(cache) 2004年5月/弁護士 橋下徹さん - 時間管理の達人 | JMAM 日本能率協会マネジメントセンター

2004年5月/弁護士 橋下徹さん



CLOSE UP 時間管理の達人 第20回 弁護士 橋下徹(はしもと・とおる)さん(34歳) 仕事の優先順位を決めるのは「そのとき、その場所でしかできないこと」。 積極的な弁護スタイル、個性的で親しみやすい雰囲気から、マスコミでも活躍中の橋下徹弁護士。週2,3回、東京・大阪を往復する忙しさの中で実践する効率的な仕事術とは?

Profile

1969 年生まれ。94年早稲田大学政経学部卒業。同年の司法試験合格後、研修期間を経て97年弁護士登録。翌98年、大阪に橋下綜合法律事務所を開設。示談交渉に積極的に取り組み実績を伸ばす一方で、「行列のできる法律相談所」(日本テレビ系)をはじめとするテレビ・雑誌に数多く登場。個性派弁護士として人気を博す。
http://www.hashimoto-toru.com/

Interview

弁護士として「示談交渉」に力を入れていると聞きますが。

僕は28歳で事務所を設立しました。そんな若僧が普通と同じことをしていたのでは、依頼などくるはずがありませんよね。依頼者を増やすには、ほかの弁護士が面倒がる示談交渉を積極的に引き受け、解決の実績を積み重ねる以外ありませんでした。それに、時間もお金もかかる裁判より、示談交渉のほうが依頼者本人へのメリットも大きい。依頼者のことを考えれば、示談交渉に取り組むのも当然です。

現在、どれくらい案件を担当しているのですか?

僕自身は、常時並行して、200件くらい。今は割と大きな訴訟案件などが中心です。以前は300件、それも難しい示談交渉が多かったので、その頃に比べると少し楽になりました(笑)。

平行して200件というのは、相当多いのでは?

テレビに出てるから、弁護士業をおろそかにしているとは思われたくはないんです。だから、ほかの弁護士以上に弁護士の仕事をやっている。テレビや雑誌の仕事とうまく切り替えながら、どちらも最大限の力で両立させるようにしています。


ふたつの仕事をうまく切り替える方法とは?

弁護士業務は大阪が拠点、マスコミ関係は東京での仕事が多くなります。裁判は平日の昼間を拘束されるので、なるべくマスコミ関係は週末の金・土・日に集中させています。それにどちらも仕事の質が全然違うので、気持ちも切り替えやすい。どの仕事にも新鮮な気分で向き合えます。

弁護士には綿密な準備がつきものかと思いますが。

そうですね。たとえば、僕の場合、裁判書面はすべて暗記します。ものによっては、肩幅ほどの厚さにもなりますが、それくらいしないと裁判には勝てない。裁判の勝敗の分かれ目は、きちんと記録を覚えているかどうかです。記録が頭にしっかり入っているからこそ、法廷で臨機応変に戦略を組み立てられるんだと思います。

それだけ暗記するには、相当時間がかかるのでは?

僕は自己暗示にかかりやすいタイプなんでしょうね。やると決めたら、とことんがんばれる。大学受験のときもそうでした。それまで偏差値40しかなかったのに、猛烈な受験勉強をして、憧れの早稲田に合格しましたから。


弁護士業務とは、具体的にどのようなことをするのですか?

大まかにいうと、依頼者との面談、法廷、相手との折衝、資料や文献調査、書類作成などです。それに、僕の場合、経営者として事務所の管理業務のウエートも非常に大きい。総務、経理、人事、営業まで、全部自分でやってますから。必然的に、日中、事務所では経営者としての管理業務が中心になりますね。裁判の準備や書面作りといった弁護士としての個人的な業務は、もっぱら夜遅くなってからの作業ですね。

膨大な量の仕事を振り分けるコツとは?

その場所でしかできないことをやること。それが一番重要です。たとえば、裁判書面の作成などもそうです。わざわざ昼間、事務所でやらなくても、家で書類は作れますから。じゃあ、日中、事務所でなくてはできないことは、なんなのか。それが、決裁や労務管理であって、そのとき、その場所で最優先されるべきことです。

「そのとき、その場所でしかできないこと」が作業の選択基準なんですね。

そうです。わかりやすい例でいうと、僕は朝、家で新聞は読みません。朝は5紙をざっと開いて、気になった記事をとにかくビリビリ破く。破いた記事はちょっとした空き時間や移動のときに目を通せばいいんです。いつでも読める新聞記事よりは、朝食や家族との会話など、朝、家でしかできないことをしたほうがいい。

思い立ったら、その場で処理。終わった仕事は必ず消す。それが「できる人間」の鉄則。


日々の予定はどのように管理しているのですか?

スケジュールは事務所がパソコンで管理していて、スタッフが手帳に転記します。手帳は弁護士協同組合が発行しているものをずっと愛用しています。ほとんどの弁護士がこれを使っていると思いますよ。僕の場合、同行してくれる秘書がいるわけでもないので(笑)、普段はこの手帳を見ながらひとりで行動しています。

手帳への書き込みが色分けされていますが。

手帳に限らず、裁判書面でもなんでも僕は赤の決まったペンしか使わないんです。事務所では僕以外は赤を使わないと決めてあるので、必然的に赤=僕の書き込み、とすぐわかります。手帳の青文字は原稿の締め切り。スタッフが書き込む際にルール化してくれた色です。


手帳にTO DOリストを書き込んだりすることは?

いちいちリストを作ることはしないですね。その手のリストは、受験のときに重要項目をきれいにまとめたノートと同じ。作ったことに満足して終わってしまいがちだと思うんですよ。それに僕の場合、TO DOリストを作ろうと思うと、作るだけで何時間もかかってしまう(笑)。それこそ、時間がもったいないですよね。

次々に増えていく「TO DO」はどう管理するのですか?

思いたったら、すぐその場でやるのが大原則です。後からやろうということは、基本的にはありえない。だから、1カ月後までに用意しておけばいい裁判書面でも、そのときの法廷が終わった瞬間に大枠の骨子は作ってしまいます。ただ、思いたっても、どうしてもそのときにできないケースも確かにあります。そういうときは、手帳や雑記帳にどんどんメモして、終わったことはバンバン消していく。その繰り返しですね。

終わった作業は、必ず消す?

消す作業があって、初めてその仕事が本当に完了したことになる。終わったことをそのまま放置しているのは、管理ができていない証拠です。いらないものは消して、常にやるべきことだけにしておかなくては。頭でわかっているからメモらない、終わったことを整理しない、というのは、一番よくないパターンですよね。

裁判という長期的な仕事に取り込む上で大切なことは?

裁判の仕事は、だいたい1年くらいのスパンで考えます。取り組む上で、まず考えるのが、証人尋問、判決といった、最終的なゴールの設定。次は中間のポイントをきちんと作って、それに合わせてすべきことを自分の能力に合わせて割り当てていくことが大切です。長期的な仕事になるからこそ、計画性と着実な準備は欠かせません。

忙しさに流されない、仕事への信念を感じます。

自分の事務所という看板を背負ってやっている以上、ミスは許されません。その分、いろいろな面で、きっちりしていくのは当たり前ですよね。ただ、プライベートは本当にだらしないんですよ(笑)。妻にも、仕事と家庭では、まったく別の人格だといわれるくらい。きっとそういう一面があるから、仕事ではこれ以上ないところまで、突っ走れるんでしょうね。

マスコミでの活躍も増え、ますます忙しくなりそうですが。

確かに休みはほとんど取れない状態です。でも、今は、この時期しかできない貴重な体験をさせてもらっているという気持ちのほうが強い。一流の才能に触れ、刺激を受けることで、自分のフィールドも広がってきています。だからこそ、弁護士としても、メディアに登場することにも、とにかく全力を出し切りたいですね。それがこれからの僕の人生の中で大きな財産となるに違いないと思っています。