今月中旬、大阪市内で行われた合同企業説明会。
厳しい就職戦線を勝ち抜こうと、学生たちの表情は真剣そのものだ。

<女子学生>
「今はわがままいっていられないと思っているので」
<女子学生>
「焦ります、そのひとことです」
一見、普通の合同企業説明会。
だが、よく見ると参加している学生に微妙な違いがある。
学生らの胸元に張られた「黄色いシール」。

貼っている人と・・・
貼っていない人。
一体、どんな違いがあるのだろうか?
<マル調>
「それ(黄色いシール)、なんですか?」
<男子学生>
「黄色いシールは… 受付でもらったんですけど。『新卒』の方と『既卒』の方でわけているのかもしれないですけれど…」
実はこのシール、すでに大学を卒業した、いわゆる「既卒者」と来年春卒業予定の「新卒者」とを区別するために貼られているという。
<不動産業>
「基本的には『新卒』をメインに見ていますが、中途でも言い方がいらっしゃれば、どんどん採用しています」
<介護サービス>
「正職採用は『新卒』のみになるんですね、(新卒は)まっさらなところ、やる気があって、いろんな所の“色”に染まっていただく」
「既卒者」よりも、「新卒者」が“優遇”されているというのか・・・
実際、「マル調」が確認したところ、参加企業49社のうち「既卒者」も
採用対象としているのは23社にとどまっていた。
<主催者の「学情企画」営業部 石谷博基マネージャー>
「『既卒』の方で就職決まっていない方というのは、どうしても就職活動して合格しなかった方ですから。確率的に企業からして、この人と一緒に働きたいという人でない可能性の方が高い」
企業が重視する「新卒」、学生にとっては今や無視できないブランドと
なっている。

全国屈指の就職率を誇る、兵庫県西宮市の関西学院大学。
<関西学院大学 井上琢智学長・入学式でのあいさつ>
「関西学院で学んでよかったと、そういう気持ちで卒業していただくことを願っています」
実は、関学には学生が「新卒ブランド」を手にする制度があるという。
関西学院大のAさん。
Aさんは去年、希望する企業から内定を得られなかったため、今年も大学に残って再び就職活動することにしたという。
<関西学院大学 Aさん>
「もう1年、就職活動やりたくて『5年生』にしました…」
Aさんが利用したのは…
「卒業延期制度」。
関学では、学生が卒業単位を全て取得していても、希望すれば最大1年、大学に在籍できる制度を設けている。
Aさんが目指す業界は「新卒」に限定する企業が多く、卒業してしまうと
不利になると考え、この制度を利用したのだ。

だが・・・
<関西学院大学 Aさん>
「自分は単位を取りきっていて、授業を受けることはないんですけど、でも授業料を納めなくてはいけなくて、それがほんとに大きな額で」
制度を利用するには、在籍料と半期分の授業料などをあわせた、およそ57万円の費用がかかるという。
大学側によると、当初は海外留学の学生を想定していたが、昨年度、制度を申請した140人のうち、ほぼ9割が就職活動のため利用している。
<関西学院大学 Aさん>
「最初は『その制度があるというのはすごい、学生を応援してくれている』と感じたが、実際に金額を聞いて学校は、果たして応援してくれているのか、なんで授業料という名目でお金を払わないといけないのか」
授業を受ける必要のない学生から「授業料」を取るのはなぜなのか・・・
「マル調」は、学生の就職活動を支援する担当者に聞いてみた。
<関西学院大学 土屋明生キャリアセンター長>
「最後の学期は必ず在籍してなかったら、卒業させられない。そういう意味できっちりと授業料を払わないといけない」
大学側は、あくまで学問にいそしむ場所である以上、在籍している期間の「授業料」は必要で、就職活動を終えてから社会に出るまで授業を活用すればいいと説明する。
<マル調>
「負担が高額では?」
<関西学院大学 土屋明生キャリアセンター長>
「一般的な授業料ですから、高額とみるかどうかはなかなか一言で言えない。本人の申請でやる制度ですから、卒業して就職活動するのであれば、それはそれでそういう道を選べばいいわけですから」
実はこの制度、導入しているのは関学だけではない。
「新卒」という肩書きを得るために、今や多くの学生が利用する「卒業延期制度」。
実は、関西学院大学だけの制度ではない。

神戸市の甲南大学でも・・
<甲南大学 男子学生>
「就職浪人する子もいて、学費を払ったら籍だけ置かしてくれる制度あるので」
甲南大学の「卒業延期制度」は年間授業料のおよそ半額、45万円で利用できるが、その負担は親にも重くのしかかっている。
我が子が制度を利用することになったこの女性、

既に45万円を支払ったというが、どうしても納得できないことがあるという。
<甲南大学 学生の母親>
「(年間)10万円と思っていたので、その金額の差にはびっくり」
実は甲南大学では3年前、リーマンショックで卒業間際に内定を取り消される「内定切り」の学生が続出した。
そこで救済措置として、就職活動のために大学に在籍できる制度を設けたのだ。
費用は、年間10万円だったという。
<マル調>
「なぜ10万円?」
<甲南大学 当時の担当者>
「10万円程度であれば、それほどの負担ではないのではないかと」
だが学生が現在、利用している「卒業延期制度」は45万円。
学生の母親は希望したとはいえ、在籍するためだけに高額の授業料が取られることに割り切れない思いでいる。
<甲南大学 学生の母親>
「まぁ、釈然としませんね・・ 思っていた金額とちがうのもありますし。これは何のためのお金なのかと」
就職活動のために在籍することに変わりはないはずだが、なぜこれほど
金額が違うのだろうか。
「マル調」が大学に尋ねると・・
<甲南大学 寺尾建学長補佐>
「(今の制度は)内定取り消しが出た学生への措置ではなく、まだ進路が決まっていない学生への措置。制度の趣旨がちがう」
当時は、やむなく大学に残って就職活動をするための緊急措置で、現在の「卒業延期制度」は授業の履修が前提で、学生本人が希望している点が全く違うという。
では、こうした「卒業延期制度」をどれ程の大学が設けているのか。
「マル調」が、主な私立大学に問い合わせてみると、
「関関同立」では、関大、同志社、立命館などは、制度がないないことがわかった。
「産近甲龍」では甲南以外ないが、龍谷大学は3年前に特例措置として導入していた。
早稲田・慶応ではともになし。
そのほかの関東の大学では青山学院、立教・専修で導入されていて、同じく半期分の授業料を支払うことが分かった。
大学によって、対応がわれるこの制度。
「マル調」は制度を設けていない立命館大学に聞いた。
<立命館大学 前田信彦キャリアセンター部長>
「ひとつ問題になってくるのが、なんで卒業を延期したかを企業に問われるということ。あまり意味のない卒業延期をしても、『1年間なにをやっていたんですか』と問われる。そこできちんとした答えができないと逆にマイナス」
大学を所管する文部科学省は制度自体に問題はなく、どのように運用するかは各大学の判断になるという。
だが、大学の入学金返還訴訟など、授業料を巡る裁判に長年携わってきた法律の専門家は、学生側の負担が重過ぎると指摘する。
<松丸正弁護士>
「就活生が在籍することによって、大学としての施設の点で負担や事務などの負担たいしたことない。就活生に対する支援制度というより、大学としての経済的な授業料とって設けるという、視点の入りこんじゃった制度になっちゃっているのかなという感じがする」
「卒業延期制度」を利用した関学のAさん。
今月、第1希望の企業から、内々定を獲得した。

結果的に、卒業を遅らせたことが功を奏したわけだが、およそ50万円という代償をこれからアルバイトで支払っていくという。
<関西学院大学 Aさん>
「終わってみると馬鹿らしかったが、活動やっている最中は『新卒』でないと不安で不安で仕方ない就職活動を過ごすことになる。就職活動の制度は,必ずしも学生にやさしいものではないかなと思います」
就職難の副産物とも言える「卒業延期制度」。
そのとらえ方は,学生や大学によっても様々だが企業側の「買手市場」と「新卒志向」が続く限り、時間と金をいたずらに費やす学生が減ることはない。
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