【モスクワ】ロシア政府は29日、ロシアがキルギスに多額の賄賂を渡していたなどと発言した米国のマクフォール駐ロシア大使に対し、公の発言で口を慎むよう警告した。同大使がロシアと争いの種をまいていることを初めて示すものだ。
マクフォール大使は25日行ったモスクワの大学での講演で、米軍がアフガニスタンでの作戦の支援のために中継基地として使っているキルギスの空港について、ロシアが2009年、キルギスに「多額の賄賂」を贈ってこの基地を使用しないよう米国に命じさせたと述べた。同大使の発言は、ロシアがキルギスに対して当時供与した20億ドル融資を指している。
これについてプーチン大統領の側近であるユーリー・ウシャコフ大統領補佐官(外交問題担当)は記者団に対し、「ロシアと米国の指導部は建設的な相互協力を目指しており、大使というものはこれと同じ精神で行動すべきであり、自国指導部の仕事に不協和音を持ち込んではならない」と述べた。
ウシャコフ補佐官の発言は、マクフォール発言は非外交的な発言だとロシア外務省が批判したのに続く動きだ。ロシア側からのこうしたワンツー・パンチ批判は、同大使が、クレムリンからみれば、米ロ関係改善を目指すオバマ大統領の努力に対する障害とみていることを示している。
10年間近く駐米大使を務めた経験のあるウシャコフ氏は「人は非外交的にではなく、外交的になろうと努力すべきだ」と述べ、「そうすればマクフォール大使にとっても有益だろう」と語った。
マクフォール大使自身もこの講演で、自分が外交的に述べていない部分があることを認めていた。そして、米国自身も贈賄を行っていたが、その金額は10分の1にすぎないと語っていた(米国は最終的に、基地使用料を3倍増しにしてキルギスに支払うことで合意し、使用権を確保した)。
ロシア外務省は28日、マクフォール発言について「極めて当惑させられる」と強調し、「外交上の礼儀の限界をはるかに超えている」と批判した。同省はまた、同大使が幾つかの争点でロシアの立場を誤って説明しているとし、クレムリンの英語テレビ放送局である「ロシア・トゥデー」をけなしたとも非難した。
マクフォール氏は、オバマ大統領のいわゆる「リセット」の構築者だ。リセット戦略は、ブッシュ大統領と2008年までのプーチン大統領時代に生じた米ロ間の緊張を克服して対ロシア関係を改善することを狙っている。
しかし最近数カ月間、イランやシリアに対する国際制裁の是非や欧州での米国主導のミサイル防衛戦略、さらには多数のロシア当局者の人権侵害に対する米議会の責任追及をめぐって若干の緊張が再浮上している。
マクフォール氏はスタンフォード大学の元教授で、ロシア問題に関するオバマ大統領の上級顧問を務めた。そしてプーチン首相(当時)が大統領復帰を目指して反米的な発言をする中で、今年1月に駐ロ大使に任命された。
プーチン、オバマ両大統領は来月、メキシコで開催される国際会議で会談する予定だ。
マクフォール大使は簡易ブログのツイッターで、講演での発言を弁護し、「それは『リセット』の20以上の成果を列挙したものだった」と書いている。
マクフォール氏はまた、講演中に提示したスライドショーのリンクを張った。それはアフガニスタンをめぐる協力、核兵器削減、相互間の旅行の増加などを浮き彫りにしたものだ。同氏はツイッターで、クレムリンのテレビ局を誹謗したことはないとし、同局のリポーターにはインタビューすら認めていると書いている。
また「恐らく、わたしはこんなに派手でぶっきらぼうに話すべきでなかったのだろう。この点には同意するし、もっと外交的に話すよう努力したい」とも記している。
一方、米国務省のヌーランド報道官はワシントンで記者会見し、ロシア側を怒らせた発言はマクフォール氏の講演の後の質疑応答で飛び出したものだと指摘。講演内容は「もっぱら米ロ関係のリセットの利点に関するもの」だったと述べた。しかしある質問に対する同氏の答えが「ロシア外務省によって誤解されたか、あるいは誤って解釈されたようだ」と語った。
国務省当局者は、同大使の講演の筆記録がなく、キルギスの中継基地に絡んで賄賂が贈られたと述べたかどうか判断できないとしている。
しかしヌーランド報道官は「マクフォール大使が強調しようとした要点は、われわれは旧ソ連時代には世界各地のこのような問題をめぐり競争していたが、現在は開放的で透明な方法で米ロ関係を論議できる、ということだった」と強調した。
その上で同報道官は、マクフォール大使がこれまで外交ポストに就いたことがなく、意思疎通で外交的な形式に精通していないことを認めた。同報道官は「彼は率直に話すし、明快に話す。彼は職業外交官ではない」と指摘。「状況が順調な時に彼が率直に話し、順調でない時にも明快に話すという事実にロシア政府は慣れないといけない、とわたしは思う」とも語った。
同報道官は、マクフォール大使交代の可能性を全く検討していないと付け加えた。