ニコ動は、さまざまな優遇が受けられる月額525円の有料サービス「プレミアム会員」の課金収入で運営コストの多くをまかなっている。今年5月時点のプレミアム会員数は、2725万人の登録会員全体の約6%にあたる162万人。この月額8億円超、年間で100億円近いユーザーから集めた資金の一部を、この4月からコンテンツのクリエーターに還元し始めた。
第三者の権利を侵害していないオリジナル作品であることが前提で、誰でもプログラムに参加申請することができる。報酬額は動画自体の人気に加え、二次利用、三次利用された「子作品」の多さやその人気も加味され月ごとに決まる。
4月に支払われたのは原資の12分の1に相当する約3000万円。対象は、これまでニコ動に投稿された約765万の動画のうち、今年3月までに参加申請があった数千作品。参加する作品が増えるほど分け前も減る「山分け」の仕組みで、5月以降、平均報酬額は減っていくと見られる。
■月額100万円以上を数人が手に、数万円でも「励みになる」
気になる額だが、この4月だけで100万円以上を受け取った動画投稿者が「3、4人くらいいる」(川上会長)といい、下は数百円と幅が大きい。多くは上松さんのように数万円だったようだ。それでも上松さんは「創作の励みになる」と喜びを隠さない。
上松さんがニコ動にCG(コンピューターグラフィックス)アニメーションの動画を投稿するようになってから2年余り。最近では人気ランキングの上位に入ることも珍しくない。
専門学校でCGの制作技術や実写との合成技術を学び、映像技術者として就職を目指す傍らで、喜んでもらえるのが楽しくてニコ動への投稿を繰り返すようになった。将来の夢は、撮影・音楽・演出・プログラミングのすべてを担う総合的なプロデューサー。その見習いの身である上松さんは、自身の作品への対価を初めてニコ動から受け取ったことになる。
上松さんは、さすがに奨励プログラムだけで食べていけるようになるとは、到底思っていない。だが、「映像クリエーター職は長時間労働で薄給が基本の世界。そんな中で奨励プログラムは、ささやかながらも作者の生活を豊かにし、より創作しやすくする環境を作る手助けとなる。クリエーターの選択の幅を広げる、ひとつの希望になり得ると感じています」と話す。
ニコ動でボカロ曲の動画が人気になっても、作曲した「ボカロP」や「歌い手」「踊り手」などとは違い、動画で使用されたイラストを描く「絵師」やアニメーションを作る「動画師」の仕事はあまり注目されない。努力の成果が現金という形で評価される新たな仕組みは、そんな地味なクリエーターの創作意欲もかき立てる画期的な試みといえる。ただし……。
■「ひっそり」と始まったワケ
「実はクリエイター奨励プログラムはニコ動にとって、かなりの大事件なんです。ひっそりとやっていますけれど」。川上会長がこう漏らすように、大きな取り組みだが、声高に喧伝されてはいない。「ひっそり」と始めたのにはワケがある。
「もともとネットには、お金を絡めない、絡ませないという文化がある」。川上会長がそう言うように、タダを基本とするネット上で商業のにおいは忌み嫌われる。「嫌儲(けんもう、けんちょなどの呼び方がある)」という造語が広がるほどだ。
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