2012年02月
2012年02月14日
2012年度四大陸選手権:男子篇
四大陸こそはちゃんと感想を書こうと思っていたのに、またまた家内がドタバタしていて少々遅れてしまいますた~!というわけで、選手の皆さんの演技を最初に観た時の感覚を忘れないうちに、さっそく書いちゃいます♪
◆パトリック・チャン/優勝
うーん…凄過ぎる!というのがFPを観ての第一印象。これは優勝して当然。しかも高過ぎると思えるような点数で勝たれても、圧倒されまくりだったんで、恐らく日本中の皆さんが苛立っている中、私だけはスコアに関しても、まぁいいんじゃないの…としか思えなかったよ。慣れてきちゃったっていうのもあるんだろうけどね。
でも、実際にパトチャンは昨季より成長を着実に見せてくれた点もある。それは上半身と腕の使い方がより柔軟になり、見事な足さばきだけじゃなく、身体全体を使って踊るように滑るようになってきたこと。勿論それでも、大輔の舞踏要素の足元にも及ばないとは思ってる。でも、一見傲慢で昨季のワールドで王者になったからには、改良すべき点なんか俺にはないぜ!とでも言いそうなパトチャンでも、やっぱりちゃんと自分にまだ足りないものは何かを模索しては練習し、更に自分を磨くというアスリート精神が充分あることがうかがえた。
更に全体を通してのあのスピード感!標高のせいでFP後に酸素補給をせねばならないほどバテた選手がいる中で、さすが地元コロラド・スプリングスを拠点にトレーニングしているだけあって、最初から最後まで飛ばすわ、飛ばすわ!ペース配分など何のそのって感じでFPを滑り切ったのは男子ではパトチャンだけだと思う。お見事!
SPでのもろ両手お手つきが転倒扱いされなかった点や(何も尻もちつかなきゃ転倒にならないってわけじゃなくて、ルールではスケート靴のブレード以外;手、脚、腕等で身体のコントロールを失って支えたら=転倒となってるんだお~!)、PCSはいくら何でもちょっと高めじゃないの?とジャッジに対する疑問は残るけど…今回はテクニカル・スコアで主に大輔は引き離されたのであって、それは仕方ないと思う。ただ、SPの4Tであんなミスをしたのに、今季最高点が出ちゃうというシステムには改めて疑問を感じたな。GPシリーズでちゃんと4Tを成功させたSPが今回のSPより点が低いとは…当人比でのスコアリングなんかあっちゃいけないんだけど、当人比で採点してもどう考えたっておかしいでしょ?
でも、パトチャンを今回大きくまたも見直してしまったのは、彼自身はそんなおかしなジャッジの点数に左右されず、SPで失敗したからFPは失敗できないと覚悟して臨んだと記者会見で語った点。彼は自分がジャッジ連中ののお気に入りだと自覚しつつも、最早そんなことはどうでもよくなっているような気がした。スコアがどんなに良かろうとも、パトチャンもきちんと自分の納得行く演技を目指している…だからこそ、どう見ても両手で身体のバランスを支えていたSPでのミスを転倒扱いしなかったり、ちょっと危なそうなジャンプにもGOEで加点てんこ盛りなど、もうパトチャンはジャッジにしてもらう必要なんか全くないのだ。なのに一部のジャッジやテクニカル・コーラーどもが、彼がなるべく勝つように甘く採点し続けたら、せっかく素晴らしい演技をしても、特別彼のファンでもない限り、ほとんどのフィギュア・ファンからは「パトチャンはジャッジに贔屓されてるもんね~」としか言われ続けない選手で終わってしまう。それはあまりにも可哀想であり、プライドが高い彼にとっては屈辱的なはず。
最早、パトチャンはシビアに採点されても立派に勝てる実力を備えたのだから、ジャッジどもには彼を‘解放’してやって欲しい。私はパトチャンの大ファンではないし、いつか大輔が彼を打ち負かす日を楽しみにしているが…それでも、一生懸命練習してトップに相応しい演技をする選手が、ジャッジの妙な採点のせいで白い目で見られるような事態は我慢ならないから。
◆高橋大輔/準優勝
今回は大差で二位に甘んじてしまった大輔だが…個人的にはそんなに悪い内容ではなかったと思った。四回転こそ調子は悪かった上に得意の3Aでも回転不足があったりと、ジャンプ面ではかなり問題アリではあったけど…やっぱり大輔のスケーティングは魅せるねぇ~♥ パトチャンのスピードと大技成功には及ばなくとも、音楽の表現、プレゼン等は文句がつけられないほど洗練されている。個人的にはPCSの5コンポーネンツでは、全て満点が出ても当然なくらいの仕上がりだったと思う。実際、大差で負けたとは言え、PCSの点差はパトチャンと5点強程度。でも、本当は8点台が概ね並んだ大輔のPCSはせめて9点台であるべきだったと思うな…
更に今回驚いたのは、標高に負けずFPを最後まで崩れずに滑り切ったこと!一昔前まではFP後半でスタミナ切れして、ポロポロと点数を取りこぼしていた男が、よくぞここまで滑り切ったと感心せずにはいられなかったな。大輔もまた、パトチャン同様に自分の弱点を把握して、日々その克服に励んでいるに違いない。
しかし、そうした中で残念だったのは、スピンがレベル2しか取れていなかったりと、今季続いていたスピンでの取りこぼしがまたも起こってしまった点。残念だが現時点では確かにスピンもパトチャンの方が上手い。かつては美し過ぎるレイバック・スピンで観る者を魅了してきた大輔だけに、スピンのルールが変わって厳しい面もあるあろうけど、何とか再びスピンでも点数が稼げるようになってもらいたい。
パトチャンに勝つためには、一に四回転を安定させてFPでも二回跳ぶことが必要だと思う。でも、今季ワールドまでにそこまで彼に望むのは酷じゃないか…現役フィギュア選手の中ではオジサンに片足突っ込んだ年齢である上、昨年やっと脚からボルトを抜く手術をしたばかりなのだから。正直なところ、パトチャンがジャンプでミスを連発しない限りは、今季のワールドでは大輔が彼に勝てる可能性はほぼ無いと思う。けれども、使い古された言葉だが、勝つことだけが全てではない…特にフィギュアというスポーツにおいては、私はそう確信している。
今回の四大陸のカナダ放送では、何とコメンテーターが大輔を“You will not find a more popular skater internationally, univerasally loved(彼以上に国際的にも世界的にも愛されている人気スケーターはいない)” と紹介したらしい。そうなのだ…カナダのコメンテーターが自国、そして世界的トップスケーターのパトチャンよりも大輔の方がファンが多いと言い切ったのだ!どうして大輔がそこまで言われるようになったのかは、彼の演技を観れば一目瞭然。ミスがあろうが無かろうが、大輔は誰よりも音楽を表現し…否、音楽そのものになりきって情感豊かに氷の上を踊る。こんなスケーターは、他にランビくらいしか思いつかない。大輔が音楽を身体全体に浸透させて滑ることで、観る側は曲と共に彼の情熱を感じずにいられないはずだ。見事なジャンプを決めることも観客を感動させるが、フィギュアという鑑賞スポーツは、選手が音楽と共に自身をフルに表現し、観る側と演技中に通じ合うことができるもの。点数や順位は何れ忘れ去られるけれど、選手から心に直に伝わってくる存在感は忘れられるものじゃない。
だから今はまだ不完全でもいい。大輔は不完全な状態ですら、自分の存在感を観る者の心に深く刻み込めるスケーターなのだから。例え次のワールドで負けたとしても、きっと観衆の中には「それでも、自分は大輔の演技が一番好きだったな」と言ってくれる人達が大勢いると思う。ランビが引退した今や、音楽そのものになって滑られるスケーターは大輔と、強いて言うならジェレミーくらいだと私は思う。彼らがそうした才能を維持しつつ、ゆっくりと少しずつでもジャンプやスピンを上達させて行けば、今すぐは無理でも、王者パトチャンを越えられる日はきっと来ると願っている。今はアンダードッグ(敗者)として負う立場にいるのでちょうどいい。大輔の最終目標は本人も語っていた通り、2014年のソチ五輪なのだから。ガンバ!
◆その他の皆さん
無良君と町田君はSPが素晴らしかっただけに、標高のせいかFPで崩れて表彰台を逃してしまったのは本当に残念。誰がどう見てもロス・マイヤーよりは彼らの方が実力は上。それでも大会本番でそれを発揮できなければそれまでだと、改めて勝負の過酷さを実感。更に、無良君は大技ジャンプが得意なブレジナ系のスケーターだなと思った。高難度ジャンプは素晴らしい。だからあとは表現力を磨いて欲しいな。それと逆なのが町田君。町田君は日増しに表現力、音の拾い方等がアップしていて、パフォーマンスとして観た場合のメリハリの出し方も素晴らしい。ただ、彼には4回転がない。なくてもいいんだけど、良くなる一方の表現力にプラスして高難度ジャンプが入れられるようになれば最高なんだけどな~!最後に、表彰台は逃したけれど、FP前半でミスを連発していたリッポンポンが、恐るべきことに後半に入っていきなり難度の高いジャンプを根性で決めてきたのには頭が下がる思いでした。マイヤーの大きなミスはもっと少なくても、質の悪いジャンプオンパレードでラストは息切れでかろうじて滑り切ったFPよりも、リッポンポンのFPの方が私は途轍もない情熱と執念が感じられて好きだったな。あの天使のような美少年だったリッポンポンが、ここまで精神力の強いアスリートに成長してくれて嬉しいよ!