──ミドラーさんのお仕事は、大変なばかりで理不尽なことも多そうで、とにかくフラストレーティングなもののように見えます。面白いとすればどの部分なのでしょう? 多くの企業が中国からの撤退を始めている状況下において、ミドラーさんのお仕事の意義、役割はどこにあるとお考えでしょうか?
ミドラー:読者のなかには、この本が中国に対するわたしの不満を反映したものだと考える方もいますが、わたしが本のなかで明確にしたかったのは、中国でビジネスをする国外のビジネスマンたちこそが、わたしなんかよりもはるかに多くのフラストレーションを抱えているということなのです。彼らはいい取引ができると思って中国にやってきて、あとになってこれがピクニックじゃ済まないことに気づかされるのです。それともうひとつわたしが言いたかったのは、わたしたちが普段何気なく買って、使っているプロダクトは、無菌室のような場所で生まれるわけではないということです。わたしたちは製造業というものを、なにやら機械的で客観的なプロセスだと思いがちですが、そこには人が介在するのです。そして人というものはとっ散らかった存在なのです。ひとりひとり違った考えをもち、それぞれが固有の文化的な背景をもっています。わたしはみなさんに、異なった文化や個性が製品の製造のプロセスにおいて、いかに深くかかわっているのかを知ってもらいたいのです。
──発展途上国は、果たして、発展途上国として「哀れみを受けることの利点」を自ら放棄して、「グローバルな舞台で活躍」することを選択するようになるのでしょうか? 中国にその契機が訪れるとすれば、どんなきっかけが必要でしょうか?
ミドラー:いつか中国ビジネスがまったく魅力を失うにしても、それまでにはまだ時間がかかるでしょう。中国は日に日に豊かになっていますが、一方で貧しい人々もたくさんいます。このように二極化した経済状況は中国製の商品を他国で販売する業者にとっては願ってもないことです。中国は「成長」したがっています。当然です。しかし、発展途上にあるという状態を保持しておくことで得られる利益も大きいのです。中国はおいしいところを全部もっていくのが上手な国です。彼らは多額の国際援助を受けながら、世界2番目の経済大国であることを誇るのです。考えてもみてください。フェラーリやベントレーが走り抜けていく道路の脇に貧しい人々が暮らしているのです。驚くべきことですよ、実際。こうした状況がいつまで続くのかはわかりませんが、政府のリーダーたちはしばらくこの現状を保持したいと願っているのではないでしょうか。
──これから中国進出を考えている企業に、いくつかアドヴァイスをお願いします。
ミドラー:ひとつ言えることがあるとするなら、自分にとっていちばん大事なことに集中して、ほかのことはあきらめるということですね。すべてを手に入れることはできないんです。安く商品を作りたいのであれば、不便だったり融通の利かない工場であっても我慢しなくてはいけません。クオリティが欲しければ、最安値でそれを手に入れることをあきらめるしかありません。全部手に入れようと思ったら気が狂いますよ。中国がまったくの初めてという会社は、中国はあらゆる面で勝手が違う国だということを肝に銘じておいてください。文化の違い、は絵空事ではありません。そのことを深く理解したうえで、中国市場に参入するのであれば、あるいは成功するチャンスは広がるかもしれません。
『だまされて。ー涙のメイド・イン・チャイナ』
ポール・ミドラー=著 サチコ・スミス=訳 ¥2,310〈東洋経済新報社〉
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中国人経営者の驚くべき詐欺的手口と巧みな言いわけを明らかにし、中国製造業の実態を、その”膠着の構図”を見抜いて描き、英『エコノミスト』誌、米『フォーブス』誌など欧米主要経済誌がベスト書籍に選出した。台湾、ベトナムなどアジアでも続々出版開始された問題作の翻訳刊行。中国在住の独立エージェント(仲介業者)として戦い続けた男がつづる、中国で最後に勝つための一冊。
ALL PHOTOS BY PAUL MIDLER(EXCEPT FOR THE BOOK COVER; BY CEDRIC DIRADOURIAN)
TEXT BY WIRED.jp_W
2012年5月17日