ビデオドローム/ヴィデオドローム | |
Videodrome | 1982年 カナダ |
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ストーリー | |
暴力とセックスを売りにしたテレビ局の社長マックスは、自分の局で放送する新しい番組を探していた。月並なポルノはたくさんだ。もっと刺激的なものはないか? そんな折、海賊放送をチェックしている友人が面白いものを見せてくれる。偶然電波を傍受したというその番組のタイトルは、「ビデオドローム」。拷問と殺人が延々と繰り広げられる、変態的な番組だ。どこか外国で放送されていると思しきその番組の、リアルさと異様な迫力に魅了されたマックスは、番組の出所を探るが、その過程で恐ろしい噂を耳にする。「ビデオドローム」の中で起こっている拷問と殺人は、作り物ではなく、本物だと言うのだ! 身の危険を覚えるマックスだったが、事態はそれだけに収まらなかった。「ビデオドローム」を見るようになってから、奇妙な幻覚に悩まされるようになったのだ。一体何が起こっているのだ!? メディア研究の権威のもとを訪れたマックスは、「ビデオドローム」が脳腫瘍を引き起こすと聞いて愕然とする。もはや後戻りできないほど深みにハマってしまったマックスは、「ビデオドローム」を巡る巨大な陰謀に巻き込まれていく・・・ |
レビュー | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
『ザ・フライ』、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』の鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督が、82年に手掛けた異色のホラー映画。「異色のホラー」って、よく使われる文句だけど、これは本当に異色! 「なんなんだこれは!?」と話題を呼んで、ビデオリリースと同時に即カルト化しました。 そんなわけで、ホラー映画マニアはもちろん、レンタルビデオ世代の人間にとっては、今更説明するまでもないほど有名な映画ですが、まだ見てない人もいるかも知れないので、一応ご紹介を。私も好きなんだこれ! もうアイディアが奇抜で引き込まれます。ビデオを見ると脳腫瘍ができる? 幻覚が溶けて腫瘍になるのか? 精神が、そして肉体が変容していく・・・。精神と肉体、両方が・・・というのが特徴的ですね。普通なら、精神の変容を描いて心理劇にするか、肉体の変容を描いてモンスター映画にするところでしょ。精神と肉体を切り離せないものとして、一元的に捉えているところが現代的です。 また、ここでは一つのメディア論も展開されています。軽んじられている「見る」という行為・・・、私たちはテレビを見る時、その映像が私たちに大きな影響を与えたり、ましてや変質させるなどとは考えていないものですが、実際には、それは私たちの価値観を左右し、自我さえも変容させる。本作に登場するメディア学者が、「テレビの画面は心の網膜だ」と口にしますが、これは決して誇張ではないと思います。日本語字幕の「ビデオ人間」という翻訳はちょっとどうかと思いますが、主人公のマックスが精神的なレベルでも肉体的なレベルでも生まれ変わって、“新人類”になるという展開は啓示的です。彼の行く末に待っているものとは・・・? 生きてるビデオカセットに、内臓のビデオデッキ・・・。身悶えるテレビを愛撫したり、鞭打ったり・・・、SFとSMがごっちゃになった世界。よくもまあ、こんな訳の分からないような映画の企画にゴーサインが出たものです。前年に、超能力スリラー『スキャナーズ』をヒットさせていたことから、クローネンバーグは制作上の自由を手に入れていたのでしょうね。クローネンバーグはもともと小説家志望だったそうですが、本作では、そんな彼のイマジネーションが存分に発揮されています。 語り口も申し分なし。出所不明の電波が得体の知れない番組を放送しているというツカミの部分からして、都市伝説風で面白い。そして、スナッフムービーにまつわる社会のダークサイドを描いていくかに思わせておいて、予想だにできない奇想=ファンタジーの世界へと導入していく。これぞ“センス・オブ・ワンダー”! 総じてクローネンバーグの映画って、設定に大ざっぱなところがあるので、正直言って、純粋に小説家としては成功できなかったと思うのですが、ビビッドな力を持った「映像」という道具を得て、その奇想の数々は、大きく昇華したのです。 ところで、勘のいい人ならピンと来たと思いますが、本作には、Jホラーのヒット作『リング』との類似点が多く見られます。間違って放送のないチャンネルを録画したら、得体の知れないものが映っていたというキッカケの部分からして似てるでしょ。それで、「ビデオを見たら腫瘍ができて色々とオカシクなってしまう」というのを、「ビデオを見たら死んでしまう」という単純な恐怖に置き換えれば、さあ『リング』の出来上がりです。「貞子」みたいに、テレビからモンスターが出てくるシーンまであるんですよ。正確には、『ビデオドローム』の一シーンをパクった、『デモンズ2』のモンスター登場シーンの方を、『リング』は、強く意識してるみたいですけどね。『ビデオドローム』が後のホラー(小説含む)に与えた影響の大きさがうかがえます。(別に『リング』を批判しているわけではないですよ。『リング』も好き。) もっとずっと洗練された映画も作っているので、本作をクローネンバーグの「最高傑作」とは言えないかも知れませんが、セックスにバイオレンス、変態的嗜好にSF的奇想、メタモルフォーゼにフリークス性といった、クローネンバーグのエッセンスがふんだんに詰まった作品であり、文句なし「代表作」と言える映画だと思います。私は一番好きかも。荒削りで未整理で、得体の知れないところがタマラらない。
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ソフト | |||||
DVDはユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパンから発売されました。中身は、アメリカのユニバーサルから出てるものと同じかな? フィルムに起因すると思しきノイズがチラチラと入るところもあったけど、映像は全体的にクリアで、好印象。特典として、オリジナル劇場予告編を収録。廃価版になっているので、即ゲットしましょ。 上記したように、海外では、アメリカのユニバーサルのDVDが発売されているのですが、もう一つ、決定版とも言うべき商品が、名盤揃いで名高い、あのクライテリオンから発売されています。「Videodrome: Criterion Collection」。本編に登場するポルノ映画「サムライドリーム」の完全版(?)の他、これでもかとばかりに特典を収録した2枚組です。スクイーズ収録されていることを除けば、本編の画質に大差はありませんが、DVDのジャケットをビデオカセット風にするコダワリっぷりはさすが。
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(2007/7/22)
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