画像1:日本IBM社員の田中純氏(41歳)。会社から「改善目標」と称する「ノルマ」を5年間で計6回課せられ、技術系の社員としては存在しないはずの、新入社員以下の職位4に降格という〝屈辱的仕打ち〟も受けた。
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日本IBMは、辞めさせたい社員に「改善目標」と称する「ノルマ」を繰り返し課し、未達成の場合は「降格」「解雇」に至ることまで明記するという、事実上の退職強要を執拗に続けている会社だ。実際に、この「改善目標」を、多いときで年3回、5年間で計6回も課せられ、技術系の社員としては存在しないはずの新入社員以下にあたる「職位4」に降格された中堅の現役社員(41歳)に、その“屈辱的仕打ち”の手口について、一部始終を語ってもらった。
【Digest】
◇原始的な会社にきてしまった…
◇ノルマ未達なら「降格」と脅し
◇辞めるっていう選択肢があるよ
◇後出しジャンケンされて未達に
◇存在しないはずの職位4に降格
◇急に上司がホメ始めたワケ
◇「退職強要のためではない…」IBM
◇原始的な会社にきてしまった…
田中純氏(画像1、41歳)は、日本IBM㈱(以下IBM)の子会社であるロータス㈱に1996年に入社した。同社は有名な表計算ソフト「ロータス1-2-3」や、社内メール「ロータスノーツ」などを開発した企業で、田中氏の職種はITエンジニアだった。その後、2001年にロータス㈱が日本IBMに吸収され、IBM社員に転籍となった。田中氏はそこでカルチャーショックを受けたという。それは、その後の成り行きを暗示させるものだった。
「『えらく原始的な会社にきてしまったな』と思いましたね。なぜなら、ロータスでは、タイムレコーダー会社のアマノ㈱と共同開発したIDカードを使っており、出社と退社の時刻は自動的に記録される仕組みだったのです。当時としては最先端の技術で、残業代も自動的に支払われる仕組みでした。
ところが、IBMに転籍した途端、タイムカードのリーダーが廃止され、コンピューター上に自己申告で入力して提出する仕組みになったんです。『おかしな会社だな』と思っていたら、これは賃金不払い残業のための仕組みだったのです…」
自己申告では、働いた時間通りの残業代は認められない。サービス残業をしない主義の田中氏は、「残業が多くて、ひどすぎる」と感じ、労働基準監督署に申告した。その後、労基署は「指導票」(労働法の趣旨に照らして改善した方が望ましいとして労基署が交付する文書)をIBMに対して出したが、一向に賃金不払い残業が改善されなかったという。
そこで、田中氏は2003年7月にIBM労組に入り、労組として残業代を要望し始めた。それからは請求した分の残業代は支払われるようになった。
それからほどなくして〝異変〟は起こった。
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画像2:日本IBMが田中氏に対して行った退職強要の時系列表
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◇ノルマ未達なら「降格」と脅し
当時の田中氏の仕事内容は、IBMの納品したシステムを使っている会社からの「問い合わせ」に対応する仕事だった。それは、IBM社員と請負会社数社の社員をあわせ、数十人のチームで対応していた。
「問い合わせの内容は、例えば、社内のメールが届かないとか、文字化けして見えなくなった、とか色々ありますね。
問い合わせは月間1500件~2000件。千差万別でFAQはあってないようなもので、次から次へと新しい問い合わせがきます。1件にかかる時間は、早くて数時間、長い時は何十時間もかかります」。
こういう仕事をする中、2005年10月に、突然、田中氏は直属の課長クラスの上司に呼ばれて会議室に入った。そこで上司はこう切り出したという。
「最近、仕事の調子はどう?」
それから上司は「この件は、うまくいっているのか?」などと盛んに話してきて、ホワイトボードも使いながら、「こういうところが問題なんじゃないの?」「もっとこうした方がいいんじゃない」などと、1時間ほど話し込んだ。そして、おもむろに「今、言ったようなことを紙に書いてみたから」と言って、スッと1枚のA4サイズの紙を差し出した。
そこには「改善目標管理フォーム(業績改善進捗管理用)」というタイトルで、その下に、「改善を要する点」という欄があり、フォント6程度の実に細かい字で、「(時間管理)業務の時間管理ができておらず、非常に多くの残業を行っているにもかかわらず、インシデントを処理できていない」「(技術的スキル)既存の問題報告履歴に基づいた調査に終始し、それを超えた調査を独力で行うことがまだ十分できていない」などとある。
そして、「達成すべき内容/要求水準」として、「月34件以上のインシデントを処理する」「お客様のご要望を正しく理解し、ご質問に対してもれなく・的確に、技術的・論理的に誤りなく回答する」「お客様の意図していることを正しく理解するコミュニケーション能力の向上」などとあり、「改善の進捗管理期間(最短で30日、最長でも3カ月とします)」とある。その下には「特記事項」という欄があり、驚くべきことにこう書いてある。
「本プログラム実施の結果、改善が見られない場合には、降格を含む処置を検討する」。
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画像3:「改善目標管理フォーム」ひな形。改善計画には、「具体的な改善点」「達成すべき内容」「評価方法」などを記入する欄がある。その下には、「上記改善計画が達成されなかった場合の対応の可能性」として「解雇」の二字が明記されている。
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◇辞めるっていう選択肢があるよ
この文書を手渡された田中氏は、こう感じた。
「たまったものではなかったです。降格させる気だな、と感じました。こういうことがあるとは、社内で聞いていたので、矛先が私に向いたんだな、と思いました。
何よりも驚いたのは、『降格』の二文字があったことです.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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画像4:IBMマネージャー向け退職勧奨マニュアル。「貴職の強いリーダーシップのもと、強力な推進と予定数のかく実な達成をお願いたします。予定数の達成が、我々リーダーひとりひとりのAccountability(結果責任)となります」などと記載。
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画像5:IBMマネージャー向け退職勧奨マニュアル②。面接対象者の「Bottom15%」とは、同社が年度末に実施するボーナス査定などのための5段階評価で、下から二番目までの社員を指す。全体の10%~15%程度のため、「ボトム・テン」「ボトム・フィフティーン」などと呼ばれている。
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画像6:〒103‐8510 東京都中央区日本橋箱崎町十九番二十一号にある日本IBM本社。隅田川沿いに位置する。付近には東京証券取引所やロイヤルパークホテルなどもある。撮影は2011年5月15日 |
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