増え続ける生活保護費の在り方をめぐり、制度の見直しに向けた動きがにわかに活発化してきた。人気お笑いタレントの母親が生活保護を受けていたという週刊誌報道が発端だ。
小宮山洋子厚生労働相は、生活保護費の支給水準引き下げを検討する考えを表明するとともに、親族が扶養できると判明した場合は積極的に返還を求める意向も示した。
政府は消費税増税や年金額切り下げなど、国民に痛みを強いる改革を進めようとしている。生活保護制度にも国民の不信感が高まっているため、聖域視しないと判断したのだろう。
生活保護の適正な運用は大切だ。しかし、政治的な思惑が絡んだような発言は慎むべきだ。生活保護制度は憲法が定める生存権の理念に基づいている。国が最低限度の生活を保障する「最後のセーフティーネット(安全網)」とも呼ばれる。
1950年代、津山市出身の故朝日茂さんが、保護基準の改善を求めて起こした「朝日訴訟」は生存権に光を当てた。弱者切り捨てにつながらぬよう、冷静に議論を深める必要がある。
バブル崩壊後の景気後退で、95年には約88万人だった生活保護受給者は、今年2月時点で210万人に迫った。生活保護費は約3兆7千億円に上り、国や地方の財政を圧迫する。
就職難や高齢化などで、2025年度には5兆2千億円に達すると試算されている。一方で不正受給などの横行も指摘される。悪質な行為を防ぐのは当然だが、最後の手段に頼らざるを得ない人の増加にどう対処するかは重要度が増している。
厚労相の諮問機関である社会保障審議会は、支給水準の妥当性について検証を進めており、今秋にも方向性をまとめる。自民党は10%の引き下げを求めているが、小宮山氏が今回、引き下げを検討する考えを示したことには違和感を覚える。
お笑いタレントの件に乗じて持ち出すような話ではあるまい。審議会の議論にも影響を与えかねない。さらに親族の扶養問題も、対応はより慎重であるべきだろう。
まず身内同士で助け合うのが大前提としても、都市化や核家族化などで社会や家庭は大きく変容してきた。親族が扶養できるかどうかは、かつての価値観では測れない面がある。
生活保護費の抑制策は、ほかにも就労支援や相談態勢、年金の在り方なども関係する。多角的な視点を忘れず、丁寧に考えていかなければならない。