プライバシー侵害の芽を摘もうとオプトインを重視する欧州と、産業振興をもくろむオプトアウト重視の米国。両者はいずれも同じ消費者保護を指向しているものの、思想的には対極をなしている(図4)。
図4 米国と欧州のプライバシー規制の対立構図
ただし、こうした現状を踏まえ、米国とEUは3月19日、「両方のアプローチを尊重する」という共同声明を発表した。プライバシー侵害の共同監視などについても言及している。対立の根本的な解消は容易ではないが、過去には「セーフハーバー原則」[注8]として政治レベルで決着させた例がある。3月19日の共同声明でもセーフハーバー原則はさらなる相互運用を進めるのに有効だとしている。
■周回遅れの日本の対応
問題は、今の日本はこの駆け引きに参加すらできない可能性があること。日本では政権トップの現状認識も含め、この議論について欧米いずれと比べても周回遅れの状況にある。
いま何が争点になっているのか、それと産業構造がどう結び付いているのか、そこにどんな経済的価値が存在するのか。政権中枢レベルで理解できている人は、筆者が知る限り残念ながらほとんどいない。
こうした停滞は、日本企業のグローバル化にも障害になってきている。日本はコミッショナー制度を有していないため、プライバシーコミッショナー会議[注9]にも正式参加できていない。日本が遅々とした対応に甘んじている間に、東欧の小国にさえも先を越されるほどの状況になっている。この事実は、日本の国際競争力の弱さを端的に示すものであり、深刻な事象として受け止めなければならない。
今からにわかにアクションをとることもできず、現実的な対応としては、当面は欧米の動きを注視するよりほかはない。特に米国発の情報通信サービスは、Android(アンドロイド)を含め既に日常に広く深く浸透しており、影響は大きい。
日本の社会と市場のことなら、そこに暮らす我々にとって何が心地よい状態なのか、ほかならぬ我々自身が決めなければならない。消費者を保護するうえでは、事業者や専門家はもちろん、消費者自身が関心を持ち続けることが重要になる。
[注8]EUと米国商務省との間で結ばれた協定のこと。米国企業はEUデータ保護指令の基準を満たす対策をとっていることを米国商務省に申告することで、EUデータ保護指令順守とみなされ、EU域内でのデータ利用が可能になる。
[注9]プライバシーに関わる問題を集め、どのように対応すべきか判断する第三者機関のこと。多くの国や地域でプライバシーコミッショナーが存在し、国際会議などには、プライバシーコミッショナーが代表となって出席するケースが多い。
クロサカ タツヤ
企(くわだて)代表取締役。1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了。三菱総合研究所を経て、2007年に独立。現在は戦略立案や資本調達に関するコンサルティング、政府系プロジェクトの支援などに携わる。
[日経コミュニケーション 2012年4月号の記事を基に再構成]
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