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福島原発の放射性物質放出量、政府推計の2倍 チェルノブイリの17%相当

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 【東京】東京電力は24日、昨年3月11日の大震災に伴う福島第1原子力発電所事故に伴う放射性物質の放出総量が、これまでの政府統計よりも多かったとの報告を発表した。これは1986年のチェルノブイリ原発事故の放出量の約17%に相当するという。

AP

福島第1原発3号機

 しかし、医療、原子力安全専門家は、新たに発表された数値について、健康リスクに関するこれまでの見解を大幅に変更するものではないと述べている。

 東電の発表した大気への放出総量は推定90万テラベクレル(テラは1兆)で、今年2月16日に政府が推定した48万テラベクレルの2倍近くとなっている。

 今回の推計は東電としては初めての推定値で、原発事故以来、政府規制当局が出してきた一連の推定値を上回る最大水準。

 昨年6月、政府は放出量は77万テラベクレルと推定し、事故直後の4月12日の当初推定値の37万テラベクレルから2倍以上に引き上げていた。

 東電の最新推計は、世界最大の原発事故となった旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原発の推定放出量520万テラベクレルの17%に相当する。

 福島第1原発の場合、最大の放射性物質放出は事故発生から数日たったあとに起こったとみられている。当時、原発建屋内で水素がたまり、3月12、14、15日に原子炉3基の建屋で爆発が相次ぎ発生した。

 しかし、東電は、地震と津波の直後で周辺住民がまだ避難途中だったころ、大量の放射性物質が放出されたとも指摘している。事故を受けて、合わせて15万人の原発周辺の住民が避難した。

 こうした最新推定を発表するのに事故発生後1年以上かかったのはなぜか、との記者団の質問に対し、東電幹部は、様々なモニタリングポストで観測された放射性物質が原発内部の事故と関係しているか見極めるのに時間がかかった、と指摘した。

 原子力委員会の元委員長代理だった田中俊一さんは「放出された放射線量が増えたことで健康への影響や被爆量が大きく増えるとは思わない」と述べた。しかし(こうした報道を見ることで)住民の間で被爆関連の病気になるかもしれないという懸念が強まる可能性がある、と指摘した。

 京都大学の中島健教授(原子核工学)は「重要な問題は放射性物質がどの程度放出されたかではなく、人々がどの程度被ばくしたかだ」と述べ、「放出量の推計値がこのように大きく変動すると、一般国民の間で不信感を招く」と語った。

 これより先、世界保健機関(WHO)は、福島第1原発事故による住民の推計被ばく線量をまとめた報告書を公表した。報告書によれば、原発から北西に約20キロ離れた福島県浪江町と飯舘村の住民の被ばく量は、事故後1年間で10-50ミリシーベルトだった。福島県のその他の地域はこれを大きく下回っており、年間1-10ミリシーベルト。その他の近隣地域では0.1-10ミリシーベルトだった。

 政府の規制機関である経済産業省原子力安全・保安院のスポークスマンは、東電の最新推定値に反駁するつもりはないとし、追加的なデータが入手可能になるにつれて推計はより精密になっていると指摘。「われわれも専門家と協力して一層吟味していきたい」と語った。

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