米国では従来から事業コストが最も低いのは南部といわれてきたが、中西部の事業コストが低下し、南部との差が縮小した。 経済調査会社ムーディーズ・アナリティックスが集計した指数によると、労働、エネルギー、税金、不動産を合わせた中西部の2010年の事業コストは全米平均の96%の水準だった。これは南部の対平均95%とそれほど変わらない。両地域のコスト格差はこの10年間で大幅に縮小している。
ムーディーズによれば、この数年間、米国の大半の地域で事業コストが小幅に低下している。なかでも西部での低下が最も顕著で、04年には全米平均の107%だったのが101%になり、今では北東部よりも中西部や南部に近い水準となっている。だが西部の事業コストは依然として比較的高いうえ、税優遇策を通した企業誘致に積極的ではない。
ムーディーズの指数は、さまざまな投入コストを追跡し、モデルを使って各州ごとにウエイト付けしたものだ。それによると、中西部では低いエネルギーコストが同地域の競争力改善に一役買っていることがわかる。
西部のコスト低下も、02~03年にいったん大幅上昇したエネルギーコストの低下が大きな要因だ。最近では、カリフォルニア州やネバダ州などを中心にした住宅バブルの崩壊と景気後退(リセッション)による失業の増加によって労働コストが抑えられている。
だが、低い労働コストと低い税率で長く製造業などの企業を引きつけてきた南部に迫る勢いでコストの低下が見られるのは中西部のみだ。
労働組合が普及しておらず法規制が企業に有利な南部は何十年にもわたって北部州の企業にとって魅力的な土地となってきた。さらには外国企業も南部 に工場を設立してきた。だがその結果、南部の雇用主が競って労働者を採用しようとする一方で労働者は生産性とスキルを高め、賃金が上昇した。
企業の立地に関するコンサルタント会社ビギンズ・レイシー・シャピロの中西部担当マネジング・ディレクター、トレイシー・ボスマン氏は、南部の事業コストはまだ平均より安いものの、「成功したことによって割高になりつつある」という。
一方で、工場が多いミシガン、オハイオ、インディアナなどの州では07~09年のリセッションとその後の影響によって賃金が抑えられた。製造業は 景気回復の原動力となっており、中西部失業率の大幅改善に寄与しているものの、雇用数はまだリセッション前の水準に戻ってはいない。その結果、工業の中心 地といえる同地域の賃金は抑制されている。
さらに、ムーディーズ・アナリティックスのエコノミスト、スティーブ・コクラン氏によれば、最近になって中西部の労働組合は政治的に不利な情勢にあるうえ、失業率も高止まりしていることから解雇を食い止めるのに精いっぱいで、賃金への圧力が高まっているという。
政府統計によると、昨年末、賃金と福利厚生の双方を含めた従業員報酬の平均コストは、ミシガン州、インディアナ州、オハイオ州を含む中西部では平 均1時間当たり27.66ドルだった。これは、アラバマ州、ケンタッキー州、テネシー州など南部を3.34ドル上回る。だが、2008年半ばの格差が7ド ルに近かったことを考えると、その差は50%以上縮小している。
もっと豊かな西部や北東部に比べてコストが安い南部も中西部も、この数十年、同じ企業の誘致と維持のために競合してきた。中西部は自動車産業との 歴史的なつながりを持ち、キャタピラーやフォード・モーターなど大企業の本社があるが、南部は税優遇措置とインフラ助成金を使って積極的に企業や工場を誘 致してきた。
だが、製造業の組み立てライン再編支援を行うオートツール社の創業者兼社長、バサーム・ホムシ氏によればそれも変わったという。同社は事業拡張に あたり、コストを削減し、南部の顧客の近くに移動するため、オハイオ州にある本社をアラバマ州に移すことを検討した。だが、電力は3割ほど高く、労働コス トも全体的には低かったものの、最も必要とされるエンジニアや熟練工の賃金はそれほど低くなかったという。
もう1つの変化は、中西部では税金そのものは全体的には南部よりも高いが、企業誘致のために積極的に税金を使い始めている点だ。ミズーリ・セント ルイス大学のケネス・トマス教授が発表予定の論文によれば、2010年に行われた1億ドルを超える経済活性化措置 21件のうち、12件が中西部、4件が南部のものだった。