さらに緩和したくない…日銀総裁の本音

2012.05.30


日銀の白川方明総裁【拡大】

 総務省が25日発表した4月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100、生鮮食品を除く)は、前年同月比0・2%増となり、3カ月連続でプラスになった。ただし、食料(酒類を除く)とエネルギーを除く総合指数は前年同月比は0・3%の下落となった。

 この数字は変動の大きい食料とエネルギーを除く米国型コア指数で、基本的な物価動向を示すものとされているが、09年1月から3年4カ月マイナスのままだ。

 このようにデフレは若干緩和しつつあるものの、依然として継続中とみてよい。

 このところ欧州不安の再燃などを背景に円高が進んでいる。6月17日にはギリシャの再選挙が行われ、結果を受けて市場が大きく変動することも予想される。

 5月23日には日銀が追加緩和を見送ったことで、円高と株安が進んだが、現状の金融政策のスタンスでは、リーマン・ショック時のような日本の独り負け状態になってしまうのではないだろうか。

 日銀の白川方明総裁の最近の発言を聞くと、そんな懸念をせざるを得なくなる。金融緩和の効果を測るのは「量でなく金利」だと発信し始めたのだ。

 白川総裁は24日の衆院社会保障・税一体改革特別委員会で、菅原一秀委員(自民)の質問に対し、「ゼロ金利下では日銀が大量に資金を供給しても、資金はそのまま当座預金に預けられる“のれんに腕押し”の状況になっているため、量では金融緩和の度合いは測れない」と答弁した。

 また、為替とマネタリーベースとの関係について、マネタリーベースが増えている時に円高になり、量的緩和解除後にむしろ円安になっていると指摘し、量と為替に明確な相関を見いだせないとの認識も示した。

 ゼロ金利を明言している上で、金融政策の効果を「量でなく金利で測る」ということは、これ以上金融緩和しないとの日銀の本音を白状してしまったことになる。いうなれば、日銀が言い出した「1%の物価上昇率目途」すらやる気がないと宣言したに等しい。

 為替の理解も奇妙だ。白川総裁は為替決定理論で世界の主流になっているマネタリーアプローチを日本に紹介した人だ。その論文は日銀のサイトにもある。そこではマネーが為替の主要因になって「為替レートはすぐれて貨幣的現象」であると述べている。

 為替が金融政策でだいたい決まるというのは、ソロス・チャートを持ち出すまでもなく為替関係者では常識だ。この程度も知らない人の意見はあてにならない。

 私は小泉・安倍政権で日米のマネー量の比が為替と密接な関係があることを知っていたので、両政権では日銀の量的緩和を使って両政権の円安・成長率アップにつなげた実績がある。

 白川総裁は、菅原氏の「デフレ下での増税はどうなのか」という誰もが知りたい質問には答えないで、「為替ではマネーでなくリスク回避心理で動いている」とかデタラメを言っている。消費税国会では、こうした本質論をもっと追及すべきだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

 

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