はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

キップをなくして

2009-11-17 20:45:45 | 小説
キップをなくして (角川文庫)
池澤 夏樹
角川書店(角川グループパブリッシング)

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「キップをなくして」池澤夏樹

 イタル少年は、自分の生まれ年の記念切手のコレクション完成を間近に控え、いささか興奮しながら電車に乗っていた。そのため細やかなところまで気が回らず、いつの間にかキップを紛失してしまう。どうしよう、このままでは改札を出られない。青くなるイタルに、中学生とおぼしき少女が声をかけてきた。
「キップ、なくしたんでしょ」
 訳知り顔の少女・フタバコに導かれるまま、イタルは電車に乗り込んだ。向かった先は東京駅のとある一室。そこにはイタルと同じようにキップをなくした少年少女が集められていた。
 寝所の提供と、全駅全線のホーム内にかぎり、食事もキオスクでの買い物もフリーという条件のもと、イタルたちは「駅の子」として働かされることになる。
「駅の子」の労働内容は、ラッシュ時のホームの秩序を守ること。通勤通学で混雑する電車内外で傷つく人のいないように、黒子として活躍すること……。

 はい、嘘くさい。
 いや、そういう設定だから飲み込め、てのはわかるんですがね。僕も大人なんで。でもね、でもですよ。あまりにも子供の頭脳をナメすぎじゃないだろうか。話の途中まで誰一人として「お金を払えばキップがなくても出られる」ことに気がつかないなんて……。それぞれの子供たちが家に帰りたくない理由があるならまだしも、けっこうみんな家を恋しがってるぞ、おい。
 ともあれ、「駅の子」生活自体はけっこう楽しそう。高学年の子が低学年の子に勉強を教えて面倒を見て。一般客の誰一人として気づかないところで安全を守って。ホームを使ってかくれんぼや鬼ごっこをして遊んで。食事は売店の駅弁や食堂のおばちゃんの作ったメニュー。全線乗り放題なのも魅力的。幽霊少女・ミンちゃんの成仏を巡ってのシリアスさもぴりりと刺激が効いてるし。ラストのしんみり加減も素敵。感ずべきところさえ感じられればけっこう面白い。
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聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス)1

2009-11-16 07:51:13 | 小説
聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス) (MF文庫J)
三浦 勇雄
メディアファクトリー

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 眠りを解け。真実を掴め。風をこの手に。……神を殺せ

「聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス)1」三浦勇雄

 40数年ほど前、大陸全土を暴力と悪意の嵐が吹き荒れた。自らの体の一部を贄として悪魔の力を借りる<悪魔契約>を結んだ悪魔の戦士たちの闘争の末の痛みわけに気づいた諸国は<悪魔契約>を封印。大気に満ちる霊体を触媒とした<祈祷契約>の技術に頼るようになった。
 7つの街に分かれた独立交易都市ハウスマンの3番街自衛騎士団に所属する騎士セシリー・キャンベルは、落ちぶれながらも貴族の出だ。貧しい生活や、騎士といっても自警団となんら変わりない仕事にも、誇りを持って働いていた。
 ある日、ボロボロになったキャンベル家に伝わる剣(といっても特別ではなく普通の)を鍛冶屋に持っていったのだが、鋳型製法によって大量受注大量生産が当たり前のこのご時世では、一本一本剣を打ち直してくれるところなんてないぞとすげなく断られる。
 唯一7番街の外れに住む刀鍛冶なら直してくれるかもしれないとの情報を得たキャンベルは、藁にもすがる思いでその刀鍛冶のところに向かおうとした矢先、突如路上で暴れ出した<悪魔契約>の生き残りの浮浪者を取り押さえる戦いの中で、剣が折られてしまう。初めての実戦で怯んだ彼女は、大男の圧力の前に心まで折られてしまうのだが、そこに謎の男が現れた。男は見たことも無いような曲刀を扱い、目も覚めるような剣術でまたたくまに大男を叩き伏せた。
 その男・ルークがくだんの刀鍛冶であることを知ったセシリーは、なんとかその刀を譲ってくれないか、もしくは新たに作ってはくれないかと交渉するのだが、ルークの助手の少女・リサも心配するほどあっさりきっぱり断られる。
 どうしても諦めきれないセシリーは、ハウスマン近傍の森に潜むという盗賊団討伐の遠征に、自分の値踏みに来てくれないかとルークに持ちかける。自分が剣を作るに値しない人物であればそれでいいから、と。
 命からがら生還したセシリーは、ルークに認められながらも手元不如意で剣を作ってもらえなかった。
 その後、盗賊団を裏で操る商人の存在を知った騎士団は、大市で出る競売の品の警護を、セシリーに任せる。若い彼女に任せる理由は、盗賊団討伐に功があったことよりも、彼女の存在そのもにあった。すなわち、女であること。普段は若い女の姿をとっている魔剣を守るには、そのほうが不自然ないと思ったからだ。
 初めての大任に緊張しながらも魔剣・アリアと友情を深めるセシリー。そこへ、謎の商人に操られたあの大男が現れた。<悪魔契約>のフルパワー。全身を贄にして……。

 悪魔契約、祈祷契約、獣人、魔剣、帝国、軍国、群集列国と、シリーズ最初だけにさまざまな単語が飛び交う。でも基本はシンプルなので理解はたやすい。肌も露な女戦士が、根性だけを武器に魔剣戦争に挑んでいく流れ。
 根性だけ、といっても技術がないわけではないのだが、やっぱり女性だしね。そこはどうしても限界がある。限界のもう一歩先が、根性なわけ。
 なのでまあ、怪我はしまくる。女の柔肌で、しかも事あるごとに指摘されるほどの巨乳の乙女が傷つきまくる様には、どこか怪しい魅力がある。本巻のラストでも、跡が残るほどの傷を負ったんだけど……どうかな、そこはライトノベルだし、すぐ治っちゃうのかも。満身創痍なヒロインてのも面白いとは思うのだがね……。
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僕は友達が少ない

2009-11-14 08:11:00 | 小説
僕は友達が少ない (MF文庫J)
平坂 読
メディアファクトリー

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「僕は友達が少ない」平坂読

 ハーフで目つきは悪いが別にヤンキーではない羽瀬川小鷹。黒髪ロングのスレンダーな美少女・三日月夜空。金髪碧眼ナイスボディの美少女なあげく理事長の娘なお嬢様・柏崎星奈。女にしか見えないいじめられっ子で小鷹を兄貴と慕う美少年・楠幸村。一見繋がりのなさそうな4人の共通点は、友達がいないこと。
 放課後の教室でエア友達と楽しく歓談するほど残念な少女・夜空の主導で結成された「隣人部」を介して知り合うと、彼らはどこか歪んだ遊びを繰り返し、対人スキルを磨こうとする。闇鍋、ギャルゲー、携帯ゲーム機での対戦、演劇……正しい部分もあるにはあるし、実際うまくいけばそれなりの展望もあるのだろうけど、いかんせん夜空・星奈の2人が仲が悪すぎて、いつも最悪の方向に転んでしまう。彼らに明日は、友達の出来る日はくるのだろうか……。

 出だしの10数ページが死ぬほど読みづらく、やってしまったかな、と思っていたのだが、隣人部が出来てから一気呵成に盛り返した。「これでラブ展開があればな〜」と思っていたら最後にいきなり展開したのが唐突すぎて笑った。これで終わらせるには惜しい。是非続編を出して欲しい。
 究極超人あ〜るとかハルヒとか、ダメ人間たちがこれまたダメな行事をこなしていく日常系が好きな人なら文句なく楽しめると思う。
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戦闘妖精・雪風

2009-11-11 07:47:36 | 小説
戦闘妖精・雪風 (1984年) (ハヤカワ文庫 JA)
神林 長平
早川書房

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「戦闘妖精・雪風」神林長平

 南極大陸の一点に出現した超空間通路を通って異星人・ジャムが襲来するようになってから30年。地球側から押し返した人類は「あちら側」に橋頭堡を築き、そこに各国の連合からなるFAF(フェアリィ空軍)を設置していた。
 中でも最新最精鋭の戦闘機をシルフィード、それをさらに戦術偵察用に換装したものをスーパーシルフという。高度な電子頭脳と大出力エンジンと、哨戒機にも匹敵する警戒レーダーを搭載。全軍でも13機しかない彼らには、ある特殊な任務が課せられた。敵情報を探るためなら友軍を見捨てても構わない。冷酷非常な掟に支配された彼らのことを、人はブーメラン戦隊と呼ぶ。
 主人公・零は、スーパーシルフの1機・雪風のパイロット。無愛想で非人間的で、上司のブッカー少佐と自分以外は愛機のことしか信じない、心を通わせられない男だ。彼はいつも雪風と共にあった。空を飛ぶことしかできない不器用な男だった。それ以外の生き方など知らなかった。
 ジャムの戦闘機は基本的に無人で、FAFとの技術競争においても常にそれをアドバンテージとしていた。空中での無茶な機体制御、大G。いずれも生身の人間に耐えられるものではない。スーパーシルフのAIも、そう判断した。パイロットはいらない。零は必要ないのだ……。

 恥ずかしながらの初・神林。愛読書にあげられる方が実に多いので、手にとってみたのだけれども、えっと……この結末は苦すぎないか?
 零の雪風との対話も基本的に自己満足というか自己陶酔の結果だし、なんというか、非人間的すぎるような。それがSF、といわれりゃそれまでだけれどもね。なんかだすっきりしない。
 戦闘機やドッグファイトのディティールは、そりゃあもう細かくて臨場感もあり、他に類を見ないレベルのものではあるのだが、ジャムの正体がまったく判明しないし、ただただ不気味で、スーパー科学力で策略を巡らす存在というだけでは。それが狙いではあるのだろうけども……。
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笑う招き猫

2009-11-07 19:59:45 | 小説
笑う招き猫 (集英社文庫)
山本 幸久
集英社

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「行くよ、アカコ」
「合点、ヒトミ」

「笑う招き猫」山本幸久

 豆タンクのアカコと180cmオーバーの巨人ヒトミ。2人合わせて「アカコとヒトミ」。30を目前にしたいい歳の2人は、お笑いコンビとしてカーネギーホールで(何故)漫才するのが夢。プロダクションの永吉やアカコの育ての親・頼子さん。頼子さんの友達で、ゲイのメイクアップアーティスト・白縫ジュン。売れない芸人・乙と、似ても似つかない可愛い娘・エリ。様々な人が応援してくれる中、2人は一歩ずつ成功へのステップを上っていくが、その一歩はただの一歩ではない。涙と汗をたっぷり滴らせた重い重ーい一歩なのだ。

 女の子(?)2人の漫才にかける情熱と友情が熱い。
 正直いって、女性のお笑いコンビって好きじゃない。下ネタかいやらし笑いか不細工が売りの人たちばかりで、正攻法のネタを見たことがないというのがその理由だ。
 しかし、この「アカコとヒトミ」にはそういった男に媚びたり自己卑下したりといったようなところがまったくない。「こぶとりちび」や「のっぽ」をネタにしたりはするけど、それはいかにも自然なものだし、王道の漫才師という目標も美しく清々しい。
 肝心要のネタ部分は、まああくまで紙面上のものだから面白さも並程度なのだけど、この2人がやっているのだと想像すると、どこかくすりとしてしまう部分がある。
 周囲を固めるキャラも良い。特にアカコの育ての親・頼子さん。御歳80になんなんとするお婆さんなのに、顔立ち品良く立ち居振る舞いがしゃきしゃきしていて、喋りもいちいち的を射ている。ああ、素敵な歳のとり方をしている女性だなあ、と素直に好感を持てた。「アカコとヒトミ」を見守る優しい視線には、文面以上の温もりを感じさせられた。こういう老人になりたいね。
 ラーメンズ片桐仁のあとがきは、片桐仁なりの作品への賛辞と作者への敬意がこめられていて良かった。某国営テレビのお笑い番組に関する理解と戸惑いには、思わずはっとするものがあった。
 お笑いの好きなすべての人に薦めたい。良作。
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鋼殻のレギオス(13)グレー・コンチェルト

2009-11-06 09:18:17 | 小説
鋼殻のレギオス13 グレー・コンチェルト (富士見ファンタジア文庫)
雨木 シュウスケ
富士見書房

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「鋼殻のレギオス(13)グレー・コンチェルト」雨木シュウスケ

 槍殻都市グレンダンに連れ去られたニーナと、自ら赴いたリーリン。2人のあとを追い、レイフォンはいよいよ故郷の土を踏む。
 以上。
 いやまったく、話としてはそれくらいしか進まなかった。生徒会長カリアンの初恋や、その妹フェリの怪談など、短編2本に総ページ数の半分をとられたという事情はあるにせよ、それにしてもあまりにも進まない展開にいらいらした。
 おまけに、戦闘シーンも今回は少ない。かつての妹弟子(?)クラリーベルとレイフォンの抜き打ち対決や、ディックとニーナのがちんこ勝負以外はすべて、ニーナとリーリンの精神状態や迷い恐れ「のみ」を描いている。謎めいた節回しと自らの置かれた状況に沈む彼女らの内面についていけないまま、僕はずっと取り残された気分だった。
 次巻に期待……しようか。
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パラレルワールド・ラブストーリー

2009-11-01 08:20:55 | 小説
パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)
東野 圭吾
講談社

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 君が欲しい 今でも欲しい 君のすべてに泣きたくなる
 あの日君に 会わなければ 違う生き方僕は選んでいた

「パラレルワールド・ラブストーリー」東野圭吾

 この歌詞は、大江千里の「格好悪い振られ方」の一文だ。若い人たちのために一言で説明するなら、槇原敬之のメガネバージョンだ。テンポよいピアノのリズムにはきはきした声質がのっかった曲で、最初から最後までひたすらに「男の未練」が歌い込まれている。
 本書のテーマも男の未練だ。高校時代の片思いの女の子・麻由子が時を経て社会人になり、親友・三輪の彼女として現れた。その瞬間、主人公・崇史の人生は変わった。嫉妬の鬼となった崇史は、足にハンディがある三輪がようやく手に入れた理想の彼女・麻由子を、あらゆる手段をこうじて略奪しようと試みる。しかしなかなかうまくはいかず、3人の関係は徐々にぎくしゃくして、ついには破局へと向かうのだが、ある日目覚めると、麻由子は崇史の恋人になっていた。2人は公認のカップルで、すでに同棲しており、三輪の姿はどこにもない……。
 なんだ夢だったのか、めでたしめでたし、となればいいがそうもいかない。記憶の矛盾と現実の錯誤の中に真実を見つけだそうと、崇史は孤軍奮闘するのだが、そこには驚くべき事実が待ち受けていて……。
 
 恐ろしい小説だった。時にページをめくる手を止めて小休憩を挟まなければならないほど、心理的にくるものがあった。
 理由ははっきりしている。過去の自分の弱さや失敗と向き合うような展開が辛かったのだ。親友の彼女に懸想する、だけならまだしも奪い取ろうとする、なんて男の風上にも置けない屑野郎のすることだが、そんなことはわかっているのだけど、それでも欲しいものっていうのが世の中にはある。僕にもあった。それまでの僕には考えられないことだけど、でも僕は狂ってしまった。結果、大切なものを失った。
 男ってのは未練深い生き物だと思う。別れた彼女の事を何年も何十年も思い続ける、みたいな部分が普通にある。おうおうにして彼女のほうはきれいさっぱり忘れているのだが、男の中ではラブストーリーは続いているわけ。
 本書はそこに「記憶」という要素を加えミステリ化したもの。相反する記憶たちの連続の先に、とんでもなく切ないラストが待っている。エンディングには、是非この曲を流してほしい。
 君が欲しい 今でも欲しい……♪
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ピース

2009-10-28 19:34:00 | 小説
ピース (中公文庫)
樋口 有介
中央公論新社

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「ピース」樋口有介

 埼玉県秩父市のとある田舎町に、スナック「ラザロ」はある。元公安のマスターと寡黙な青年・梢路。都落ちしたピアニスト・成子にアルバイト珠枝が切り盛りするその店には、毎夜理由有りクセ有りの大人たちが群れ集う。
 先だってバラバラ殺人で話題になった歯科医の男に続き、成子が殺され、平和だったラザロにはにわかに暗雲立ちこめる。連続猟奇殺人の犯人は、そして動機はなんなのか。青春ミステリの旗手、樋口有介が初めて描く(たぶん)無口な主人公・梢路は事件の行く末に何を見るのか?

 本当に珍しいものを読んだ、という印象。樋口作品といえばお馴染みの洒脱な会話、登場人物の掛け合いに、梢路はほとんど絡んでこない。いままでだって何人も厭世的な主人公はいたが、この子は異常。料理が上手くて山歩きが好きで、セックスの達人で元○○○○だという経歴も抜きん出て変わっているが、喋らない樋口キャラというのが意外すぎる。
 筋立て自体も相当変わっている。今までの樋口作品にあまりなかった社会的事件が主題に織り込まれているのだ。ネタバレになるが、個人的に映画「クライマーズ・ハイ」を見た直後だっただけに、読後の後味の悪さはちょっと言葉では言い表せないほどだった。真相や解法も人を選ぶ。決して万人受けする作品ではない。これが作家・樋口有介のターニングポイントになるのかどうか、判断が難しいところ。個人的には重みを味わって読めた。
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夏の口紅

2009-10-27 08:52:59 | 小説
夏の口紅 (文春文庫)
樋口 有介
文藝春秋

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「君が、おれの、妹?」
「うん」
「それは……」
「妹じゃいけないの」
「いけなくはないけど、そういうのは、困る」
「どうして?」
「どうしてでも、やっぱりそれは、困るんだ」

「夏の口紅」樋口有介

 15年前に家を出たきり会ったことのない父・周郎が死んだ。大学3年の礼司は、形見の品を受け取りに、生前父が最後に住んでいた家を訪ねる。そこで礼司は消息不明の姉の存在を知り、無口な引きこもり・季里子と出会う。父の形見は礼司と姉に一匹ずつゴクラクトリバネアゲハの新種を遺しただけだし、気になる季里子には、実は妹だ、なんて告白されるし、本当に、この夏は多忙すぎる……。

 冒頭のやり取りは、季里子が礼司に実妹だと告白するシーンの会話分。樋口節炸裂の甘酸っぱい言葉遣いが全体に行き渡っていて、非常にこそばゆく楽しい。
 礼司と触れ合うことで開花していく季里子の美しさ、周郎の生きた軌跡を追い、間接的に対話することで成長する礼司、2人の夏の十日間は、短いけれどもとても熱い。ファンの方は先刻ご承知だとは思うけど、「またこのパターンか」なんていわないように。美しき黄金率に支配された樋口有介の青春小説を楽しんでいただきたい。
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鋼殻のレギオス(12)ブラック・アラベスク

2009-10-23 09:39:51 | 小説
鋼殻のレギオス12 ブラック・アラベスク (富士見ファンタジア文庫)
雨木 シュウスケ
富士見書房

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「鋼殻のレギオス(12)ブラック・アラベスク」雨木シュウスケ

 サヴァリスと共闘して挑んだ老生体との戦いに水を差したのは、女王アルシェイラの一撃だった。いつの間にか、グレンダンはそんな位置にまで近づいていた。いくつもの放浪バスを乗り継いでたどり着いたツェルニに、あっけないほど簡単に。
 激戦は続く。レイフォン・サヴァリスの一騎打ち。老生体を退けたツェルニ全体に降り注ぐ万にも及ぶ新手の汚染獣。リーリンや廃貴族を狙う天剣たち。そして女王その人。微塵も勝機のない状況で、疲労したレイフォンの頭には逆らうことしかなかった。周囲の状況もわからず、みっともなくあがくことしかできなかった。たとえ勝てないとわかっていたとしても……。

 まあ、それが若さというものなんだね。同時に、変に老成したところにあるレイフォンは、一度木っ端微塵に打ち砕かれる必要があった。なので、今回はおもいっきり無様。救いたい人を救えずに、圧倒的な力で叩きのめされたレイフォンは今後どうするのか。非常に重要なターニングポイント巻。
 ストーリー的にも相当動いているんだけど、視点がいちいちぐらつくのでちょっと全体が見渡しづらい感がある。新キャラもどんどこ出てくるし。そいつらがラノベの悪癖ともいえるような「単語だけの匂わせ」を連発するしで、はっきりいって読み辛かった。
 反面、戦闘シーンは多い。というか、最初から最後までほぼ戦いっぱなし。汚染獣戦はいまいちだけど、天剣たちの戦いぶりはすかっとして良かった。そしてリンテンスは強い。もうこっちが主役のほうがいいんじゃないかねえ。
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