2ちゃんねるはもはや匿名ではない!? 個人情報流出を脅かす「IPアドレス開示」の舞台裏
サイゾー 4月27日(金)19時33分配信
2011年11月末、札幌にある巨大掲示版「2ちゃんねる」のサーバー管理会社に警視庁のガサ入れが入った。同サイト上で麻薬取引情報がやり取りされているという容疑に対しての強制捜査だったと報道されているが、これに限らず、多数の違法書き込みを放置している同サイト運営者側への、当局による牽制の意味もあるのではないかなどと、ネット上では騒がれた。
確かに2ちゃんねる上には、その匿名性ゆえ、他者の権利を侵す誹謗中傷や営業妨害的な書き込みがあふれている。だが、今回の当局のメスが入る以前から、こうした状況に変化が生じてきていたという。売りであったはずの匿名性を手放し始めていたのだ。
そもそも、2ちゃんねるは名誉毀損などにかかわる不適当な書き込みに対しては、削除依頼をすることは可能だが、削除に該当するかどうかの判断は運営側に委ねられてきたし(法人に関する削除依頼は、原則受け付けず)、まして書き込んだ人物(投稿者)を特定することなどできなかった。ところが、09年頃から、2ちゃんねる上の「アクセス規制情報板」で、依頼者の申請に応じて、次々と特定の書き込みのIPアドレス情報(以下、IP)が運営側によって開示され始めたのだ。
IPはプロバイダから割り振られる識別番号であり、これがわかれば、プロバイダ相手に訴訟を起こし、投稿者の住所、氏名を割り出すことも可能となる。不法な書き込みをした人物の氏名がわかれば、被害者は民事事件として賠償請求をしたり、刑事告訴もできるようになる。
「2ちゃんねるは、犯罪予告などの刑事事件に関わる不法書き込みについてはこれまでも自主的にIPを開示する例がありましたが、民事事件については、一部を除き頑なに拒んできたようです。ところが、09年から状況が変わりました。裁判所が仮処分の決定を出すと、アクセス規制情報板で裁判所の事件番号と債権者名とともに、IPが開示されるケースが出てきたのです」(神田弁護士)
仮処分とは債権者(この場合は、2ちゃんねるの中傷被害者)からの申し立てにより、民事保全法に基づいて裁判所が決定する暫定的処置のこと。裁判を行うより迅速に裁判所の決定が出るという特徴がある。では、2ちゃんねるがIP開示へと方針転換した裏には何があったのか?
09年といえば、2ちゃんねるの管理人だった西村博之氏が2ちゃんねるの所有権をシンガポールの企業、パケットモンスター(パケモン)に譲渡した年。さらに、次のような裁判が進行していた時だった。
2ちゃんねるの管理人時代の西村氏は多数の民事訴訟を提起されていたが、基本的に出廷せず、ことごとく敗訴していた。当然、賠償金も膨らんでいったが、西村氏個人の資産を特定し、債権を回収することが困難だったため、2ちゃんねるの運営には支障がなかった。ところが、10年1月に新潟の弁護士が、西村氏に対する損害賠償金を取り立てることに成功している。西村氏相手の慰謝料請求訴訟で勝訴していた同弁護士は、次に2ちゃんねるの書き込みをまとめた書籍を出版している会社を相手取って印税の支払いを求める訴訟を提起。裁判所は名目上、印税の債権者(印税の支払いを受ける権利を有する者)はパケモンであるとされていたものの、同社は西村氏のダミー会社だとして、出版社に印税の支払いを勧め、出版社もこれを受け入れて和解した。「踏み倒そうとしたら支払わなくても済む。そんな国の変なルールに基づいて支払うのは、ばかばかしい」という西村氏のそれまでの主張が覆ったのだ。西村氏が2ちゃんねるの管理人を降り、パケモンへ所有権を譲渡する形をとったのは、こうした流れに対する牽制だったのかもしれない。神田弁護士が続ける。
「2ちゃんねるがIPを開示する方針を知って、私も仮処分の決定を取ってみたのですが、最初のうちは2ちゃんねるに無視されていました。試行錯誤するうちにわかったのは、2ちゃんねるに対してIP開示だけでなく、書き込みの削除依頼も必要だということ。理由はわかりませんが、おそらくIP開示と削除申請に対する受付が、事務上別々に行われていて、IPアドレス開示だけだと、担当者が気づかなかったのかもしれません」
現在、アクセス規制情報板にはおびただしい量のIP開示スレッド(原則、1案件につき、1スレッド)が立っているが、債権者代理人として神田弁護士の名前が記されたスレッドは、11年だけで57件。神田弁護士が受任して別の弁護士に割り振った事件も含めると62件にも上るという。
■日本国内で裁判を起こせる
「まず、国際的な法律の紛争について規定する『法の適用に関する通則法』の19条によれば、名誉毀損は被害者の常居所地(この場合は日本)の法律が適用されることになっています。次に、日本国内のどの裁判所で受け付けてくれるかという話になります。IP開示の請求権はプロバイダ責任制限法に基づく権利ですが、民事訴訟法には外国法人は日本における主たる事務所・営業所のほか、代表者又は主たる業務担当者の住所地において裁判できるという規定がありますので、2ちゃんねるの主たる業務担当者が日本国内にいれば、その人の住所地の地裁でIP開示の裁判をすることが可能となります。また、民事訴訟法の規定によれば、名誉毀損などの不法行為は、その不法行為があった場所も管轄となりますので、削除だけならば、被害者の住所を管轄する裁判所でも裁判を起こすことができるのです」(同)
仮処分の決定を得てから、2ちゃんねるにそれを実行させるまでの具体的な手続きについては右ページのメモ欄に説明を譲るが、IPが開示された後は、相手を特定し、損害賠償請求を行うこととなるケースも少なくない。
「IPが開示された後は、そのIPからわかるプロバイダに対して、投稿者の住所、氏名を開示するための訴訟を行います。それにも勝訴し、投稿者が判明すれば、場合によっては損害賠償請求の訴訟が行われます。賠償金額は、5〜100万円程度です。弁護士費用は、ほかの弁護士のサイトを見ると、IP開示仮処分で15〜25万円、プロバイダへの住所、氏名開示訴訟で20〜30万円ですので、割に合う物ではありませんが、つい先日、開示訴訟と開示仮処分の弁護士費用を全額投稿者に負担させる裁判例が出ています。これが定着すれば、被害者の経済的負担は軽くなる可能性もあります」(同)
これまでネットにおける言論の自由の最前線と目されてきた2ちゃんねるだが、IP開示方針に転換し、事情は大きく変わった。こうした動きに、ある2ちゃんねるユーザーはこう話す。
「私自身は2ちゃんねるのIP開示方針には賛成です。言論は単に自由であればいいというものではありません。不法な書き込みは当然ですが、話の流れを乱すような悪ふざけしすぎた書き込みは気分が悪くなりますし、特定のメーカーの商品だけを狙ったステルスマーケティングを思わせる書き込みにも辟易とさせられます。運営者側が規制をかけるなど自浄作用を働かせるべきだと思います。IP開示方針が、他のユーザーに不利益や不快さを及ぼす書き込みの抑止力になればいいんじゃないでしょうか」
近年は競合するコミュニティサイトに押されつつあるともいわれる2ちゃんねるだが、今後、大きく姿を変えてゆくことになるのか?
(星野陽平)
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そもそも、2ちゃんねるは名誉毀損などにかかわる不適当な書き込みに対しては、削除依頼をすることは可能だが、削除に該当するかどうかの判断は運営側に委ねられてきたし(法人に関する削除依頼は、原則受け付けず)、まして書き込んだ人物(投稿者)を特定することなどできなかった。ところが、09年頃から、2ちゃんねる上の「アクセス規制情報板」で、依頼者の申請に応じて、次々と特定の書き込みのIPアドレス情報(以下、IP)が運営側によって開示され始めたのだ。
IPはプロバイダから割り振られる識別番号であり、これがわかれば、プロバイダ相手に訴訟を起こし、投稿者の住所、氏名を割り出すことも可能となる。不法な書き込みをした人物の氏名がわかれば、被害者は民事事件として賠償請求をしたり、刑事告訴もできるようになる。
「2ちゃんねるは、犯罪予告などの刑事事件に関わる不法書き込みについてはこれまでも自主的にIPを開示する例がありましたが、民事事件については、一部を除き頑なに拒んできたようです。ところが、09年から状況が変わりました。裁判所が仮処分の決定を出すと、アクセス規制情報板で裁判所の事件番号と債権者名とともに、IPが開示されるケースが出てきたのです」(神田弁護士)
仮処分とは債権者(この場合は、2ちゃんねるの中傷被害者)からの申し立てにより、民事保全法に基づいて裁判所が決定する暫定的処置のこと。裁判を行うより迅速に裁判所の決定が出るという特徴がある。では、2ちゃんねるがIP開示へと方針転換した裏には何があったのか?
09年といえば、2ちゃんねるの管理人だった西村博之氏が2ちゃんねるの所有権をシンガポールの企業、パケットモンスター(パケモン)に譲渡した年。さらに、次のような裁判が進行していた時だった。
2ちゃんねるの管理人時代の西村氏は多数の民事訴訟を提起されていたが、基本的に出廷せず、ことごとく敗訴していた。当然、賠償金も膨らんでいったが、西村氏個人の資産を特定し、債権を回収することが困難だったため、2ちゃんねるの運営には支障がなかった。ところが、10年1月に新潟の弁護士が、西村氏に対する損害賠償金を取り立てることに成功している。西村氏相手の慰謝料請求訴訟で勝訴していた同弁護士は、次に2ちゃんねるの書き込みをまとめた書籍を出版している会社を相手取って印税の支払いを求める訴訟を提起。裁判所は名目上、印税の債権者(印税の支払いを受ける権利を有する者)はパケモンであるとされていたものの、同社は西村氏のダミー会社だとして、出版社に印税の支払いを勧め、出版社もこれを受け入れて和解した。「踏み倒そうとしたら支払わなくても済む。そんな国の変なルールに基づいて支払うのは、ばかばかしい」という西村氏のそれまでの主張が覆ったのだ。西村氏が2ちゃんねるの管理人を降り、パケモンへ所有権を譲渡する形をとったのは、こうした流れに対する牽制だったのかもしれない。神田弁護士が続ける。
「2ちゃんねるがIPを開示する方針を知って、私も仮処分の決定を取ってみたのですが、最初のうちは2ちゃんねるに無視されていました。試行錯誤するうちにわかったのは、2ちゃんねるに対してIP開示だけでなく、書き込みの削除依頼も必要だということ。理由はわかりませんが、おそらくIP開示と削除申請に対する受付が、事務上別々に行われていて、IPアドレス開示だけだと、担当者が気づかなかったのかもしれません」
現在、アクセス規制情報板にはおびただしい量のIP開示スレッド(原則、1案件につき、1スレッド)が立っているが、債権者代理人として神田弁護士の名前が記されたスレッドは、11年だけで57件。神田弁護士が受任して別の弁護士に割り振った事件も含めると62件にも上るという。
■日本国内で裁判を起こせる
「まず、国際的な法律の紛争について規定する『法の適用に関する通則法』の19条によれば、名誉毀損は被害者の常居所地(この場合は日本)の法律が適用されることになっています。次に、日本国内のどの裁判所で受け付けてくれるかという話になります。IP開示の請求権はプロバイダ責任制限法に基づく権利ですが、民事訴訟法には外国法人は日本における主たる事務所・営業所のほか、代表者又は主たる業務担当者の住所地において裁判できるという規定がありますので、2ちゃんねるの主たる業務担当者が日本国内にいれば、その人の住所地の地裁でIP開示の裁判をすることが可能となります。また、民事訴訟法の規定によれば、名誉毀損などの不法行為は、その不法行為があった場所も管轄となりますので、削除だけならば、被害者の住所を管轄する裁判所でも裁判を起こすことができるのです」(同)
仮処分の決定を得てから、2ちゃんねるにそれを実行させるまでの具体的な手続きについては右ページのメモ欄に説明を譲るが、IPが開示された後は、相手を特定し、損害賠償請求を行うこととなるケースも少なくない。
「IPが開示された後は、そのIPからわかるプロバイダに対して、投稿者の住所、氏名を開示するための訴訟を行います。それにも勝訴し、投稿者が判明すれば、場合によっては損害賠償請求の訴訟が行われます。賠償金額は、5〜100万円程度です。弁護士費用は、ほかの弁護士のサイトを見ると、IP開示仮処分で15〜25万円、プロバイダへの住所、氏名開示訴訟で20〜30万円ですので、割に合う物ではありませんが、つい先日、開示訴訟と開示仮処分の弁護士費用を全額投稿者に負担させる裁判例が出ています。これが定着すれば、被害者の経済的負担は軽くなる可能性もあります」(同)
これまでネットにおける言論の自由の最前線と目されてきた2ちゃんねるだが、IP開示方針に転換し、事情は大きく変わった。こうした動きに、ある2ちゃんねるユーザーはこう話す。
「私自身は2ちゃんねるのIP開示方針には賛成です。言論は単に自由であればいいというものではありません。不法な書き込みは当然ですが、話の流れを乱すような悪ふざけしすぎた書き込みは気分が悪くなりますし、特定のメーカーの商品だけを狙ったステルスマーケティングを思わせる書き込みにも辟易とさせられます。運営者側が規制をかけるなど自浄作用を働かせるべきだと思います。IP開示方針が、他のユーザーに不利益や不快さを及ぼす書き込みの抑止力になればいいんじゃないでしょうか」
近年は競合するコミュニティサイトに押されつつあるともいわれる2ちゃんねるだが、今後、大きく姿を変えてゆくことになるのか?
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最終更新:4月27日(金)19時33分
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