──本のなかで、ミドラーさんは、欧米の先進国ではない地域を第二市場と呼んでいます。つまりアフリカや中東、南米などの発展途上の国々ですが、ミドラーさんは、今後、こうした第二市場が、中国の取引先としてどんどん大きくなっていき、中国との関係性がますます強固になっていくとされていますが、そうなることで、先進国の企業はどんなリスクを抱えることになるのでしょう?
ミドラー:アメリカの企業が中国の工場にもち込んだオリジナルデザインが盗用されて、中東、南米、ロシア、アフリカ、東南アジアでさばかれるということはよくあります。とはいえデザインが盗まれたアメリカ企業がこれらの地域で商売をしないというのであれば特に大きな問題はありません。日本も含めてですが、中国でビジネスをしたい企業にとっての最大のリスクは、中国の製造業者は初め、とにかく仕事をしたくてしょうがないといった印象を与えるということなんです。けれども、ひとたび収益が上がって、自分の将来が安泰になってしまうと、とたんに興味を失ってしまうのです。つまりここでも先ほどと同じ構図が繰り返されるわけです。中国は最初は付き合いやすい国のように見えるのですが、工場レヴェルにおいても、国家レヴェルにおいても、裕福になり始めると、まったく逆であることがわかるのです。中国が本当に裕福な国になったとしたら、彼らとの仕事はどんなものになるんでしょう。たぶん相当苦痛な作業になるでしょうね。それまでに何かが変わらない限りは。
──中国の経営者たちの交渉の巧みさや、製造業における複製品の開発の手際のよさなど、見方を変えれば、中国企業やメーカーにはグローバル市場で戦えるだけのポテンシャルはあるようにも見えます。中国企業の本質的な潜在力は、どこにあると思いますか? また、それが十全に発揮されるためには何が最も必要ですか?
ミドラー:確かに中国の工場は、模造品を作ることだけでなく、ビジネスモデルをそっくりそのままコピーするのもとても上手です。しかし欠点もあります。例えば極めて短視眼的なのです。日本はブランドを構築することや、マーケットシェアを争うことのアドヴァンテージを知っています。これらは長期的な戦略に則ったものですが、そのおかげで日本の製造業は安定していました。中国の製造業は潮目が変わったらどこに向かうのかが予測できないのです。日本ではバブル経済以後不景気が続いていますが、こうした中国の欠点に気づいている人たちは、単なる不況以上のことを懸念しています。中国経済が破綻し、グローバル経済全体を道連れにすることをです。
──先進国の企業は、撤退するしか手のうちようがないのでしょうか? 中国の製造業者と強い信頼関係を結び、ビジネスを成功させているような「成功例」はないのでしょうか? あるとすれば、その秘訣はどこにあるのでしょう?
ミドラー:中国に生産拠点を移した多くの企業は、そのことによって何かが変わるとは思っていませんでした。生産コストが10%からそれ以上安くなるということを除いては。ところが、やがて経営や品質の管理をめぐる問題が出てきたり、工場側からの値上げ要求などが出てきて、結局安くなるはずのコストがそれ以前と同等になっていることに気づくのです。それによって収益が上がるのであればちょっとした頭痛の種やリスクは我慢もできますが、得るものがなければよそにビジネスの拠点を移すしかないでしょう。個人的には、中国でビジネスを成功させることは可能だと思います。けれどもそれを実現するためには想像をはるかに上回る努力が、絶対に必要となります。
2012年5月17日