1980年代を振り返った時、落合信彦と言う存在は決して外すことは出来ない。
国際ジャーナリストと言う肩書きで各界のVIP達にインタビューするだけでなく実際に現地に行って取材し詳細なレポートを発表していたからだ。
それだけにとどまらず壮大なテーマで小説を書いて発表したり当時の国際情勢や国内情勢を鋭い切れ味で論じるなど相当な勢いがあった。
大学生やビジネスマンから絶大な支持を集め、TVコマーシャルにも出演していた。
紛うことなく売れっ子作家であり作家納税番付のベスト10に必ず入っていた。
落合信彦と言う男もまた時代の申し子であり「時の人」だっただろう。
だが・・・・
今や落合信彦のことをほとんどの人が語りたがらない。
熱心なファンだった人間ほどなるべく忘れるように、なかったことのようにしている。
落合信彦は「黒歴史」と同義語になってしまった感は否めない。
なぜそうなってしまったのか？
簡単に言ってしまえば落合信彦(以下ノビー）の書く事や言う事に信憑性がないことに気付きだしたからである。
デーブ・スペクターとの対談で散々揚げ足を取られテリー伊藤にも「落合信彦はプロレス」と揶揄された。
1999年に
暴露本めいた本が出版され一連の流れに止めを刺した。
やがてインターネットの普及で
落合信彦＝大嘘つき
と言う公式は世間に広く知れ渡って行った。
だが私から言わせればそんな単純な話ではない！！
「林を見て森を見ず」とはまさにこのこと。
と言うわけでこれから私がノビーにまつわる数々の伝説を検証して行きたいと思う。
■誰がブルース・リーにヌンチャクを教えたのか？
知らん人は知らんと思うがノビーとブルース・リーの因縁は結構深いもんがある。
日本の文壇？に登場した時からノビーは
「東部では僕らが全部（空手を）普及させたんです。兄貴はブルース・リーにヌンチャクを教えたしね。ブルースはそれ程強くなかった」
と1978年にプレイボーイ誌のインタビューで語り
1995年1月には雑誌「VIEWS」で熱心なノビー・フリークであるテリー伊藤と対談し
テリー「ブルース・リーとも闘ったことがあるんですか？」
ノビー「やりましたよ」
テリー「（ウソだろーっ）えっ、そうなんですか。」
ノビー「あんまり強くなかったですね。ブルース・リーは」
テリー「それで落合さんが勝ちました？」
ノビー「もちろん、3分で勝負がつきました。」
とまで言ってのけたからである。
その結果、ブルース・リーと落合信彦は不可分の存在になりブルース・リー信者の間で落合信彦を知らない者は居ない。
だがほとんどの信者はこれらのビッグマウスを一笑しまともに相手にしていなかった。
ノビー一流のハッタリだろう、と。
1996年に刊行されたカルト本
の中にある「試験に出るブルース・リー単語帳」の中で落合信彦は
自称アメリカで空手を教えていた男。70年代の月刊プレイボーイのインタビューで「オレの空手の道場にある日、若い中国人が道場破りに来たんだ。もちろんオレが勝ったんだけどなかなか強い奴だったよ。その男の名はブルース・リーと言った。あいつにヌンチャクを教えたのもオレだ。」真実は本人に聞いてください。
と説明されている。
ブルース・リーに勝ったことは勿論、戦ったこともアメリカで空手を教えていたことすらも胡散臭い目で見ている。
実際のところはどうだったのだろうか？
第1回目の今日は「ブルース・リーとノビーが実際に拳を交えた」ことまでは検証しない。
＞「東部では僕らが全部（空手を）普及させたんです。兄貴はブルース・リーにヌンチャクを教えたしね。ブルースはそれ程強くなかった。」
まずはこれから検証して行きたいと思う。
結論から先に書くがこの発言は100％デマカセではない。
ではどこまでが本当でどこからが作り話なのか？
ノビーが1960年代初頭から半ばにかけて留学先のアメリカ、ペンシルベニア州レディングで道場を開いて空手の指導をしていたのは100％本当の話である。
このエピソードはノビー・フリークに人気が高い「アメリカよ！あめりかよ！」でも書かれている。
だがこの本は手落ちがある。
実兄の落合秀彦（ハイディー・オチアイ）についてである。
実はノビーが留学した翌年に2歳年上の兄の秀彦もアメリカの同じオルブライト大学に留学して来る。
秀彦は夜学ながら東大をストレートで受かった秀才である。
ノビーに言わせれば数学や物理の成績に関しては抜きん出ていたと言う。
だが学業だけでなく3歳の頃から空手を習っており文武両道の男だったのである。
アメリカに留学した秀彦もまたノビーが開いた空手道場で空手の指導にあたっていた。
この事実を「アメリカよ！あめりかよ！」は一切書いていないのだ。
その理由は定かではないが話を先に進める。
1965年6月？にノビーはオルブライト大学を卒業するのだが現地で就職もせずかといって帰国もせず大学院に進学する。
一方、兄の秀彦は卒業後、アメリカで空手家の道を歩むことになった。
日本では全く無名だがハイディー・オチアイと言う空手家はアメリカではちょっとしたカルト・ヒーローだろう。
このようにアメリカの格闘技雑誌の草分けであるブラック・ベルト誌やカラテ誌の表紙を何度も飾っているからだ。
1970年代〜80年代にかけての時代だがご覧のように見事にビルドアップされた肉体や技を披露している。
ハイディーは特に腹筋に自信があったようでベンチに寝そべり腹筋の上に大きなレンガを山積みし巨大なハンマーで叩かせると言うデモンストレーションを行いアメリカ人の度肝を抜いたと言うこちら。
ちなみにこのブラック・ベルト誌の表紙を飾っていたのはブルース・リーやチャック・ノリス等である。
ハイディー・オチアイはブラック・ベルト誌において1979年に「インストラクター・オブ・ザ・イヤー」に、翌1980年には「マン・オブ・ザ・イヤー」に選出され殿堂入りを果たしている。
アメリカの格闘技界ではその年最も優れた師範でありその年に最も活躍したり話題になったりした人物だった訳だ。
ブラック・ベルト誌は全国誌だから
当時のアメリカ東部だけでなく全米の空手界に多大な影響を与えた
と言っても過言ではない。
和真流宗家、つまり初代師範でありアメリカで何冊か空手や武道に関する本も書いている。
これ等の本は今でもebayやamazonで手に入れることが出来る。
演武だけでなく実戦成績も大したものでどれくらいの規模か不明だがGrand National Karate Championshipを5回連続で制している。
2004年にはスティーヴン・セガールやサニー・チバ（千葉真一）等と同時に見事「格闘家の殿堂入り」を果たしている。
こちら
当然、オルブライト大学のHPでは弟のノビーだけでなく兄のハイディーも名を成した卒業生として名前が載っている。
ノビーはともかく兄の落合秀彦がアメリカでは伝説的な空手家であることは分かってもらえたことと思う。
やっと本題に入れる。
そう、
本当にハイディー・オチアイがブルース・リーにヌンチャクを教えたのか？
である。
調べ方は実に簡単だ。
googleで検索をかければ一発で出てくる。
Adopted his legendary nunchaku routine in his movies from the legendary karate master Hidehiko "Hidy" Ochiai. The two met at the Los Angeles YMCA in the mid 1960s.
Nunchaku were Bruce Lee's hand weapon of choice and when wielding a pair he was an undefeatable force. He developed his legendary routine under the instruction of karate master Hidehiko "Hidy" Ochiai. The two men first met at the Los Angeles YMCA in the mid-1960's.
Nunchaku were Bruce Lee's duke weapon of best and if wielding a brace he was an dogged force. He developed his allegorical accepted beneath the apprenticeship of karate adept Hidehiko "Hidy" Ochiai. The two men aboriginal met at the Los Angeles YMCA in the mid-1960's.
Nunchaku were Bruce Lee's hand weapon of choice and when wielding a pair he was an undefeatable force. He developed his legendary routine under the instruction of karate master Hidehiko "Hidy" Ochiai. The two men first met at the Los Angeles YMCA in the mid-1960's.
書き方は微妙に違うが概要はほとんど一緒だ。
ヌンチャクはブルース・リーの最高の武器だった。彼はこれを空手の師範であるヒデヒコ’ハイディー’オチアイの指導の下、伝説的な慣例に発展させた。二人が最初に出会ったのは1960年代半ばのロスのYMCAにおいてだった。
全てアメリカのサイトだがこれは落合秀彦のサイトではなく全てブルース・リーのサイトからだ。
いつ、どこで、誰が、全てしっかり書かれている。
アメリカでは
「ブルース・リーにヌンチャクを教えたのはハイディー・オチアイである」
と言うのは定説になっているようだ。
1960年代半ばの時点ではブルース・リーは無名の一格闘家に過ぎなかった。
リーがTVドラマグリーン・ホーネットに出演するのは1966年からである。
このグリーン・ホーネットでリーは早速ヌンチャクを披露しており和製ドラゴンこと倉田保昭がリーにヌンチャクを教えたという説は誤りだ。
YMCAで空手を教えていたというのは前述の「アメリカよ！あめりかよ！」でも書かれている。
YMCAとはキリスト教主義に立ち、教育・スポーツ・福祉・文化などの分野の事業を展開する非営利公益団体のことだがノビーは日本に居る頃から教会に通い聖書を読みキリスト教に理解があったから快く引き受けたのだろう。
出村文男と言う空手家が1965年に渡米しリーにヌンチャクを教えたと言う説もあるがアメリカではハイディー・オチアイが教えたと言う説の方が支配的である。
Fumio demuraと言う名前はアメリカ版ウィキペディアにも載っているがそこにはブルース・リーに関しては全く書かれていないし他のサイトも然り。
これでつじつまが合う。
日本のブルース・リー関連の本では全く無視されているが落合信彦の実兄の秀彦がブルース・リーにヌンチャクを教えたと言うのは本当らしい。
あなたはヌンチャクを使わないブルース・リーを想像出来るだろうか？
私には出来ない。
紅生姜のない焼きそば、福神漬けのないカレーライス、刻み葱が入っていない炊き出しの豚汁・・・・
そんなのは嫌だ！！
そう考えた場合、ブルース・リーにヌンチャクを教えたと言う事実の重要性も分かろうものだ。
記述には「二人が最初に会ったのは・・・」とあるのでその後も何回か会っていた可能性は否定できない。
実際に拳を交えたかも知れない。
ハイディー・オチアイが無名の格闘家で終わっていたらそうならなかっただろうが実際には実績を積んでブラック・ベルトの表紙を何度も飾り「格闘家の殿堂入り」を果たしているのである。
これもアメリカのサイトだが「燃えよドラゴン」のキャストには Hidy Ochiai の名が載っている。
私は全く気付かなかったがチョイ役で出ていたのかも知れない。
追々、再チェックしてみたいと思うがなぜ、ジム・ケリーやジョン・サクソン、サモ・ハン・キンポー等と同格で出演出来なかったのだろうか？
その理由はこの動画を観れば分かるかと思う。
1989年、日本では弟のノビーがアサヒ・スーパー・ドライのCMに出演していたのだが兄のハイディーはニューヨークにある道場でTVのインタビューに答えていた。
御年50歳である。
外見は痩せて面長なノビーと言った感じだ。
だがノビー同様小柄である。
160〜64cmくらいだろう。
これがハイディーがブルース・リーやチャック・ノリスのような有名なアクション・スターになれなかった理由の一つだろう。
ブルース・リーの身長はウィキペディアでは164cmとなっているが一体誰がそんな出鱈目を書いたのか？
ブルース・リーの身長は170.5cmである。
こんなことは資料に振り回されずとも映画を観れば大体分かるもんなのだが・・・※
痩せ型で170.5cmしかない男がもっと背が高くガッチリ体型の猛者を次々に倒して行ったから多くの観客は拍手喝さいしたのである。
ブルース・リーよりも6cm以上も背が低いハイディー・オチアイを倒しても観客には凄いことには映らない。
ハイディーを仲間にすると強く描けばブルース・リーが光らないし弱く描けばありふれた小さい東洋人で終わってしまう。
髪型や体形などブルース・リーとハイディーのルックスは欧米人の目から見たら大いにかぶる。
要は絵にならないである。
もっと言えばハイディーは決して俳優って顔じゃないし普段は物静かな人間に見える。
「燃えよドラゴン」以外にも何本かの空手映画や空手を題材にしたTVシリーズに出演したようだが大きな成功は収められなかったようだ。
英語のインタビューなので100％は意味が分からなかったのだが’フィロソフィー’「哲学」と言う言葉を連発している。
アメリカの大学で専攻したのも哲学のようだ。
他にも剣道、居合い道、柔道、柔術と言う言葉も飛び出している。
どうも和真流と言うのは喧嘩空手と言われる極真やそこから分派した正道会館とは一線を画す空手な気がする。
もっと本来の姿に近い、そう空手とは格闘技ではなく武道であり精神修養であり哲学なのだ。
力を発し敵を倒すことはあくまでも最終手段に過ぎず目的ではない。
その辺の話は176回（自己申告）喧嘩し全てに勝利を収めた弟のノビーも書いていることだ。
だがこうした昨今の格闘家には珍しい理知的で哲学的な性格はブルース・リーと非常に良く似ている。
ブルース・リーは偉大なるアクション・スターである前に偉大な格闘家でありその前に偉大な哲学者だったからである。
ハイディー同様ブルース・リーも大学で専攻したのは哲学でありその後高校で講師として哲学を教えていたと言う。
ブルース・リーの読書量は半端ではなくそれがド近眼になった理由の一つらしい。
空手だけでなく居合い抜きや柔道、柔術の要素も取り入れている辺りもブルース・リーが生み出したジークンドーに良く似ている。
弟のノビーは「3分で倒した」と言ってその実力を軽視していたが兄のハイディーはブルース・リーと結構どころかかなり話が合い友達だったんじゃないだろうか？
いずれにせよ、
落合兄弟がアメリカ東部で空手の普及に尽力したことは本当の話
だし
ノビーの兄貴がブルース・リーにヌンチャクを教えたことも本当の話である
ただブルース・リーと実際に交流があったことが確認されているのは兄のハイディーなのである。
またハイディーとブルース・リーが実際に拳を交えたかどうかは不明だから「強くなかった」とは言い切れない。
兄貴の逸話に少し便乗した嫌いは否めないんだが最初にレディング市で空手を披露し注目を浴びたのはノビーである。
ノビーは兄のことを決して嫌って居ないしその実力は十分認めている。
彼の日頃のライフスタイルは人間のありようをオレに教えてくれた。
中学時代オレは彼の前に正座させられた。
「吉田茂と力道山とどちらが強いか分かるか？」
分からないでどうする。力道山の空手チョップは世界一だ。
「バカ野郎！！力が人間の勝負を決めるんじゃない。頭だ。これからの時代は頭の時代なんだ。お前は空手が自慢で喧嘩も強いが、それだけの男だったらこの世に生きる資格はない。」
兄ちゃんだって空手をやってるじゃないかとオレが呟くと、胸ぐらをつかまれた。
「空手以上に勉強している。お前も勉強しろ。それが嫌なら、オレがお前を殺す！」
この本からの引用だが余りに熱過ぎる落合兄弟である。
このやり取りの真偽の程はともかく本音ではちょっとばっかり悔しかったのではないか？
また1963年〜65年の間はノビーも空手道場の師範をしておりブルース・リーと会っていた可能性も否定できない。
謎は深まるばかりだが連載を続けて行きたい。
つづく
※サモ・ハン・キンポーの身長が168cmと言われる。「燃えよドラゴン」のOPでリーと同じシューズを履き並んで立っているシーンがあるがリーの方が少しだけ背が高いことが確認出来る。
国際ジャーナリストと言う肩書きで各界のVIP達にインタビューするだけでなく実際に現地に行って取材し詳細なレポートを発表していたからだ。
それだけにとどまらず壮大なテーマで小説を書いて発表したり当時の国際情勢や国内情勢を鋭い切れ味で論じるなど相当な勢いがあった。
大学生やビジネスマンから絶大な支持を集め、TVコマーシャルにも出演していた。
紛うことなく売れっ子作家であり作家納税番付のベスト10に必ず入っていた。
落合信彦と言う男もまた時代の申し子であり「時の人」だっただろう。
だが・・・・
今や落合信彦のことをほとんどの人が語りたがらない。
熱心なファンだった人間ほどなるべく忘れるように、なかったことのようにしている。
落合信彦は「黒歴史」と同義語になってしまった感は否めない。
なぜそうなってしまったのか？
簡単に言ってしまえば落合信彦(以下ノビー）の書く事や言う事に信憑性がないことに気付きだしたからである。
デーブ・スペクターとの対談で散々揚げ足を取られテリー伊藤にも「落合信彦はプロレス」と揶揄された。
1999年に
| 落合信彦・最後の真実 | |
| 奥菜 秀次 | |
| 鹿砦社 |
暴露本めいた本が出版され一連の流れに止めを刺した。
やがてインターネットの普及で
落合信彦＝大嘘つき
と言う公式は世間に広く知れ渡って行った。
だが私から言わせればそんな単純な話ではない！！
「林を見て森を見ず」とはまさにこのこと。
と言うわけでこれから私がノビーにまつわる数々の伝説を検証して行きたいと思う。
■誰がブルース・リーにヌンチャクを教えたのか？
知らん人は知らんと思うがノビーとブルース・リーの因縁は結構深いもんがある。
日本の文壇？に登場した時からノビーは
「東部では僕らが全部（空手を）普及させたんです。兄貴はブルース・リーにヌンチャクを教えたしね。ブルースはそれ程強くなかった」
と1978年にプレイボーイ誌のインタビューで語り
1995年1月には雑誌「VIEWS」で熱心なノビー・フリークであるテリー伊藤と対談し
テリー「ブルース・リーとも闘ったことがあるんですか？」
ノビー「やりましたよ」
テリー「（ウソだろーっ）えっ、そうなんですか。」
ノビー「あんまり強くなかったですね。ブルース・リーは」
テリー「それで落合さんが勝ちました？」
ノビー「もちろん、3分で勝負がつきました。」
とまで言ってのけたからである。
その結果、ブルース・リーと落合信彦は不可分の存在になりブルース・リー信者の間で落合信彦を知らない者は居ない。
だがほとんどの信者はこれらのビッグマウスを一笑しまともに相手にしていなかった。
ノビー一流のハッタリだろう、と。
1996年に刊行されたカルト本
| ブルース・リーと101匹ドラゴン大行進! (洋泉社MOOK―映画秘宝) | |
| クリエーター情報なし | |
| 洋泉社 |
の中にある「試験に出るブルース・リー単語帳」の中で落合信彦は
自称アメリカで空手を教えていた男。70年代の月刊プレイボーイのインタビューで「オレの空手の道場にある日、若い中国人が道場破りに来たんだ。もちろんオレが勝ったんだけどなかなか強い奴だったよ。その男の名はブルース・リーと言った。あいつにヌンチャクを教えたのもオレだ。」真実は本人に聞いてください。
と説明されている。
ブルース・リーに勝ったことは勿論、戦ったこともアメリカで空手を教えていたことすらも胡散臭い目で見ている。
実際のところはどうだったのだろうか？
第1回目の今日は「ブルース・リーとノビーが実際に拳を交えた」ことまでは検証しない。
＞「東部では僕らが全部（空手を）普及させたんです。兄貴はブルース・リーにヌンチャクを教えたしね。ブルースはそれ程強くなかった。」
まずはこれから検証して行きたいと思う。
結論から先に書くがこの発言は100％デマカセではない。
ではどこまでが本当でどこからが作り話なのか？
ノビーが1960年代初頭から半ばにかけて留学先のアメリカ、ペンシルベニア州レディングで道場を開いて空手の指導をしていたのは100％本当の話である。
このエピソードはノビー・フリークに人気が高い「アメリカよ！あめりかよ！」でも書かれている。
| アメリカよ!あめりかよ! | |
| 落合 信彦 | |
| 集英社 |
だがこの本は手落ちがある。
実兄の落合秀彦（ハイディー・オチアイ）についてである。
実はノビーが留学した翌年に2歳年上の兄の秀彦もアメリカの同じオルブライト大学に留学して来る。
秀彦は夜学ながら東大をストレートで受かった秀才である。
ノビーに言わせれば数学や物理の成績に関しては抜きん出ていたと言う。
だが学業だけでなく3歳の頃から空手を習っており文武両道の男だったのである。
アメリカに留学した秀彦もまたノビーが開いた空手道場で空手の指導にあたっていた。
この事実を「アメリカよ！あめりかよ！」は一切書いていないのだ。
その理由は定かではないが話を先に進める。
1965年6月？にノビーはオルブライト大学を卒業するのだが現地で就職もせずかといって帰国もせず大学院に進学する。
一方、兄の秀彦は卒業後、アメリカで空手家の道を歩むことになった。
日本では全く無名だがハイディー・オチアイと言う空手家はアメリカではちょっとしたカルト・ヒーローだろう。
このようにアメリカの格闘技雑誌の草分けであるブラック・ベルト誌やカラテ誌の表紙を何度も飾っているからだ。
1970年代〜80年代にかけての時代だがご覧のように見事にビルドアップされた肉体や技を披露している。
ハイディーは特に腹筋に自信があったようでベンチに寝そべり腹筋の上に大きなレンガを山積みし巨大なハンマーで叩かせると言うデモンストレーションを行いアメリカ人の度肝を抜いたと言うこちら。
ちなみにこのブラック・ベルト誌の表紙を飾っていたのはブルース・リーやチャック・ノリス等である。
ハイディー・オチアイはブラック・ベルト誌において1979年に「インストラクター・オブ・ザ・イヤー」に、翌1980年には「マン・オブ・ザ・イヤー」に選出され殿堂入りを果たしている。
アメリカの格闘技界ではその年最も優れた師範でありその年に最も活躍したり話題になったりした人物だった訳だ。
ブラック・ベルト誌は全国誌だから
当時のアメリカ東部だけでなく全米の空手界に多大な影響を与えた
と言っても過言ではない。
和真流宗家、つまり初代師範でありアメリカで何冊か空手や武道に関する本も書いている。
これ等の本は今でもebayやamazonで手に入れることが出来る。
| Hidy Ochiai's Complete Book of Self Defense | |
| クリエーター情報なし | |
| Contemporary Books |
| The Essence of Self-Defense | |
| クリエーター情報なし | |
| Contemporary Books |
| Hidy Ochiai's Self-Defense for Kids | |
| クリエーター情報なし | |
| McGraw-Hill |
演武だけでなく実戦成績も大したものでどれくらいの規模か不明だがGrand National Karate Championshipを5回連続で制している。
2004年にはスティーヴン・セガールやサニー・チバ（千葉真一）等と同時に見事「格闘家の殿堂入り」を果たしている。
こちら
当然、オルブライト大学のHPでは弟のノビーだけでなく兄のハイディーも名を成した卒業生として名前が載っている。
ノビーはともかく兄の落合秀彦がアメリカでは伝説的な空手家であることは分かってもらえたことと思う。
やっと本題に入れる。
そう、
本当にハイディー・オチアイがブルース・リーにヌンチャクを教えたのか？
である。
調べ方は実に簡単だ。
googleで検索をかければ一発で出てくる。
Adopted his legendary nunchaku routine in his movies from the legendary karate master Hidehiko "Hidy" Ochiai. The two met at the Los Angeles YMCA in the mid 1960s.
Nunchaku were Bruce Lee's hand weapon of choice and when wielding a pair he was an undefeatable force. He developed his legendary routine under the instruction of karate master Hidehiko "Hidy" Ochiai. The two men first met at the Los Angeles YMCA in the mid-1960's.
Nunchaku were Bruce Lee's duke weapon of best and if wielding a brace he was an dogged force. He developed his allegorical accepted beneath the apprenticeship of karate adept Hidehiko "Hidy" Ochiai. The two men aboriginal met at the Los Angeles YMCA in the mid-1960's.
Nunchaku were Bruce Lee's hand weapon of choice and when wielding a pair he was an undefeatable force. He developed his legendary routine under the instruction of karate master Hidehiko "Hidy" Ochiai. The two men first met at the Los Angeles YMCA in the mid-1960's.
書き方は微妙に違うが概要はほとんど一緒だ。
ヌンチャクはブルース・リーの最高の武器だった。彼はこれを空手の師範であるヒデヒコ’ハイディー’オチアイの指導の下、伝説的な慣例に発展させた。二人が最初に出会ったのは1960年代半ばのロスのYMCAにおいてだった。
全てアメリカのサイトだがこれは落合秀彦のサイトではなく全てブルース・リーのサイトからだ。
いつ、どこで、誰が、全てしっかり書かれている。
アメリカでは
「ブルース・リーにヌンチャクを教えたのはハイディー・オチアイである」
と言うのは定説になっているようだ。
1960年代半ばの時点ではブルース・リーは無名の一格闘家に過ぎなかった。
リーがTVドラマグリーン・ホーネットに出演するのは1966年からである。
このグリーン・ホーネットでリーは早速ヌンチャクを披露しており和製ドラゴンこと倉田保昭がリーにヌンチャクを教えたという説は誤りだ。
YMCAで空手を教えていたというのは前述の「アメリカよ！あめりかよ！」でも書かれている。
YMCAとはキリスト教主義に立ち、教育・スポーツ・福祉・文化などの分野の事業を展開する非営利公益団体のことだがノビーは日本に居る頃から教会に通い聖書を読みキリスト教に理解があったから快く引き受けたのだろう。
出村文男と言う空手家が1965年に渡米しリーにヌンチャクを教えたと言う説もあるがアメリカではハイディー・オチアイが教えたと言う説の方が支配的である。
Fumio demuraと言う名前はアメリカ版ウィキペディアにも載っているがそこにはブルース・リーに関しては全く書かれていないし他のサイトも然り。
これでつじつまが合う。
日本のブルース・リー関連の本では全く無視されているが落合信彦の実兄の秀彦がブルース・リーにヌンチャクを教えたと言うのは本当らしい。
あなたはヌンチャクを使わないブルース・リーを想像出来るだろうか？
私には出来ない。
紅生姜のない焼きそば、福神漬けのないカレーライス、刻み葱が入っていない炊き出しの豚汁・・・・
そんなのは嫌だ！！
そう考えた場合、ブルース・リーにヌンチャクを教えたと言う事実の重要性も分かろうものだ。
記述には「二人が最初に会ったのは・・・」とあるのでその後も何回か会っていた可能性は否定できない。
実際に拳を交えたかも知れない。
ハイディー・オチアイが無名の格闘家で終わっていたらそうならなかっただろうが実際には実績を積んでブラック・ベルトの表紙を何度も飾り「格闘家の殿堂入り」を果たしているのである。
これもアメリカのサイトだが「燃えよドラゴン」のキャストには Hidy Ochiai の名が載っている。
私は全く気付かなかったがチョイ役で出ていたのかも知れない。
追々、再チェックしてみたいと思うがなぜ、ジム・ケリーやジョン・サクソン、サモ・ハン・キンポー等と同格で出演出来なかったのだろうか？
その理由はこの動画を観れば分かるかと思う。
1989年、日本では弟のノビーがアサヒ・スーパー・ドライのCMに出演していたのだが兄のハイディーはニューヨークにある道場でTVのインタビューに答えていた。
御年50歳である。
外見は痩せて面長なノビーと言った感じだ。
だがノビー同様小柄である。
160〜64cmくらいだろう。
これがハイディーがブルース・リーやチャック・ノリスのような有名なアクション・スターになれなかった理由の一つだろう。
ブルース・リーの身長はウィキペディアでは164cmとなっているが一体誰がそんな出鱈目を書いたのか？
ブルース・リーの身長は170.5cmである。
こんなことは資料に振り回されずとも映画を観れば大体分かるもんなのだが・・・※
痩せ型で170.5cmしかない男がもっと背が高くガッチリ体型の猛者を次々に倒して行ったから多くの観客は拍手喝さいしたのである。
ブルース・リーよりも6cm以上も背が低いハイディー・オチアイを倒しても観客には凄いことには映らない。
ハイディーを仲間にすると強く描けばブルース・リーが光らないし弱く描けばありふれた小さい東洋人で終わってしまう。
髪型や体形などブルース・リーとハイディーのルックスは欧米人の目から見たら大いにかぶる。
要は絵にならないである。
もっと言えばハイディーは決して俳優って顔じゃないし普段は物静かな人間に見える。
「燃えよドラゴン」以外にも何本かの空手映画や空手を題材にしたTVシリーズに出演したようだが大きな成功は収められなかったようだ。
英語のインタビューなので100％は意味が分からなかったのだが’フィロソフィー’「哲学」と言う言葉を連発している。
アメリカの大学で専攻したのも哲学のようだ。
他にも剣道、居合い道、柔道、柔術と言う言葉も飛び出している。
どうも和真流と言うのは喧嘩空手と言われる極真やそこから分派した正道会館とは一線を画す空手な気がする。
もっと本来の姿に近い、そう空手とは格闘技ではなく武道であり精神修養であり哲学なのだ。
力を発し敵を倒すことはあくまでも最終手段に過ぎず目的ではない。
その辺の話は176回（自己申告）喧嘩し全てに勝利を収めた弟のノビーも書いていることだ。
だがこうした昨今の格闘家には珍しい理知的で哲学的な性格はブルース・リーと非常に良く似ている。
ブルース・リーは偉大なるアクション・スターである前に偉大な格闘家でありその前に偉大な哲学者だったからである。
ハイディー同様ブルース・リーも大学で専攻したのは哲学でありその後高校で講師として哲学を教えていたと言う。
ブルース・リーの読書量は半端ではなくそれがド近眼になった理由の一つらしい。
空手だけでなく居合い抜きや柔道、柔術の要素も取り入れている辺りもブルース・リーが生み出したジークンドーに良く似ている。
弟のノビーは「3分で倒した」と言ってその実力を軽視していたが兄のハイディーはブルース・リーと結構どころかかなり話が合い友達だったんじゃないだろうか？
いずれにせよ、
落合兄弟がアメリカ東部で空手の普及に尽力したことは本当の話
だし
ノビーの兄貴がブルース・リーにヌンチャクを教えたことも本当の話である
ただブルース・リーと実際に交流があったことが確認されているのは兄のハイディーなのである。
またハイディーとブルース・リーが実際に拳を交えたかどうかは不明だから「強くなかった」とは言い切れない。
兄貴の逸話に少し便乗した嫌いは否めないんだが最初にレディング市で空手を披露し注目を浴びたのはノビーである。
ノビーは兄のことを決して嫌って居ないしその実力は十分認めている。
彼の日頃のライフスタイルは人間のありようをオレに教えてくれた。
中学時代オレは彼の前に正座させられた。
「吉田茂と力道山とどちらが強いか分かるか？」
分からないでどうする。力道山の空手チョップは世界一だ。
「バカ野郎！！力が人間の勝負を決めるんじゃない。頭だ。これからの時代は頭の時代なんだ。お前は空手が自慢で喧嘩も強いが、それだけの男だったらこの世に生きる資格はない。」
兄ちゃんだって空手をやってるじゃないかとオレが呟くと、胸ぐらをつかまれた。
「空手以上に勉強している。お前も勉強しろ。それが嫌なら、オレがお前を殺す！」
| 狼たちへの伝言〈3〉栄光へのポール・ポジション (小学館ライブラリー) | |
| 落合 信彦 | |
| 小学館 |
この本からの引用だが余りに熱過ぎる落合兄弟である。
このやり取りの真偽の程はともかく本音ではちょっとばっかり悔しかったのではないか？
また1963年〜65年の間はノビーも空手道場の師範をしておりブルース・リーと会っていた可能性も否定できない。
謎は深まるばかりだが連載を続けて行きたい。
つづく
※サモ・ハン・キンポーの身長が168cmと言われる。「燃えよドラゴン」のOPでリーと同じシューズを履き並んで立っているシーンがあるがリーの方が少しだけ背が高いことが確認出来る。
| 新装版 ブルース・リーと101匹ドラゴン大行進 李小龍生誕70周年記念限定版 (映画秘宝COLLECTION 43)「映画秘宝」編集部・編洋泉社このアイテムの詳細を見る |