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第一話

 それは街を取り囲む城壁と大きな門だった。
 その門の前には今、一台の馬車と一人の少女が門の前で衛兵から検査を受けていた。
 検査は犯罪歴の有無。持ち物の点検とどのような理由でこの街に訪れたのかという簡単なモノで、犯罪歴はもちろん。荷物をたいして持っていなかった少女は、すんなりと門を通された。

「うわぁ~、なんか面影が全然無いなぁ……」

 門をくぐり町を見渡して少女は感嘆な声を上げたが、その言葉の最後は少しだけ寂しさが混ざっていた。
 今、少女がいるのはこの世界での宗教、ホルクス教の法王が納める宗教国フォルティアに属する、リッセルという田舎にある街の一つだ。
 しかし、その街はとても田舎には見えない。大きな城壁の内側には、立ち並ぶ建物と各種のお店、大通りは道行く人々で賑わっていた。
 そんな中で少女は周りのお店にきょろきょろと視線を向けながら歩いて行く。
 この街は少女にとっては見るモノ全てが珍しいモノなのか、その表情はとても生き生きと輝いていた。

「あっ、あれ美味しそうだな~」

 そんな独り言をつぶやきながら香草と肉が焼ける香ばしい匂いのする出店を見つめていた。

「何だ嬢ちゃん。あれが食いたいのか?」
「え? あっ、うん。ここからでも匂うあの香り。間違いなくあれは美味しいよ!!」

 突然、背中からかけられた声に少女は少し驚いた感じだったが、それだけ。特に警戒する様子も無くその声の主へと振り返りその問いに嬉しそうに答えた。

「そ、そうか。……だったらいい店を紹介しようか? 俺の行きつけなんだが、その店の料理はこの町でも一番の味だと俺が保証するぜ」

 少女が振り返った先にいたのは体格のいい中年の男。男は少女が予想以上に話に食いついてきた事に少しだけ驚いた様だったが、すぐに気を取り直して少女に笑顔を浮かべ、そう語りかけた。

「えっ、本当!?」

 その言葉に少女は歓喜し、瞳をキラキラ輝かせていた。

「あぁ、しかも俺の紹介だからな、無料で食い放題だ!」
「うわぁぁ~、お兄さん気前がいいね」
「じゃあ――」

「じゃあ俺もそこで飯にしようかな」

 じゃあ行こうか。そう男が言おうとした言葉を途中でかぶせて、別の若い男の声が男の背後から聞こえた。

「なっ!?」

 それに驚き、ハッと後ろを振り返った男は、その若い男の姿を見て驚愕していた。
 男の背後に居たのはこの街の衛兵だった。

「いい店なんだろ? 俺にも紹介してくれよ」

 彼はそう言いながら男の肩に手を乗せて気安く語りかけるが、その表情には一切の気安さは無く、ジッと男をにらむ。
 それに男は冷や汗を浮かべながら、せわしなく瞳があっちへこっちへと揺らいでいた。

「あっ、いや、そのだな……えっと、そういえばこれから用事があったんだ。すまないがこの話はなかった事にしてくれ」

 そして、男はそう言うとサッと衛兵の腕を払いのけると、人混みの中へと紛れてすぐにその姿を消した。

「そ、そんなぁー。美味しい食べ物が!!?」

 ガーンと効果音がつきそうなほどに落ち込む少女。

「あんたな……」

 それに青年は思わずあきれた表情を浮かべて目の前で落ち込む少女を見つめた。

「はぁ、しょうが無いか。……おい、そこのあんた」
「…………うん、なぁぁにぃ?」

 瞳に涙を浮かべる少女。

「飯なら俺が連れて行ってやるよ。しかも俺のおごりで」
「行く!!」

 彼の言葉で一瞬で元気になった少女。その変化に青年はあきれながらも苦笑を浮かべた。



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