半世紀の審理 再審訴え認めず5月25日 12時12分
51年前、三重県名張市でぶどう酒に農薬が入れられ、女性5人が殺害された「名張毒ぶどう酒事件」で、名古屋高等裁判所は、「犯行に使われた農薬が本人が保管していたものと別だったとは言えない」として死刑囚が求めていた再審を認めない決定をしました。
死刑か無罪か、裁判所の判断が大きく揺れ動いた半世紀にわたる審理は、再び再審の訴えが退けられる結果となりました。
「名張毒ぶどう酒事件」は、昭和36年に三重県名張市の地区の懇親会でぶどう酒に農薬が入れられ、女性5人が殺害されたもので、1審で無罪、2審で死刑となった奥西勝死刑囚(86)が無実を訴えて、再審=裁判のやり直しを求めてきました。
7年前、名古屋高等裁判所はいったん再審を認める決定をしましたが、別の裁判官が決定を取り消し、おととし最高裁判所が農薬の鑑定結果に疑問を投げかけて審理を差し戻していました。
これについて、名古屋高等裁判所の下山保男裁判長は、「犯行に使われた農薬と本人が保管していた農薬の成分に一部違いがあるが新たな鑑定の結果、時間の経過などで成分が分解したと推定でき、農薬が別のものだったとは言えない。犯行を認めた捜査段階の自白の根幹部分は十分信用できる」と判断して、再審を認めない決定をしました。
死刑か無罪か、裁判所の判断が大きく揺れ動いた半世紀にわたる審理は、再び再審の訴えが退けられる結果となりました。
“自白の根幹部分は信用できる”
「名張毒ぶどう酒事件」は、昭和36年に三重県名張市の地区の懇親会でぶどう酒に農薬が入れられ、女性5人が殺害されたもので、1審で無罪、2審で死刑となった奥西勝死刑囚(86)が無実を訴えて、再審=裁判のやり直しを求めてきました。
7年前、名古屋高等裁判所はいったん再審を認める決定をしましたが、別の裁判官が決定を取り消し、おととし最高裁判所が農薬の鑑定結果に疑問を投げかけて審理を差し戻していました。
これについて、名古屋高等裁判所の下山保男裁判長は、「犯行に使われた農薬と本人が保管していた農薬の成分に一部違いがあるが新たな鑑定の結果、時間の経過などで成分が分解したと推定でき、農薬が別のものだったとは言えない。犯行を認めた捜査段階の自白の根幹部分は十分信用できる」と判断して、再審を認めない決定をしました。
死刑か無罪か、裁判所の判断が大きく揺れ動いた半世紀にわたる審理は、再び再審の訴えが退けられる結果となりました。
名古屋高等検察庁“適切な判断”
名古屋高等検察庁の野々上尚次席検事は、「奥西死刑囚が持っていた農薬が自白どおり犯行に使われたかどうかが核心部分だったが、今回の審理では、科学的知見に基づいて適切な判断がされたものと理解している」というコメントを出しました。
弁護団長“特別抗告の準備に入る”
決定について、奥西死刑囚の弁護団の鈴木泉弁護団長は、支援者に対し「不当決定だ。裁判所は『疑わしきは被告人の利益に』という鉄則をかなぐり捨てたと断ぜざるをえない。直ちに特別抗告を申し立てる準備に入る」と述べ、最高裁で再び争う方針を示しました。
奥西死刑囚“しばらく沈黙”
奥西死刑囚の弁護団の2人が名古屋拘置所を訪れ、本人に直接、決定の内容を伝えました。
弁護士によりますと、決定の内容を聞いた奥西死刑囚は残念そうな表情をし、しばらく沈黙したあと、「ありがとうございました。残念ですが、今後の勝利を信じているので、今まで以上にご支援をお願いします」と静かな口調で話したということです。
弁護士によりますと、1週間前に髪を切り、25日は紺色のシャツに青いベストを着ていたということです。
また、弁護士から今後、特別抗告をする方針を伝えられると、何度も「ありがとう」と答えたということです。
事件の被害者や遺族は
事件の被害者の1人で、一時、意識不明となった神谷すず子さん(85)は、「再審を認めないという決定は当然で納得している。長かったけれど、これで事件に一つの区切りがついたと思う。奥西死刑囚に対して思うことは何もない」と話していました。
事件が起きた懇親会に出席して目の前で姉を亡くした神谷武さん(74)は、午前10時すぎに自宅のテレビで「再審を認めない」というニュースが流れた瞬間、何度もうなずきました。
そのうえで神谷さんは、「妥当な判断だと思う。事件は忘れられないものだが、今回の判断はあくまでも死刑囚自身の話で、私たちには関係がない。これまでの裁判や審理で騒がれるのはつらかった」と話していました。
再審で無罪が確定した2人は
足利事件のやり直しの裁判で無罪が確定した菅家利和さんは、今回の決定について、「非常に腹が立ち、裏切られた気持ちだ。無罪を勝ち取るまで絶対に頑張ってほしいし、そのための応援を行っていきたい」と話していました。
また、45年前に茨城県で男性が殺害されたいわゆる「布川事件」のやり直しの裁判で、無罪が確定した桜井昌司さんは今回の決定について「全然納得のできない決定だ。本人は悔しいと思う。とにかく元気でいてほしいし、この決定を覆していかなければならない」と話していました。
ジャーナリスト・江川紹子さんは
ジャーナリストの江川紹子さんは、「非常に残念だ。裁判所は本人が獄中死するのを待っているのかと思ってしまう」と述べたうえで、「『疑わしきは被告人の利益に』という原則が守られていない。この決定がなされたことは司法の自殺と言える」と厳しい口調で話していました。
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