武雄市Facebookページ分析から見られる、
自治体がソーシャルメディアで実現できること

日本初!自治体ホームページのFacebookページ化を実施、その目的と成果

九州の佐賀県にある武雄市(面積195.44㎢、人口約5万人 ※2012年推計)は、日本随一のソーシャル都市。海外ではすでにカナダのレジャイナ市(面積118.66㎢、人口約17万人 ※2001年統計、カナダで21番目の人口)などの自治体がFacebookページを活用(http://www.facebook.com/CityRegina)し、投票結果を市政に反映するなど市民の声を拾い上げている例も散見されるが、日本ではそうした例は2011年2月当時まだ無かった。

日本Twitter学会に続き2011年2月には日本Facebook学会を自ら創設した樋渡啓祐市長が、その場で市のFacebookページをつくってしまったのだ!
半年後の8月1日、武雄市はホームページの機能すべてをFacebookページに全面移設したことで、武雄市民には「聞く姿勢」を示し、それがニュースとなり、「ソーシャル活動に意欲的な武雄市」が全国的に知られることとなる。

武雄市役所Facebookページは2012年3月14日時点で約1万2,500人がファン登録。これは、およそ武雄市の全人口の1/4にあたる数がFacebookページから発信された情報を見ていることになる。



「Facebookページ化」で
武雄市役所が享受している定量数値

月に5万ページビューだった武雄市役所のホームページは、昨年8月、Facebookページに完全移設したことでこれほど多くのファン、閲覧数、反応数を獲得している。
もちろん武雄市の意欲的で積極的な行動と、「ファン」を通じて、バイラルに認知が広がるFacebookの仕組とが、相互に作用したことによる。
だが武雄市が提言しつづけている「行政こそFacebookを使うべきだ」は、「この可能性が武雄市だけではない」ことを伝えている。

ファンは約1万2500人、情報の閲覧数が旧ホームページの約40倍に拡大

グラフから一目瞭然だが、2011年8月1日の移設を機に、以前からホームページを利用していた武雄市民、ホームページを利用していなかった武雄市民、リリース記事や報道で取組を知った武雄市外の人々が、一気に集まり、8月はウォールに投稿した記事が390万インプレッションを記録した。その後数値はFacebookの表示アルゴリズムの変動などもあったとされ(同じ人に同じ記事を表示することを、なるべく回避するように変更された)落ち着きを見せるものの、移設前のホームページの利用状況は、トップページと記事ページ合せて月間5万PVであり、2012年2月現在、ホームページ時代の40倍の閲覧数を生み出している。
同じく公益性の高い「Yahoo!天気情報」のファン数がほぼ同数(2012年3月14日時点、約1万2000人)であることからも武雄市役所の「ファン」の多さが分かる。



情報を多く見てもらえることは、市外に向いた観光課にとっては認知拡大とともに来訪者の増加が産業の振興につながり、市民と向き合う行政課にとっては情報の浸透がより多くの市民からの信頼の獲得と、円滑な業務の遂行につながる。
もちろんhtml言語を使わずに情報更新出来るようになり、職員が気軽に参加できるようになったことなど、作業の負荷軽減の点でもメリットは非常に大きい。

武雄市が市のホームページをFacebookページに移設した4つの目的

  1. 市職員と市民がコミュニケーションを取る機会を設け、両者をつなげていく。(インタラクション性)
  2. 市の活動や施策などの情報を、素早く発信し、市民に限らず広く拡散する(拡散性)
  3. SNSを使って広く誰でも見せることで「常につながっている」ということを意識させ、職務に対する意識も向上させる。(職員の意識の向上)
  4. 生まれたつながりを最大限に生かして、社会に貢献する(意見の活用や、市民の暮らしへの貢献)

上記の4目的が、これまでのホームページからFacebookページにすることでどう達成されたか、ここではFacebookページに備えられている分析ツール「インサイト」の分析データを主に使いながらひとつづつ見ていこう。

1. 市職員と市民がコミュニケーションを取る機会を設け、両者をつなげていく。(インタラクション数で計測)

2011年8月1日〜2012年2月29日のインタラクション数の累計

インタラクション数:83,266

※「コメント数」「いいね!数」「シェア数」の期間合計

武雄市の投稿に対する「コメント数」と「いいね!数」「シェア数」「合計」の月別の推移 ※インサイトより

従来のホームページでは、問合せ先として、代表電話番号、担当部署「つながる部」の電話番号とメールアドレスが記載されているだけで、市民と市の職員が交わす建設的なコミュニケーションが他の市民や第三者から見られることはなかった。
その点Facebookページは、コミュニケーションを交わすための場であり、市のFacebookページを登録(いいね!)した市民・ユーザーは自分のページを眺めているだけで最新の情報を確認し、それらに対してコメントや「いいね!」を、"コミュニケーション"として届けることが出来る。
個人のFacebookアカウントは実名なので、理由なく荒れるケースが少なく、建設的な意見が集まること、応援メッセージやいいね!の数で、どのような施策が評価されているのかの一つの指標を持てたことも自治体にとっての、大きなポイントだろう。
実際に武雄市の職員からも「ポジティブなフィードバックがもらえることは、職員のやる気にもつながるし、施策のフィードバックが多面的に行えるためありがたい」との声が聴かれる。

2011年8月から2012年2月の、「コメント」「いいね!」「シェア」がつけられた数は表のとおりで、これまで実現できなかった月平均1万件以上のインタラクション(反応・声)が発生するなど、成果は顕著に出ている。

2. 市の活動や施策などの情報を、素早く発信し、市民に限らず広く拡散する(投稿数と、クチコミリーチ数で計測)

2011年8月1日〜2012年2月29日の投稿数と、クチコミリーチ数の累計
投稿数:1018
クチコミリーチ数 ※:9.0万


※ファン以外のユーザーにリーチした人数の期間合計

毎朝一番に投稿される、情感たっぷりの気象情報+佐賀県の鉄道情報+その日についての蘊蓄は武雄市役所Facebookの名物となっている。日々の挨拶は、ファンと市の職員の対話やファン同士のコミュニケーションを生み出している。

武雄市役所Facebookページで投稿されている情報は、市外の人でも読んで楽しめる広報的なコンテンツが多い。
市外からも多く集客して盛り上げたいイベントの告知や、広く取組や姿勢を知ってもらえる記者会見の動画が、市民や市外のファンを通じてその「友達」に伝わっていくことが、大切になる。

2011年8月1日から2012年2月29日の、武雄市役所Facebookページのファンから、シェアやいいね!さらにコメントなどを通じて、その友達に見られた数(ユニークユーザー数)は、合計で9万人。
最低でも月間500人、最大5万人のファン登録していないユーザーに情報がリーチ(=拡散)している。

また、1か月の平均投稿数も144件と多く(合計1,018件)、コンスタントに100件以上をキープしている。
旧ホームページのお知らせの更新が月間30件ほどであったことから、情報の素早い発信も、実現されている。

3. SNSを使って広く誰でも見せることで「常につながっている」ということを意識させ、職務に対する意識も向上させる。(職員の意識の向上)

武雄市役所Facebookページのウォール投稿数
2011年8月 2011年9月 2011年10月 2011年11月 2011年12月 2011年1月 2011年2月
ウォール投稿数 169 149 183 134 151 108 124

市(の職員)が市民、市外のファンにオープンでインタラクティブなコミュニケーションの場を提供することは、当然1対1のやりとりが他の職員、上司、市民、市外のファンにも開示される。
数値では測り難い部分であるが、オープンな状況の中で毎月100件以上の投稿を継続することは、不誠実な対応をしていては成り立たない。また、市の職員全員がFacebookアカウントを持ち、この4月より運用を始めることはその意識改革の第一段階が完了した、とみることができる。

2012年1月に方針として全職員のFacebook登録を発表し、2月下旬には4月の実施に向けて講習会が開催された

コラム武雄市全職員 FaceBookアカウント取得の目的

4月より武雄市では市の職員全員がFacebookアカウントを持ち、庁内コミュニケーションをFaceBookに一元化する動きを開始している。さらに4月中にはFaceBook上でスケジュール管理や施設管理などを行える機能を追加することで、業務上のすべてのコミュニケーションをFaceBook上に集約一元化することを計画している。
これらの施策を実施することにより、業務実施中におけるFaceBook滞在時間を極大化することが出来るため、武雄市のFaceBookページとの相乗効果で、市民からのコメントへの即時対応など、顧客中心主義の推進と業務効率改善が期待される。

4. 生まれたつながりを最大限に生かして、社会に貢献する(意見の活用や、市民の暮らしへの貢献)

コミュニケーションを取るだけではなく、書き込まれた意見で市や市民にとって有用なものを、最大限活用し社会に貢献する。武雄市では主に武雄市民に対して積極的に意見募集も行っている。
写真左は食育の計画書についてだが、ソーシャルシティ宣言を機に、こうした活用法はさらに本格化される。
なお、ファン登録してくれた市民に対して、暮らしに役立つ情報も日々提供している(写真右)。

2012年3月に出されたばかりの、食育の計画案に対する意見募集の投稿。ファンからはコメント付きで友達に広める目的とみられる「シェア」3件が実行されていた。

2012年2月に投稿された、水道管の凍結への注意情報。こうした情報は、ホームページでは市民が見に行かないと行き届かず、「いつも情報ありがとう」「シェアします」といった感謝のコメントが続いて発生していた。

運用実績データが語る、活気を生む反応の作り方とこれからの課題

ファンのインタラクションから見える「ファン」のニーズ傾向

個々の投稿への関心度をみる指標として、「コメント」や「いいね!」「シェア」が多く発生しているエントリーを見ることは分かりやすい。2011年8月1日〜2012年2月29日の投稿を対象に、これら3つのインタラクションが多い投稿上位各5エントリーを抽出し、さらにエントリーの内容をカテゴリでラベリングした。(表参照)
現時点ではFacebookページ関連のエントリーへの反応が多く、先進性・話題性を広めて推進する内容のエントリーが多くの反応を得て、応援されていることが判る。
なお、ここでは期間内の全エントリーを対象としたが、例えば行政のカテゴリーのみでランキング抽出を行うことで、行政のニーズをより顕在化することができる。

いいね!数の上位5エントリー


シェア数の上位5エントリー


コメント数の上位5エントリー

※数値は2012年3月14日時点

無関心な内容や、不親切な投稿への反応は発生が制御される

下は、2012年2月の武雄市役所Facebookページの日別の投稿件数と、インタラクションの発生件数をグラフで示したもの。
これを見るとインタラクションの増減は、ほぼ投稿件数に比例して推移していることが判る。細かくファンの関心を把握したい場合には、2月10日のように、やや反応の傾向が異なるデータを見るのもコツとなる。
投稿件数が8件と最大であるにもかかわらず、インタラクションの発生件数では、投稿件数の少ない14日や24日に及ばず、投稿の内容を見ることでファンの関心がどこに向けられているか、把握が行える。
なお、10日は画像のみの投稿が多く、テキストの補足が無いエントリーが続いていたため、説明不足からインタラクションの低下を招いた可能性も考えられる。

2012年2月の武雄市役所Facebookページ日別投稿件数とインタラクション数(単位:件)

2月10日の、画像のみの投稿。加えてアルバムのタイトルも無く、インタラクション発生は少なかった


行政のあるべき姿の斬新な追求が市内外から注目され、市民にも反応と活気が生まれる

2012年2月の武雄市役所Facebookページの投稿内容と、主な指標

※内容間の重複有、パブリシティ・イベント・講演・記者会見の放送・開催中の投稿は「報告」に含む

また、同じく2012年2月の投稿から、内容ごとの反応や情報リーチの違いを分析したところ、表のような構成がみられた。
高い数値を示したのはソーシャル取組情報とパブリシティ掲載報告だが、後者もソーシャルメディア関連の取上げかたが多いことから、現時点では武雄市は先進的で魅力的な取り組みが注目されている要素が強い。
インタラクションの発生件数では、最大(「パブリシティ掲載・放送後報告」)と最小(「行政視察往訪」)で約2.1倍の開きが見られるものの、主に他自治体の名前と写真から事実だけを伝えた「行政視察」と、全国紙の画像も掲載して内容まで読める「パブリシティ掲載」では、インタラクションの発生のしやすさが同じではない。そして、インプレッションやリーチには多くの開きが出ていない(半のが無くても、情報を届けられている)ことも興味深いポイントになる。
先進的な取り組みや積極的な対外活動をしっかり公開していることで、武雄市に注目するファンは着実に増えている。その結果として、行政視察や市民向けお知らせにも、100件近い反応が得られていることはメリットが大きいだろう。

武雄市役所のFacebookページは、さまざまな情報から構成されているが、自治体にとってはどれもごく日常のもの。それらの情報を「外部に伝える」ことを心がけて掲載することで、市民に読んでもらいたいお知らせが武雄市同様、多くの人の目に触れるように変わるのがFacebookの特性だ。

武雄市のソーシャルシティ化を支える「スピンオフ」プロジェクト

スピンオフその1:武雄市が積極展開する、地産の良品を販売する「F&B良品」

2011年11月からは、武雄市の特産品をコマース販売する「F&B良品」も開設している。
Facebookページ内にカートを置くため、アプリケーション「Social Gateway」を導入し、Facebookの利用者がその場でお買い物できるようにしている。売られているのは地元の農家が育てたトマトなどで、Facebookを通じて、市は町おこしを行い、ファンは応援する市の良いものが手に入り、互いに貢献することが可能となっている。市で運営をしているため高額な出店料などは必要なく、数%の販売手数料のみで済むことから、今まで民間のECサービスを利用できなかった地元の店舗が気軽にF&B良品へ出店を行うことができ、地元の人だけが味わうことが出来た逸品を販売することが可能となっており、現在既にサイト全体で月額50万円程度の売上げを出しているという。
武雄市が目指しているのは、市民や市外のファンと育てていく、自治体における、ひとつの理想の姿といえる。

コラムF&B良品の他自治体連携

さらに武雄市では、アラタナ、SIIISと協働して、この取り組みを他の自治体へも展開する事業を F&B Holdingsの名前で展開している。薩摩川内市を皮切りに実際の連携もスタートしてきている。 他の自治体と連動して、互いの特産品を紹介するようなページ(F&B空間(仮称))もSIIISと企画が進んでおり、自治体相互に商品を紹介しあうことで、さらなる購買の促進を図ることとしている。

スピンオフその2:武雄市をあげて市民のPC力を啓蒙する「ICT寺子屋」

2011年7月、F&B良品よりひと足先にスタートした、Facebookページで武雄市民のIT活用を推進する「ICT寺子屋」。
市役所のホームページを、Facebookページにすることで、よりPCの使いこなしやITリテラシーが必要になることもあって、Facebook講習会からWORD文書作成講座まで積極的にIT・PC力育成を推進している。子供からお年よりまで、現在100人以上のファンがこの「寺子屋」に集まっている。平成23年度の受講者市民は230名にのぼり、大変好評とのことである。
特筆すべきは多くの高齢者が当講習に参加していることであり、市のFaceBook施策と連動することにより、武雄市が高齢者のITリテラシーが日本一高い自治体となる日も近いのではないだろうか。

F&B良品や寺子屋ICTなど市民へのメリット提供を通じて、ソーシャルシティ化を実現

■ F&B良品の場合



■ ICT寺子屋の場合

ソーシャル時代の幕開け

終わりに〜自治体がFacebookページを活用する意義〜

どれだけの生活者が、自分たちの街がFacebookのようなコミュニティサービスの中で、コミュニケーションや行政の進捗報告や意見募集、名産品の販売等を行う未来を想像できただろう。
しかし、TwitterやFacebookの出現と、武雄市の意欲と勇気によって時代は確実にその方向にシフトした。今、Facebookページを運営する自治体は、武雄市だけではない。沖縄県では運用がはじまっている南城市・金武町を筆頭に、那覇市や名護市、宮古島市など多くの市町村がページを用意している。加えて、この2月からは政令指定都市の熊本県熊本市までもがページを開設している。
少しでも状況を変えたい、と思う自治体を、目的の相談・開設から、目的に沿った分析まで、SIIISとD4DRは全力で応援していく。

自治体が運用する主なFacebookページ

※ファン数は2012年3月14日時点

本件のお問合せ先:
株式会社SIIIS phone:03-6809-2450 mail:info@siiis.com
D4DR株式会社 phone:03-3457-8646 mail:info@d4dr.jp