| キップをなくして (角川文庫)池澤 夏樹角川書店(角川グループパブリッシング)このアイテムの詳細を見る |
「キップをなくして」池澤夏樹
イタル少年は、自分の生まれ年の記念切手のコレクション完成を間近に控え、いささか興奮しながら電車に乗っていた。そのため細やかなところまで気が回らず、いつの間にかキップを紛失してしまう。どうしよう、このままでは改札を出られない。青くなるイタルに、中学生とおぼしき少女が声をかけてきた。
「キップ、なくしたんでしょ」
訳知り顔の少女・フタバコに導かれるまま、イタルは電車に乗り込んだ。向かった先は東京駅のとある一室。そこにはイタルと同じようにキップをなくした少年少女が集められていた。
寝所の提供と、全駅全線のホーム内にかぎり、食事もキオスクでの買い物もフリーという条件のもと、イタルたちは「駅の子」として働かされることになる。
「駅の子」の労働内容は、ラッシュ時のホームの秩序を守ること。通勤通学で混雑する電車内外で傷つく人のいないように、黒子として活躍すること……。
はい、嘘くさい。
いや、そういう設定だから飲み込め、てのはわかるんですがね。僕も大人なんで。でもね、でもですよ。あまりにも子供の頭脳をナメすぎじゃないだろうか。話の途中まで誰一人として「お金を払えばキップがなくても出られる」ことに気がつかないなんて……。それぞれの子供たちが家に帰りたくない理由があるならまだしも、けっこうみんな家を恋しがってるぞ、おい。
ともあれ、「駅の子」生活自体はけっこう楽しそう。高学年の子が低学年の子に勉強を教えて面倒を見て。一般客の誰一人として気づかないところで安全を守って。ホームを使ってかくれんぼや鬼ごっこをして遊んで。食事は売店の駅弁や食堂のおばちゃんの作ったメニュー。全線乗り放題なのも魅力的。幽霊少女・ミンちゃんの成仏を巡ってのシリアスさもぴりりと刺激が効いてるし。ラストのしんみり加減も素敵。感ずべきところさえ感じられればけっこう面白い。
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