5月24日、米国は頁岩層(シェール)に含まれる石油や天然ガスの開発が勢いづき、エネルギー価格が世界最低の水準となった。一部では米国が10年も経たずにエネルギーの純輸出国に転じるとの予測も聞かれる。写真は米ペンシルバニア州の天然ガス採掘現場。2010年2月撮影(2012年 ロイター/Tim Shaffer)
[ワシントン 24日 ロイター] 米国は頁岩層(シェール)に含まれる石油や天然ガスの開発が勢いづき、エネルギー価格が世界最低の水準となった。
企業の生産コストが低下して米国製品の国際競争力が高まり、あらゆる産業で投資が活発化している。一部では米国が10年も経たずにエネルギーの純輸出国に転じるとの予測も聞かれる。
シティグループは最近、エネルギーブームが米国の国内総生産(GDP)成長率を少なくとも今後数年間にわたり0.5%ポイント程度押し上げるとの試算を公表した。景気にとっては非常に大きな追い風で、効果が持続すれば長期の景気減速傾向から脱し、雇用創出のペースが速まる可能性がある。シティグループ(ニューヨーク)の市場ストラテジスト、エリック・リー氏は「相当な変革が期待できる」と話す。
ピーターソン国際経済研究所のエコノミストのフィリップ・バーレガー氏はもっと強気で、米国はわずか10年でエネルギーの純輸出国になり、シェール石油・ガス開発は今後10年ないし15年、成長率を年1%ポイント程度引き上げるとみている。
シェール石油・ガス開発で使われる水圧破砕法と呼ばれる手法は環境被害の懸念を引き起こしており、規制当局が動いてブームは沈静化すると警告するアナリストもいる。しかし今のところ新規投資をあきらめる企業は見当たらない。
<トラック輸送とプラスチック>
既に長距離トラック輸送業界では変化が起きている。トラックがディーゼル油より大幅に値段が安い液化天然ガス(LNG)を利用するようになっているのだ。トラックは米国の貨物輸送の約4分の3を占めるだけに、輸送コストの低下は経済全体を活性化し、投資を呼び寄せ、新規プロジェクトに回る資本を生み出し、企業の利益を押し上げる。
天然ガス供給会社のクリーン・エナジーはパイロット・フライング・Jと組み、100カ所を超えるトラックの拠点に来年末までにLNGタンクを設置する方針だ。
またユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)
ペプシコ
石油化学業界もブームに沸いている。数年前にはコスト面で中東に太刀打ちできないとの見方が一般的だったが、今では米国化学工業協会(ACC)の推計によると、安価なシェール・エネルギーのおかげで国内の石油化学工場において、250億ドルの投資が見込まれている。
例えばシェブロン・フィリップス・ケミカル
<純輸入国へ>
米国は1958年以来、石化燃料の純輸入国で、2000年からその傾向が強まった。エネルギー輸入は成長を損ない、高価な輸入原油への依存は1973年以降の景気後退の大きな要因となった。昨年のエネルギーの純輸入額は3000億ドル強で、対中貿易赤字を遥かに上回る。
しかしシェール・エネルギーの開発により天然ガスの生産は2011年に前年比で8%近く増え、過去最大の増加幅を記録。何十年間も減少が続いた国内の原油生産もこの3年間は毎年増えた。ノースダコタ州のシェール油田の出現で、米国の原油生産量は突如として石油輸出国機構(OPEC)加盟国であるエクアドルを上回った。
シティグループは、米国はエネルギーの純輸入が2020年まで縮小し、それ以降は原油、ガソリン、天然ガス液など液化エネルギーで純輸出国になると見込んでいる。米国は2015年ごろにメキシコ湾岸から初めてLNGを輸出する計画だ。
長期的にみれば、他の国でもシェール・エネルギーの開発が進展し、コスト面での米国の優位は失われるだろう。中国やアルゼンチンには大量のシェール・エネルギーが埋蔵されているとみられる。
ただ他国は開発が大きく遅れており、米国に先行者の利益をもたらしている。バーレガー氏は「他の国でもいつかは開発が進むだろう。それにはある程度時間がかかる」と話した。
(Jason Lange記者)
*写真を付けて再送します。