二十一世紀に入り、電力を取り巻く環境が大きく変化しようとしている。原子力発電では、プルサーマル計画という核燃料の再利用システムが当初目標より大幅にずれ込み、スタートのめどすら立っていない。国策とされる再利用システムが立ち往生している背景には、現在の態勢に対する不信感とともにエネルギー政策に、より積極的にかかわろうとする立地県の意識の高まりがある。国民生活の基盤となるエネルギー政策の揺れを立地県から問い直す。

 

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漁業補償原発増設の基本条件

慎重な県、地元は不満募る

(6月3日(月)掲載)

 秋には数万匹のサケが水面を埋め尽くす楢葉町の木戸川。五月十五日、河口近くの木戸川漁協の事務所で佐藤悦男組合長と東京電力立地地域本部の担当者らが向かい合っていた。
 佐藤組合長は「サケやアユの漁は海面と密接につながっている。海だけでなく、内水面漁協も補償を受ける権利がある」と主張した。だが、東電の担当者は「前例がない。漁業補償という形では難しい」と回答。金額の提示など具体的な交渉にまでは至らなかった。
 海で漁をする漁協は昨年秋、東電と漁業補償を締結した。これに追随するように、浜通りの県鮭増殖協会と県浜通内水面漁協連絡協議会も東電に漁業補償を求めた。「サケは水温によってふるさとの川に戻ってこないことがある。補償は個人に分配せず、万一の際の漁協の蓄えにするつもりだ」。交渉の窓口となっている佐藤組合長は必要性を強調する。
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 蒸気でタービンを回す発電所は原子力、火力ともに、蒸気を冷却した大量の温排水を出す。東電の原発や火発は温排水を海に流しているため、建設に向けた一つの手続きとして漁業補償がある。海面で漁業を行っている漁民への補償はばく大な金額に上る。補償額は、原則として船主が五千万円、乗り子と呼ばれる船員が三千万円。一億五千万円以上の大金を受け取った家族もいる。
 ある漁業関係者は「ほとんどの人は、家を建て替えたり、新車を購入している。さらに地域経済を活性化させるために原発を早くつくってくれという声を聞く。ほとんどの漁民は推進派だ」と指摘する。
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 漁業補償は出されたが、福島第一、福島第二の両原発と広野火発から出る温排水による水揚げへの影響はこれまで出ていない。県が毎年実施している温排水調査で「魚種や水揚げに変化はない」という結論が続く。
 魚介類を市場に出荷している漁業関係者は「双葉沖のスズキやタイ、マコガレイ、ヒラメは日本一の評価を得ている。原発ができる前も後もそれは変わらない。原発と漁業は共生している」と説明する。
 7、8号機の増設によってできる専用港は、漁船の避難港としても活用できる。「反対する理由が見つからない」と漁業関係者は話す。
 佐藤知事は原発の増設に慎重な発言を繰り返し、東電は増設を県に申し入れられない。県と東電がまったく違った視点で増設を意識する中で、地元には不満が募っている。



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