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子どもの心臓病治療を「再生」で

5月23日 22時10分

堀征巳記者

子どもの心臓病の治療は、心臓移植以外の効果的な治療法がないのが実情です。
そうしたなか、岡山市の岡山大学病院で、世界で初めての取り組みが進められています。
心臓病の子どもの治療に患者自身の心臓の細胞を使った再生医療の研究です。
拒絶反応がなく体への負担もほとんどない新たな心臓病治療の確立につながると期待されているこの治療方法について、岡山放送局の堀征巳記者が取材しました。

心臓再生医療とは?

岡山大学病院が研究を進めているのは、患者自身の心臓の細胞を抽出して数を増やし、再び心臓の筋肉に戻す治療法です。
心臓の組織の一部を患者の体から採取します。

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ここから、働きが衰えていないとされる「幹細胞」を取り出し、無菌の状態でおよそ2週間培養します。
こうして増やした細胞を患者自身の心臓に戻します。
研究を進める岡山大学病院の佐野俊二医師は、「自分の細胞を使うので拒絶反応も少なく、体への負担も少ないので、再生医療は患者に大きなメリットがある」と話しています。

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対象は“1万人に1人”の難病

この再生医療の対象になっているのは、先天的に心臓の左心室の機能が弱く症状が進行すると死に至ることもある「左心低形成症候群」という病気です。
1万人に1人の割合で発症する重い病気で、現在の医療技術では最良とされる手術を行っても、5年後に2人に1人は亡くなってしまいます。

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なぜ再生医療なのか

子どもの心臓病に対して、最も効果があるとされているのは心臓移植です。
しかし日本では、おととし改正臓器移植法が施行されたあとも、子どもの臓器提供の機会は増えず、子どもの心臓移植はこれまでに僅か1例です。
10歳未満の子どもになるとまだ1例もなく、国内での移植の道はほぼ閉ざされています。

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このため高額な費用を支払って海外での移植を目指すケースが相次いでいますが、WHO=世界保健機関は、臓器の売買が国際的に問題となっていることなどを背景に、海外で提供を受けた臓器移植の自粛を求めています。
こうしたことを背景に、岡山大学病院では、移植に代わる新しい医療として心臓再生医療の研究を去年から始めたのです。
そして、厚生労働省に申請し、まずは0歳から3歳までの7人の子どもに対して再生医療を行い、そのすべてで改善が確認されました。

水すら自由に飲めなかった女の子が

心臓に負担をかけないよう外で自由に遊ぶことができず、水ですら自由に飲むことができない広島県の3歳の女の子。

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ことし2月には培養して増やした自分の細胞を心臓に戻す手術が行われました。
これにより心臓の筋肉=心筋が増えて血液を体に送り出すポンプの機能が強化されます。
手術から3か月後に女の子の家族に経過が伝えられ、心臓が血液を送り出す能力が5%回復していることが分かり、近く水分制限もなくなる見通しになりました。
女の子の母親は、「夜、寝るときは息をしているか、毎朝、起きたら子どもが目覚めるか心配で、3歳を迎えられるかどうかと思っていましたが、いい報告を受けて涙が出る思いです」と話していました。

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さらに多くの子どもたちに

治療をした7人すべてで心臓機能の改善に向かったことで、岡山大学病院ではデータを詳細に分析したうえで、ことし7月にも、国に対しさらに多くの患者にこの治療を施すための申請を行うことにしています。
そして国の承認を受ければ、さらに多くの同じ病気の子どもを再生医療を行うグループと行わないグループに分けてどのような効果の差が出るのかを確かめます。

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その段階をクリアすれば、再生医療は国からの認可を受け、健康保険が適用されるようになり、新たな心臓病の治療方法としてより多くの子どもが恩恵を受けることができるようになります。
岡山大学病院では、ほかの医療機関と共に再生医療の効果を確かめることで、できるだけ早く国の認可につなげたいとしていて、心臓移植に代わる新たな心臓病治療の確立につながるかが注目されます。

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