲法13条では一人一人が「個人として尊重される」ことを明記し、憲法25条は健康で文化的な最低限度の生活を送ることを保障しています。そして、生活保護法がこれらの憲法の精神を具体化しています。

 しかし、生きるか死ぬかの状態にさらされてもなお、生活保護を利用することは困難な実態があります。生活保護を取り扱う各市町村の福祉事務所が、「行きたくない役場」と評される場所になってしまっているのです。

  国は、生活保護制度について適正化と称して、「水際作戦」と呼ばれる申請窓口での違法な対応や、保護利用中の辞退届の強要や不当な保護廃止を横行させました。何度窓口に通っても、困窮者の無知につけ込んだ誤った指導や、恥辱的な言葉を投げつけられて追い返され、申請が受理されない例は、決して少なくありません。その一方、生活保護を利用している人々にも、「自立の助長」の名に値しない就労指導や、プライヴァシー無視の高圧的な対応など、人としての尊厳を踏みにじるような厳しい締め付けが行われ、そのような指導に従わなかったことを理由に生活保護を打ち切られることがあります。

  その結果、ただ生命を維持するのがやっとの極限の生活を強いられ、果てにはそれさえ不可能になって餓死するなど、悲惨な報告が後を絶ちません。「適正化」の名の下に、生きる権利が否定されているのです。

2 このような事態に対して、これまでにも、個々の法律家が相談に応じ、福祉事務所と渉争し、生きる権利を守ってきました。いま、法律家による組織的な支援が始まっています。

 昨年10月、日本弁護士連合会の人権擁護大会シンポジウムにおいて、生活保護に関する問題が取り上げられ、「生活困窮者支援に向けて全力で尽くす決意である」との決議がされました。これを受け、日本弁護士連合会では生活保護問題緊急対策委員会を発足させました。

 司法書士も、全国青年司法書士協議会において生活保護110番を4年続けて実施するなど、従来から生活保護に関する問題への取組みを行ってきました。

 また、関東では弁護士・司法書士有志が、今年4月に「近畿生活保護支援法律家ネットワーク」を発足させましたが、同ネットワークには首都園のみならず、全国から悲鳴のような相談が日々寄せられております。

 この支援の輪を、更に広げていかなければなりません。

3 本ネットワークは、近畿地方を中心として弁護士・司法書士など法律家が、生活保護問題に対して、生活保護申請・審査請求・訴訟等の相談及び援助を中心として取り組むことを、目的として設立致します。

 そして、福祉事務所の違法・不当な対応によって貧困の窮みに立たされ生存すら脅かされている人々を支援し、現在の歪んだ生活保護制度を正常なものとし、「最後のセーフティーネット」の名に相応しい機能を取り戻させるべく、全力をあげて取り組むことを設立の趣意とします。

2007年10月6日

規約

近畿生活保護支援法律家ネットワーク規約

本ネットワークの体制

(1)組織
代表 竹下義樹(弁護士)
代表 辰巳裕規(弁護士)
事務局長 吉田雄大(弁護士)

登録申込総数 163名
(2007年12月20日現在。うち弁護士83名、司法書士66名、実務家14名)

(地域別法律家内訳)
2府4県 大阪38 京都29 滋賀16  奈良15 兵庫40 和歌山10

大阪  38 京都  29 滋賀  16
奈良  15 兵庫  40 和歌山 10

(2)相談対応体制
 近畿生活保護支援法律家ネットワーク相談・事件配転基準

(3)会計
 法律家会員の会費により賄う。

広報の仕方

(1)生活保護110番の開催などによる周知
(2)医療相談室、介護支援事業者、各種施設、支援団体など生活困窮者から相談を受けるところに案内を送付

 

相談料、報酬について

(1)相談料
 法テラス(日本司法支援センター)の事務所相談登録弁護士・司法書士については、法律相談援助を利用して、相談者本人に負担がかからないようにする。  事件内容・・・民事・家事・行政事件が対象

(2)報酬・日当等
 日本弁護士連合会法律援助事業(高齢者・障害者・ホームレスに対する法律援助)の利用が可能なケースについては、利用する。

 それ以外の事案については、依頼者の資力が乏しいことから、上記法律援助事業の援助額基準を上限として、それを依頼者の生活上の支障が少ない額で分割払いとする配慮をする。

これまでの相談受付状況

平成19年10月9日〜12月11日までの相談受付状況

(1)常設相談受付 184件の電話連絡に、128件につき法律家紹介
 (10/9〜12/11の45日間、1日平均4件程度)

<内訳>
大阪62件(うち42件配転、以下同)
兵庫64(44)
京都28(18)
滋賀10(7)
奈良5(5)
和歌山6(5) ほか

(2)10月27日生活保護電話相談実施  43件の相談