「日本と韓国の交差点」

日本の種子島から韓国衛星「アリラン3号」発射

日本の技術力を羨み、ロシアの不十分な協力を非難

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2012年5月30日(水)

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 アリラン3号の打ち上げ現場にいた韓国人記者らは、打ち上げ成功だけでなく、「日本に学ぶべき」という内容の記事を書いている。
「韓国の航空宇宙工学技術は日本より50年も遅れている」
「日本は急いで結果を出そうとせず、失敗を繰り返しながらも航空宇宙産業に投資している」
「韓国の衛星打ち上げに成功したことをきっかけに、日本の航空宇宙産業はますます発展するだろう。海外の衛星を代行して打ち上げるサービスの受注が増える」

これまでの衛星打ち上げ技術研究に対する批判が強まる

 韓国はここ10年ほど、IT分野では韓国の方が日本より進んでいる、と自負してきた。サムスンやLGの躍進によって、家電や携帯端末、半導体などの市場において、韓国のプレゼンスが日本より高まっている。しかし、種子島宇宙センターでのアリラン3号打ち上げ成功は、韓国人に「やっぱり日本は技術大国」という強い印象を与えた。

 朝鮮日報は5月24日の朝刊1面に「国家的失敗、韓国はロケット技術で15年を無駄にした」というタイトルの特集記事を掲載した。ロシアのクルニチェフ国家研究生産宇宙センターとの技術提携が上手くいっていないことを批判する内容だった。

 「衛星打ち上げは最先端技術の集約だ。10万個以上の部品を必要とする。国家の安全を保障する監視衛星も、宇宙資源開発に必要な施設も、自国の打ち上げ技術を高めないことには、充実させることができない」。

 「韓国は1998年から衛星打ち上げ技術の開発を進めた。より早く成果を上げるため、2002年からロシアの技術を導入した。しかし、結果的に失敗している。ロシアは2002年当時、『ロケットの打ち上げ技術を2006年に韓国に移転するとしていた。だが、『1段目ロケットを制作して渡す』と立場を変えている」

 ロシアのクルニチェフ国家研究生産宇宙センターが制作した1段目ロケットと、韓国航空宇宙研究院が制作した2段目ロケットを使って打ち上げたのが前出のナロ号だ。そして、打ち上げに2度失敗している。ロシア側も韓国側も、責任を相手に押し付けるだけ。韓国航空宇宙研究院はいまだに失敗の理由を公表していない。

 朝鮮日報は5月24日付けの記事で、宇宙工学分野の教授らのコメントを紹介した。「2006年の段階でロシアと手を切り、韓国が衛星打ち上げ技術を独自に研究していれば、今頃は1段目ロケットを作れたはず」「ロシアの技術を導入できないまま15年もの歳月を無駄にした」。

韓国は衛星打ち上げ技術の自立を目指せ

 日本の種子島宇宙センターは、顧客である韓国を大満足させた。日本の技術力に刺激を受け、韓国航空宇宙研究院と教育科学部は、科学技術開発政策を見直し、新しい一歩を踏み出そうとしている。5月23日、政府危機管理対策会議でパク・ジェワン企画財政部長官は、「アリラン3号の打ち上げ成功は、(韓国の)科学技術分野の凱歌である。しかし、科学技術政策のパラダイムを量的投入から質的改善に転換しないといけない」「(先進国を追いかける)模倣政策から、民間のクリエイティブな技術開発を促進する方向に政策を変える必要がある」と発言した。

 日本から刺激を受け、ロシアとの失敗を教訓に、韓国もこつこつと実力を積み上げて、技術の自立を成し遂げてほしいものだ。

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著者プロフィール

趙 章恩(チョウ・チャンウン)

 研究者、ジャーナリスト。ソウルで生まれ小学校から高校卒業まで東京で育つ。韓国ソウルの梨花女子大学卒業。現在は東京大学社会情報学修士。ソウル在住。日本経済新聞「ネット時評」、西日本新聞、BCN、夕刊フジなどにコラムを連載。著書に「韓国インターネットの技を盗め」(アスキー)、「日本インターネットの収益モデルを脱がせ」(韓国ドナン出版)がある。
 「講演などで日韓を行き交う楽しい日々を送っています。日韓両国で生活した経験を生かし、日韓の社会事情を比較解説する講師として、また韓国のさまざまな情報を分りやすく伝えるジャーナリストとしてもっともっと活躍したいです」。
 「韓国はいつも活気に溢れ、競争が激しい社会。なので変化も速く、2〜3カ月もすると街の表情ががらっと変わってしまいます。こんな話をすると『なんだかきつそうな国〜』と思われがちですが、世話好きな人が多い。電車やバスでは席を譲り合い、かばんを持ってくれる人も多いのです。マンションに住んでいても、おいしいものが手に入れば『おすそ分けするのが当たり前』の人情の国です。みなさん、遊びに来てください!」。



このコラムについて

日本と韓国の交差点

 韓国人ジャーナリスト、研究者の趙章恩氏が、日本と韓国の文化・習慣の違い、日本人と韓国人の考え方・モノの見方の違い、を紹介する。同氏は東京大学に留学中。博士課程で「ITがビジネスや社会にどのような影響を及ぼすか」を研究している。
 趙氏は中学・高校時代を日本で過ごした後、韓国で大学を卒業。再び日本に留学して研究を続けている。2つの国の共通性と差異を熟知する。このコラムでは、2つの国に住む人々がより良い関係を築いていくためのヒントを提供する。
 中国に留学する韓国人学生の数が、日本に留学する学生の数を超えた。韓国の厳しい教育競争が背景にあることを、あなたはご存知だろうか?

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